「七人のおたく」からオタク叩きの真実がわかった

 山田大樹監督の1992年の映画『七人のおたく』を鑑賞しました。フジテレビ製作のタレント映画の雰囲気が強い作品です。

↑(結末までストーリーが記載されているので注意)

・映画本体の感想
 テレビ局製作の他愛もない作品と言ってしまって良いかもしれません。ただ、山田大樹監督の人柄なのか、アクションコメディー映画の割りに意外と人情的な温かみを感じるシーンが多くてそこが良かったです。
 テレビ局の邦画と言えば大根役者がギャーギャー叫ぶだけの不快な映画を連想される方が多いでしょうが、この映画は踊る大捜査線以降に邦画が劣化する前に撮られた映画なので、間が良い意味で邦画の間になっていて鑑賞に耐える作品です。僕は内村光良が好きなので内村がカンフーで頑張っているシーンが一番見ていて楽しかったです。

・オタク史的にはどうか
 ここからが本題。この『七人のおたく』をオタク的観点から見ていきます。東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件のわずか3年後に上映された作品である以上、おたくがどういう風に撮られているか気になったのです。まずは7人のオタクを列挙しましょう。役名は面倒くさいからいいですよね。

①南原清隆  ミリタリーおたく・サバゲーマー
②江口洋介  コンピュータおたく・飛行機おたく・金持ちプログラマー
③山口智子  旅行おたく・事実上の一般人枠
④内村光良  格闘技おたく・特撮おたく
⑤益岡徹   フィギュアおたく・モデラー・特撮好き
⑥武田真治  アイドル・車改造おたく
⑦浅野麻衣子 無線おたく
 ウッチャンナンチャン・江口洋介・山口智子が主人公格で後はサブキャラ的です。それで作中のおたくの描き方については、基本的に奇人ではあって山口智子は引くんですが「趣味人」や「愛すべきバカ」のような描き方です。格闘技・ジオラマや模型作り・トランシーバー・機械いじりなどそれぞれの特技を生かして悪人(中尾彬)を倒し、赤ちゃんを奪還するというヒーローとして描かれています。これは連続誘拐殺人事件の後としてはとても好意的な描き方で、山田大樹監督に感謝したいです。ありがとうございました。

 そして気になったのがWikipediaにも書かれているコレ、「アニメヲタクが登場しない」事です。実際には同人誌の即売会やコスプレのシーンがあり、そこでウッチャンがアカレンジャーのコスプレをして格闘技の勧誘をしています。ラムちゃんのレイヤーもモブで登場しますし、益岡徹はミンキーモモやプロジェクトA子のフィギュアを飾っているので、アニメヲタクが全く登場しないわけではありません。ただ、七人のおたくの中にはアニヲタは含まれてないわけで、まあ排除されたと受け止めるのも理解できます。あとSFオタクもいません。

・ゼロ年代以前はオタク=アニメオタクではない
 私がこの映画はオタク史的に重要な作品だと思います。それは「一般人がどのようにオタクを見ているか」がわかるからです。

 2000年代には「萌え」や秋葉原やメイドがブームになります。しかしこの映画には上記3つ一切出てきません。アニメも存在感が希薄です。しかし山田監督はそのまま撮影し、観客も特に問題視せず受け止めた。これは重要な描写です。岡田斗司夫『オタクはもう死んでいる』にも書いてあったのですが、萌え時代(オタク第三世代)以前には、ミリタリーおたく・パソコンおたく・アイドルおたく・鉄道おたくもオタクの仲間として包摂されていたんです。それがゼロ年代にはヲタク=アニメ=萌えという扱いになり、オタク論からそれ以外のおたくが無視されていたんです。この映画はそうした萌え偏重に冷や水をぶっかける存在ですね。
 作中にはメガネにチェックシャツにバンダナのアキバ系の格好の人は一人もいません。江口洋介は金持ちの二枚目として描かれています。アキバ系のイメージは、宅八郎やアキバ系ブームから誰かがいつの間にか作った偏見だとわかりました。また、山口は終始ツッコミ役でおたく達以上の活躍をします。山口・江口のコンビは「げんしけん」の春日部・高坂コンビのようです。

・一般人の許容範囲とは何か
 この映画を見て気づいた最も大きな発見がこの段落です。「一般人はオタクを嫌う」というのは、少なくとも30歳以上のオタクなら共通認識でしょう。しかしそれは間違っているのです。
正しくはこうです。
「一般人はおたくではなくロリコンを嫌う」
「一般人はアニメと現実を区別できない」

 七人のおたくでウッチャンが演じるキャラは常に「正義とは何か」を問いかけ、パスカルの「力なき正義は無力である。正義なき力は悪である」を座右の銘にしています。そのため観客は安心して映画を見れます。
 ここにアニヲタが八人目のおたくとしてメンバーに加わると途端におかしくなります。当時は連続誘拐殺人事件のせいで「オタク=幼女キラー」という偏見がありました。そもそも映画の目的は中尾彬から赤ちゃんを取り返すことで、ここでアニメヲタクが入ると当時の観客が混乱してしまうのです。ここで3つ目の発見もあります。
特オタは例外

・一般人はリアルを重視する
 一般人はリアルの世界を生きています。旧世代のオタクは妄想の世界を生きています。だから、一般人はミリタリー・格闘技・アイドルなら理解できるし、特撮も実写なので理解できる、実物や特撮のフィギュアなら理解できる。コンピュータは抽象度が高いのでギリギリかもしれません。カメラおたくなんかはインスタ映えで一般人がおたくを飲み込んでしまいました。撮り鉄のように実社会で迷惑をかけている人以外は、一般人は比較的おたくに寛容だと言えます。
 一般人は空想の世界を理解しないので、アニメヲタクやギャルゲーヲタクに厳しいのです。そして虚構と現実を理解しないので、女性アニメキャラを好きな人を嫌い、ロリキャラを好きな人を性犯罪者と同一視するのです。

 以上が私が「七人のおたく」を見て気づいたことです。まあ映画自体としてはあんまり面白くはないだろうけど私は好きです。補足として、以上の論は2016年「君の名は」以降に一般人も全員アニメ映画を見るようになった時代には当てはまらないとは思います。そのため、理不尽なオタクバッシングをする人は年齢層がどんどん上がっていると予測されます。また、なぜ宮崎駿映画が一般人に受け入れられたのかについては、今回の論の範囲を越えるので保留にします。
以上です。

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