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『不登校』と『学校に行かないこと』

   不登校とはなにか。はじめにこの問題について考えていきましょう。


子どもや教育をめぐる問題は、不登校以外にもさまざまあり、
それぞれ名前がつけられています。
たとえば、いじめ、学力低下、非行などがそうです。
この他にも、ひきこもり、ニートなどの言葉も浮かびます。

こうした言葉を用いる際、私たちは自分の経験や憶測で、だいたいこんな意味だろうと考えます。

だけど、どのような対象を扱うときでも最初に注意しなければならないのは、
対象を表す言葉の意味なのであります。

その言葉はその社会で通常どんな意味で用いられているのか、
また、人々はその言葉にどんなニュアンスをこめて用いているのか。


  子どもや教育の問題に関する言葉の意味を理解する上で、まず見ておきたいのは各省庁が実施する公式統計調査で用いられている定義であります。

新聞やテレビで報じられるざまざまな教育問題の動向は、この統計の数値が用いられています。
たとえば、2008年の新聞には『不登校2年連続増し、文科省調査、中学生は34人に1人』という記事が掲載されたことがあります。


この記事に掲載されている不登校の割合は、学校基本調査の数値に基づいています。
学校基本調査は、文部科学省が毎年実施するもので、各学校と教育委員会は児童生徒数や教職員数など、さまざまな項目について各自治体の首長に報告し、それが文科省に挙げられて公開されています。

   この調査では、前年度に年間30日以上欠席した児童生徒数を長期欠席者数として統計しています。
その際、各長期欠席者の欠席理由を『病気』『経済的理由』『不登校』『その他』の4つのいずれかに分類して調査票に記入することになっています。


つまり、『不登校』という言葉は、学校基本調査では長期欠席の理由のひとつとして登場します。

  不登校とは、長期欠席のなかで『なんらかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいは登校したくともできない状況にある者』とされています。


いま述べたように、統計上は不登校とは長期欠席の理由のひとつであります。

ただし、このような説明は、あくまで学校基本調査の定義に基づいた答えでしかありません。

もっと突っ込んで不登校とは何かを考えてみる必要があります。


長期欠席の4つの理由をよく読むと、いろいろ疑問がわいてきます。
たとえば、最初は病気で休んでいたが、そのまま病気が治っても学校に出てこないケースは、4つの理由のうち、どれになるのでしょうか。

   不登校の定義の説明の但し書きには『ただし、病気や経済的な理由による者を除く』とあります。
しかし、実際には病気と判断していいのかどうか、迷うことも多いでしょう。

もしみなさんが学校でこの調査の集計担当だったら、複雑な背景を持つ長期欠席者をどの理由に振り分けるか、かなり頭を悩ませるのではないでしょうか。


けれども、これは担当者の問題というよりも、統計とは本来的にそうしたものだと考えた方がよいです。

新聞などで報じられるさまざまな統計の数値の背後にあるのは、現場担当者による地道な集計作業であり、
そこには担当者の判断がどうしても介在します。

また、調査を取りまとめる各自治体の担当部局の考え方などに影響されることもあります。
このように、統計とは実に人間くさいものなのです。

  ここで、あらためて『不登校』と『長期欠席』と『学校に行かないこと』の3者の関係について考えてみます。

不登校は他の理由と境界があいまいなものの、長期欠席のひとつであることはわかりました。

では、学校に行かないことと長期欠席とのあいだには、どのような関係にあるのでしょうか。
はっきり言って、この2者の関係がまだよくわかりません。

結論を言えば、『長期欠席』と『学校に行かないこと』は、同じように見えますが、完全に一致するものではありません。

というのは、学校に行かない子どもの中には、さまざまな理由で『長期欠席』にあたらない者がいるからです。

まず思い当たるケースは、就学義務を免除あるいは猶予されている子どもです。
欠席とは就学の義務を前提とした概念です。
したがって、その義務そのものが免除されたり、
猶予されたりしていれば欠席にはなりません。

就学免除や就学猶予の対象となるのは、病弱、発育不完全その他やむを得ない事由のために就学が困難とされている子どもたちです。


2つ目のケースは、日本に住んでいる外国籍の子どものうち、学校に行かないでいる子どもたちです。
彼らも、学校に行かなくても欠席にはなりません。なぜなら、彼らも就学の義務を課せられていないのです。

もっとも外国籍の子どもが公立小学校・中学校への就学を希望する場合には、これらの者を受け入れることとされており、受け入れたあとの取り扱いについては、授業料不徴収、教科書の無償給付など、日本人児童生徒と同様に取り扱うこととなっています。

そして、外国人の子どもの『不就学者』の割合は近年増えています。

    いろいろ調べてみますと、日本には長期欠席にカウントされない『学校に行かない子ども』が相当数います。

ほかにも停学、伝染病などで出席停止になっている場合などがあります。

そしてその一方では、先に述べたように長期欠席の中のかなりあいまいなくくりとして、不登校の問題があります。


   『学校に行かない』という問題について、われわれはすぐに『不登校』の問題だと考えがちです。
だけど、これまで見てきたように『学校に行かない』という問題は、より多くのさまざまな問題を含んでいます。


    学校に行かない子どもたちを全体で眺めてみると、学校に行かないことで十分な教育を受けられないでいるケースが多いことに気付かされます。

日本に住む外国籍の子どもの問題はその典型例です。
また、1979年に養護学校の義務制が実施されるまでは、重い障害を抱えた子どもは就学義務を免除または猶予される者が数多くいました。

この年を境にしてその数は大きく減少しましたが、
それは言い換えれば、その時点まではこうした子どもたちの教育の機会が大きく阻まれていたことを意味します。


不登校の子どもにも、フリースクールなどに通っている子どもはある程度教育の機会を得ているかもしれませんが、
どのような支援も受けられず自宅にいる子どもたちがかなりいます。


学校に行かないでいる外国籍の子どもなどと同様に、不登校の中にも、教育の機会を奪われている子どもがいる可能性が高いです。


しかし、学校に行かない子どもの総数を正確に把握することは難しいです。


  この国の管轄下にあるすべての子どもの権利の尊重および確保という観点から見た場合、
私たちの社会はどのような状況にあるのか。

学校な行かない子ども全体を見渡していくことにより、私たちはこうした疑問につきあたるのです。

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