丫人 3
声の主のおっさんは語り始めた。
俺が生まれたのは、1880年や。明治時代、大坂の商人の第三子として生まれた。兄貴が家業を継ぐので、俺は13歳の頃に、跡継ぎに恵まれんかった知り合いの商家に売られたんや。売られたっても、その家の跡継ぎになれるって話やから、当時にしたらええ条件やったんや。
その家に入って翌年には、日本が清に宣戦布告したんや。今で言う中国やな。今では日清戦争って呼ばれているけど、このとき、奉公先の商売が当たってな。飛ぶように品物が売れたんや。戦争特需ってやつやな。
で、22歳で俺が頭取になったんや。その時日本は戦争ムードが高まってきてたんや。誰もがイケイケドンドンって状態やった。そうしたら、二年後に今度はロシアと戦争を始めたんや。このときさすがに負けるかなーと思ったけど、これにも日本は勝ってしまったんや。俺の商売も絶頂と言える時期になってな、大坂界隈では名の知れた人物になったんやで。
その後第一次世界大戦と呼ばれる時代に入って、もう日本は負けなしの状態やったんや。このときも売れ行きがよくなると思ったんやけど、いまいちの結果になったんや。みんな浮かれてたんやけど、肝心の金が無かったんや。それまでは手持ちが多かったはずやのにな。これはちょっとおかしいなーと思ってたんや。
そこで、商売で儲かった金の一部を溜めておくことにしたんや。もしかしたら、戦争に負けるかもしれん。負けたら国に色々没収されるかもしれんと思ってな、地下室を作って、そこに隠しておいたんや。
そして、40歳になったとき、世界恐慌が始まったんや。今では恐慌ってわかるけどな、当時は意味がわからんかった。なんや知らんけど、みんな貧しくなっていったんや。金の価値はどんどん下がっていくしな。俺が隠してたお金も二束三文になってしもた。
これからどうやって生きていこうか、商売をどうしようかと思ってたんや。俺はそこの家のお嬢さんと結婚して子どももおった。どうやって食べていくか、もう死ぬしかないんかと悩んでたんや。
ぼーっとしてたんやろうな。道歩いてたら、気づいたら路面電車の線路の上やったんや。電車来てることに気づかんかったし、運転士もよそ見してて、もうすぐぶつかるってところでハッと気づいたんや。
そうしたら、どこからともなく声がしたんや。「おっさん前に飛べ!」って。よーわからんけど、前に飛んだら、頭打って意識失ったんや。そして、気づいたら見慣れん場所に連れられてて・・・
そっから先はおっさんと同じ状況や。なんや訳分からんし、小さくなってるって言われたし。当たりを見渡したら、多分工場やったんや。ネジや南京錠がめっちゃ大きかったんや。
そんなことすぐには信じられんやろ?俺は外に飛び出したんや。そしたらいきなりそこが見えんくらいの谷があって、そこにいくつも橋が架かってるんや。なんやこれ?と思ったわ。そしたら、溝の蓋やった。大して深くない、家の前の溝が谷にみえるんやからな。
そしたら、急に世界が暗くなってな。上を見上げたら針みたいなんがぎょーさんあったんや。なんやこれ?と思ってたら、叫んでくれたおっさんが走ってきてな、思いっきり手引っ張られて工場内に戻されたんや。そしたらな、目の前に大きい顔が見えて、おっさんが食われてしもた。
多分、あれはネコやったと思うんや。
それで、俺は悟ったんや。大分小さくなってるって。そんで、外に出たら簡単に食われてしまうんやと。
その時、思い出したんや。人が小さくなる現象、矮人化っていう話を。何でも戦争で日本が相手の戦力を削るために、人を小さくする実験をしてるって。その実験が近所で行われたんかと思ったわけや。
どうや、これで小さくなった話がよーわかったやろ?
おっさんの説明は流暢で、妙に説得力があったが、色々疑問は消えていない。そんな昔から矮人化があるのなら、もっと有名になっていたもおかしくなさそうだが?どうして今の今まで知らなかったのだろう?
今度は矮人化がどんなものか、俺の経験から説明したるわ。
おっさんは、また語り始めた。
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