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編集者と本をつくるということ
こちらの記事は、2024年7月発売の小鳥遊著作「『発達障害』『うつ』を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 『生きづらい』がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方」(ナツメ社)に関連したものです。
見本ができたので、取りに行きました
2024年7月11日発売の著書の見本ができたので、版元であるナツメ社に受け取りに行きました。
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見本の受け取りとともにその他必要な用件を済ませて、お昼ごはんとその後のお茶を編集者さんとご一緒しました。
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二人の編集者さん
一般に、書籍製作にたずさわる編集者さんは1人です。しかし、今回のナツメ社さんの本は「ナツメ社の編集者」「協力する外部の編集者」という2人体制で製作しました。
ナツメ社の編集者のSさんは、ナツメ社生え抜きで、15,6年前に発達障害に関する本の企画を立ち上げ、以来多くの発達障害関連の本を送り出してきました。
協力する外部の編集者のHさんは、そんなSさんと立ち上げ当初から発達障害に関する本の製作にたずさわっている、いわばSさんのバディです。
15年来のバディの信頼関係
喫茶店でコーヒーを飲みつつ、編集者のお二人とお話をしている中で、その信頼関係がうかがえるやりとりがありました。
Hさん「ナツメ社さんは、タイトルや表紙で盛り過ぎないのがいいんですよ~」
Sさん「え~そこは逆に改善の余地もあるのかなと思ってるのよ~」
Hさん「いや、そこがいいところなんです!」
今回の本のタイトルや表紙に私はとても満足していますが、言われてみればたしかにキャッチーで盛ったような印象はありません。
キャッチーなタイトルの本は、それはそれでアリだと思います。一方で、届けたい人に届けるために本の内容を(盛ったりせずに)的確に伝えるという真摯な姿勢もまた大事だなと思います。
その姿勢をHさんが十分理解し共感している様子が見てとれ、(執筆が終わった)今さらながら著者として頼もしさを感じました。
著者と編集者の役割分担
他の著者の方々は分かりませんが、基本的に私は編集者さんを信頼することにしています。自分の書きたい内容について「それはちょっと変えた方が…...」というフィードバックがあった場合、その意見を取り入れる方向で考えます。
なぜなら、著者には自己の主観で物を書くという役割が、編集者は客観的なアタマでその濃淡の加減を調整するという役割があると考えているからです。
2年弱という、書籍製作期間としては比較的長かったその過程で、幾度となくこういったやりとりがあり、その都度「ああ、そうだよなぁ」と思うことしきりでした。大いに助けられました。
著者のフォローという役割も
そんな執筆期間、長かったからこそ色々な考えが頭をよぎります。「これでいいのだろうか」「読んでくれる方々に価値を提供できるのだろうか」と、自信がなくなり、不安になることもありました。
そんなとき、私は遠慮なく編集者のお二人にその気持ちを開示していました。そして、その都度、落ちかかった私のメンタルのフォローをしていただきました。
実は、見本を受け取りに行った2024年7月1日、私は緊張と不安の真っただ中にいました。「売れるんだろうか」「内容に満足してもらえるだろうか」そういった不安と緊張が頭の中をグルグルと回っていていました。
たまらず、編集者のお二人とお会いして開口一番、不安と緊張についてお伝えしました。
本来なら、執筆が終了し校了した時点で、編集者は著者と何か協力して仕事をすることはありません。「そうなんですねー、まぁ出版前は緊張しますよねー」と流しても別にいいのです。
でも、今回の編集者のお二人は、そんな私を受け止めていただき、色々と話を聞いてくれ、その不安や緊張はどこからくるのか、それに対してどうすれば良いのかを一緒に探ってくれました。
「ヒット作」の亡霊
この不安と緊張は、じつのところ自分でも意識していながらなかなか人には言い出せなかったものでした。それは、「ヒット作の亡霊」です。
私は、前共著作「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」というヒット作に恵まれました。2024年2月時点で11万部を超えており、ビジネス書としてはヒットしたと言えます。
今回の本も方向性が似ていることもあり、どうしても前著を強烈に意識してしまいます。「それに比べて、全然売れなかったらどうしよう」「前の本は良かったけど、今度の本はそうでもないね、とか言われたくない」という気持ちがありました。前著がある意味亡霊のように私にのしかかっていたと言っても過言ではありませんでした。
おそらく、そういった事情はすぐにお二人に伝わったのだと思います。そんな私の不安と緊張を和らげる話をたくさんしてくれ、次第に薄れていきました。
発達障害関連の本を長年多く手がけてきたという実績と、そんなお二人と一緒に作ったという事実もそれを後押ししてくれました。
そして何より、「タイトルや表紙で盛らずに勝負する」というSさんの姿勢と、それに共感してどこかしら誇りのようなものを持っているHさんを見ていると、「売れようが売れまいが、このお二人と一緒に本を作れただけで良し!」と思えるようになりました。
スピッツの草野マサムネさんの話
そういった話の中で話題に上がったのが、スピッツの草野マサムネさんのニュース23でのインタビューのエピソードです。編集者のお一人Hさんが、帰ってからわざわざ調べて送っていただきました。
ヒット作を出し続ける重圧は?という質問に対する草野さんの返答です。
苦しいっていうのは全然ないです、
バンドが続けられてれば
お客さんが減っちゃってすごくキャパの小さい所に
また戻ることになっても
それは元の形に戻るだけだし
注目されなくなったら
ずっとロビンソンと楓で営業してもいいし(笑)
自分に当てはめるのもおこがましいのですが、あえてダブらせて考えると、「信頼できる編集者さんと一緒に本をつくることができれば、それで良し」ということになるかと。
もちろん、仕事として書いている側面もあるので、本を出すからには売らないと出版社も自分も困るんですが、それによってメンタルが不調になってしまっては元も子もないわけです。
そんな感じで、著者のメンタル的なフォローもしていただきました。
編集者と著者は、商品をつくって売るためのビジネスパートナーに過ぎないのかもしれません。ただ、あしかけ2年弱の執筆期間でのやりとりの中で醸成された信頼関係(少なくとも、私から編集者のお二人への信頼)は、無形の財産として自分に形成されたなと感じています。
私にとって、編集者と本をつくるということは、そんな優しい世界を現実にしてくれるものだと思っています。