遺産を蹴って逃げ切ることを選んだ。
唐突ですが、私の実家は金持ちです。
もう1代遡ると更に金持ちです。
フツー家を買うのって「人生で一度の大きな買い物」だと思うのですが、家をホイホイ買う人たちです。
億単位の財産を持つ親族もいます。
私は実家でシンデレラをしていた。
粗末な服を着て、仕事に行きながら家事をすべてこなしていた。
「誰の金で洗剤が買えるんだ!」
「誰の金で水が使えるんだ!」
暴言を吐かれながら。
チチは守銭奴だった。
私は「金」にか価値を見いだせない上、暴力には目をつむるおかしな血筋から逃げ出したかった。
祖母の口癖は、
「〇〇や、人生お金だよぅ。
お金がなきゃ何にもできないからね」
チチが私に暴力振るう様子をただ傍観していた祖父母。
私の実家には私が夜逃げを決意する頃、すでにチチと私しかいなかった。
ハハと妹は出ていっていたから。
チチは私に生前贈与をするつもりでいた。
「俺が死んだとき相続税でほとんど持っていかれちまう!
お前に生前贈与する!」
正直、嬉しくはなかった。
矛盾しか感じなかった。
ただ単に、「他人にはくれてやりたくない」のだろうと思った。
私は夜逃げし、銀行へ向かった。
生前贈与用の口座を抹消するためだ。
金など受け取っては「連絡先を教える義理が発生する」「暴力家庭と繋がり続けるのは嫌だ」。
私には生前贈与などただのチチからの取り引きにしか見えなかった。
「すみません。
こちらの口座、抹消してください」
銀行でチチが知る私の口座を抹消し、私は晴れ晴れとした。
これで切れた。
もし、チチに見つかっても私が住まいや連絡先を教える義理も義務も無くなった。
私は仕事もしてるし生活はちゃんと送れている。
遺産なんかいらない。
金で私の人生買い取ろうとするな。
気持ち悪い。
私は当時の自分の判断に間違いはなかったと思っている。
特に贅沢する趣味もないし、質素ながらも栄養の取れる食事は作れる。
金で人の人生が買えると思うな。
何百万、何千万出されてもそれは変わらない。
私の人生は金じゃない。
金でしか幸せを感じることができないあの血筋とは私は違う。
人を学歴、勤め先、年収、乗っている車で判断するカレラにも心底愛想がつきた。
ものさしが違うのだ。
私の人生は深い思考と経験と感動で作られる。
金ではない。
私は遺産を蹴り逃げ出すことを躊躇わなかった。