18年前のおっちゃんにありがとう。
最近、20代はじめの頃のフラッシュバックに苦しんでいるけれど、そのフラッシュバックの中に一つだけ幸せな記憶が混じっています。
時代が少し前にズレるのですが、10代のときに私は日雇い労働をしていました。
その日の現場はある食品加工工場。
一応、自作のおにぎりは持って行ってたのですが、私は要領が悪いからなかなかレーンから離れられなくて…。
どんくさいし。
みんな、お昼の時間にはうまいことスッと抜けてご飯を食べに行くのに。
色々な現場に行っていましたが、朝6時台に家を出て夜8時に帰る日雇いって若かった自分にもキツかったみたいで。
その食品加工工場でレーンから抜けられなかった私はお昼が食べられず、休憩もとれず、仕事終わりに敷地の隅でポロポロ泣いていました。
一日お昼が食べられなかったくらいでさ。
でも辛くて辛くて、堪え泣きをしていました。
事務所からもれ出る明かり。
小柄なおっちゃんがひょいっと私の前に出てきました。
その土地の訛りで、
『おっちゃんここの事務員や。
何泣いとるんや?お昼あたらんかったんか?
おっちゃんのおやつやけどな、やるわ』
そう言って茶色いお饅頭を私の手に握らせました。
言っちゃいけないけど、小さなお饅頭でした。
女の手のひらにのせても小さなお饅頭。
う…、
う……、
こんなちっこいお饅頭なんか…
こんなお饅頭なんか…
お饅頭なんかぁぁあ…
お饅頭なんかぁぁあぁぁあぁっ…!!
堪えた泣き声が、激しい泣き声に変わった。
まるで水風船がパンッと割れたかのように。
わぁぁああっ…あぁぁぁあ…!
泣きながら私はお饅頭を食べました。
いまでも茶色いお饅頭を見るとあの夜を思い出します。
私のことだから、きっとおっちゃんに『ありがとうございます』って言えたと思うけど、泣きわめいているだけに見えちゃってたかもなぁ…なんて。
当時の日雇い労働は自分みたいに家庭に問題がある子や、障害を持ちながら隠して働いている子もいて(今も…なのかな?)、『私だけじゃないんだからしっかりしなきゃ』と気を張っていたのも本当は苦しかったのかもしれません。
しっかりしなきゃ。
しっかりしなきゃ。
し、しっかり……
……………。
あれから、18年。
おっちゃん、ありがとう…。
きっとあの日、おっちゃんが声掛けてくれなかったら、私、人生投げてたと思う。
おっちゃんがくれたお饅頭、私一生忘れないよ。
声を掛けてくれたおっちゃんがいたことも。
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苦しいフラッシュバックとフラッシュバックの間に、『カポッ』とこの茶色いお饅頭が出てくるんです。
正直、なんでこのタイミングであのときのお饅頭が目の前に現れるのかわからないのですが。
きっとこの記憶は私にとって『私が人間でいる理由』みたいなものなのでしょうね。
目の前がお饅頭で塞がるので(直径15センチに巨大化している)最初はビックリしましたが、この記憶は本当に失くしたくない大切な記憶です。
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