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特スキの報告+ざっくり日本語学コラム【短編小説神屋宗湛、コーパスで「口こみ」】



特スキ報告


こんにちは。
ななくさつゆりです。

今週もご報告です。

毎週木曜日にお届けした短編小説『神屋宗湛 - 砂浜に町を描いた男。』ですが、今回も特スキ(特にスキを集めた記事)に選ばれました!
ありがとうございます。

こちらの『神屋宗湛 』は、中世博多を舞台にした短編小説です。
当時の海風に馴染む博多の雰囲気を感じられる情景をご用意しております。

歴史の予備知識不要!
ぜひ、中世博多の気風きっぷに触れてください。

🎉

ちなみに、『神屋宗湛 』短編の記事だけで、同時に2本の特スキをいただいています。
また、合計スキ数のお祝いメッセージもいただいたので、サムネイル画像にこっそり追加しました! 右下の方にこっそり。

『神屋宗湛 』、先週でいったんの一区切りです。
まだ読まれてない方はぜひ読んでみてください。

今週木曜日はまた新しい短編小説をお出ししてまいります。
どうぞよろしくお願いいたします。



ざっくり日本語学コラム #3


ざっくり日本語学コラム~🎉🎉🎉
「口こみ」っていつから?

毎週水曜日のコラム。
今回はコーパスの回です。

コーパスについておさらいすると、ざっと以下の通り。
ひらたく言えば、文章や発話のビッグデータのことです。

これがあることで、過去の作品やわたしたちの会話でふだん使われている言葉の分析が、ぐっとやりやすくなります。

コーパス … テキストや発話を大規模に集めてデータベース化した言語資料。書き言葉や話し言葉の資料を体系的に収集し、研究用の情報を付与した言葉のデータベースを言語コーパス (language corpus)と呼びます。

中でも、BCCWJが公開している現代日本語書き言葉均衡コーパス「少納言」や、Aozorasearch 青空文庫全文検索はとても便利です。

さて今回は、昔の資料を調べていたときに見かけたフレーズがいつから使われいたのか気になったので、調べてみた回です。

お題は、「口こみ(口コミ)」というフレーズ。
結構最近の言葉な気がしますが、いつから使われている言葉なんでしょうか。

📚

さっそく、少納言で調べました。

大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所と文部科学省科学研究費特定領域研究「日本語コーパス」プロジェクトが共同で開発した『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(BCCWJ:Balanced Corpus of Contemporary Written Japanese)少納言。
『現代日本語書き言葉均衡コーパス』少納言。

「口こみ」で調べてヒットが4件。
もっとも古い出版年は2001年でした。

このコーパスが1971年〜2008年あたりを範囲に取っていることを考えると、まァこんなものかなと思ったところ。
直観的にもそれほど違和感はありません。

ただ、もっと古いものがあるんじゃない? とも思いました。

「口こみ」というフレーズは、私的に「口コミ」という表記で使われるイメージがあります。

ということで、「口コミ」で調べ直します。
さぁ、どうかな!

大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所と文部科学省科学研究費特定領域研究「日本語コーパス」プロジェクトが共同で開発した『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(BCCWJ:Balanced Corpus of Contemporary Written Japanese)少納言。
『現代日本語書き言葉均衡コーパス』少納言。

いっぱいヒットしたので、一部の抜粋です。
1992年の用例が見つかりました。
用いたのは、荒巻義雄
SF小説の大家ですね。

ということで、コーパスを調べた結果、「口コミ」というフレーズは、少なくとも1992年ごろには使われていたことがわかります。

📚

私がこの「口コミ」という言葉を聞いて最初に思い浮かべるのは、ポケモンです。

物心つく頃には大ブームとなっていたポケットモンスターですが、最初の赤・緑バージョンが発売され、社会現象となったことについて、昔から私の周りでまことしやかにささやかれていたのが、この言葉でした。

裏技とかバグがいっぱいあってね、子供たちを中心に口コミで全国に広がっていったんだよ。

そういううわさはあちこちで耳にしますし、そんな言説を載せたネット記事もいっぱい目にしました。

ちなみにバグがいっぱいあったのは本当です。
レベル100の裏技とかね。
合言葉は「どうぐの7ばんめ」と「セレクトボタン」です。

ともあれ。
そんなこともあり、この「口コミ」というフレーズは私の中で妙な存在感を持っています。

そして、今回コーパスを用いてしらべようと思ったきっかけが、こちら。


前原町誌。表紙の怖さに定評がある糸島の地方自治体誌。

前原町誌まえばるちょうし

平成3年発行。
現在の糸島市の前身にあたる前原市のさらに前。
まだ「前原町」だったころに編纂された自治体誌です。

いまや、糸島のひとでもこれを知っているのは、古い方の糸島のひとと言えるのかもしれませんね。
私は実家にコレがありましたから、よく手にとって読んでいました。

糸島方面の歴史が小学生でもわかるくらいに絵付きで解説されていたり、糸島方面の民話が読みやすい文章でつづられていたりと、とにかく私好みな町誌です。
福岡の方で独り暮らしをはじめるときに実家から持ち出しました。

で、先日。
これを読み返したとき、見かけたんですよ。


糸島の伝説は悲話が多いと言われています。
私のおすすめエピソードは「幽心さん」。

ほら、「口こみ」

最近は「口コミ」漢字+カタカナの表記が多いですから、「口こみ」漢字+ひらがなの表記はなんだか素朴な印象を受けて新鮮ですね。

で、問題は、この町誌、平成3年(1991年)発刊なんです。
コーパスで見つけた1992年とはほぼ同時期ですが、一年古い。

コーパス構築のため収集された言語データだけでなく、福岡の片隅で編纂された誌面にも用いられていたことから、口こみというフレーズは1990年ごろにはもう広く浸透していそうな気がしてきましたね。

📚

とまァ、ひととおりコーパスで調べたところで満足し、
90年代くらいか、なるほどなァ、なんとなく納得……なんて気持ちで、少納言を閉じようとしました。

閉じようとしたら、

国会会議録、第077回国会、出版年“1976”年

昭和51年(1976年)!?
1991年よりもずっとずっと前!

一気に15年も遡れることがわかってしまいました。
「口こみ」という言葉がさらに昔から使われていた言葉だということがわかったのでした。

で、ふと気になって「口コミ とは」でGoogle検索をかけます。
私は気になるフレーズを見かけたとき、よく「●● とは」で検索します。

結果、Wikipediaがヒットしました。

1960年代から使われた言葉で、大宅壮一の造語とされる。

宮﨑悠二「1960年代初頭における「クチコミ」の概念分析

由来あり。ソースつき。
ちーん、と鳴る音が聞こえてきます。

偉大ですね、Wikipedia。
私もまだまだ修行が足りません。

ただ、この大宅壮一氏の「口コミ」由来説ですが、最初は今でいう口伝いの個人間コミュニケーションを意味する言葉としては使われてはいなかったらしく、後の書籍などの本人の解説で「うわさや評判が広まる」という意味が定まっていったようですね。
(参考:宮﨑悠二氏、1960年代初頭における「クチコミ」の概念分析

まァ、気になっていた「いつから使われていたのか」がしっかりと特定されて、ちょっと気持ちが晴れました。

そして今に至るまで、「個人間でうわさや評判が広まる」という意味が大きく変わることはなく、現代でも使われるフレーズとして「口コミ」が定着していることも、コーパスによって見えてきました。

📚

さて、今回のコラムは「口こみ」という言葉を見かけたことから「これっていつから使われていたんだろう」を調べた回でした。

最後はWikipediaにひっくり返され論文を叩きこまれたオチでしたが、データとして言語の所在がわかる、検索もかけやすいというこのコーパスは、とても地に足のついたデータベースでかなり好きですね。

ちなみに、もっと遡れるかなと、Aozorasearch 青空文庫全文検索でも「口こみ」検索をかけてみました。

が、ヒットは0件でした。

「口こみ」は、青空文庫に掲載の文学作品の頃はまだ使われていなかったフレーズのようです。

📚

さて、今回のざっくり日本語学コラムは以上です。

「口こみ(口コミ)」のはじまりについて、
「もっと古い出所知ってるよ!」
「もっと昔の本で見た事あるよ!」
という方はぜひ教えてください~。

今後も、小説やエッセイに加え、こうしたちょっとした文章表現こぼれ話もお届けしてまいります。

読書玄人の方も、普段は読書なんてあまりしないという方にも。
試行錯誤しつつ、皆さまに晴れやかな読書体験をお届けしてまいります。

ぜひ、スキやフォローや拡散をお願いいたします。
以上、ほぼ日記のような、ざっくり日本語学コラムでした。

今日もよい一日を。

ななくさつゆり


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ななくさつゆり
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