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「自然栽培でお茶を作る」仙霊茶①茶摘み前の大切なこと

夏も近づく八十八夜♪

八十八夜からの数日間。
お茶農家さんの作業や製茶工場の稼働がもっとも集中する5月。
ド素人で断られることも承知、けれど行くなら農家さんが本当に大変な時期の現場を間近で見せていただきたいと思った。
一年で最も大切なこのお茶摘みシーズンに、とあるお茶園にお手伝いを願い出たが、快く引き受けてくださった。
そこは、自然栽培でお茶を育て製茶し商品化、販売まで一貫して行うお茶園、兵庫県神河町の山間部に位置する「仙霊茶」さん。

なぜ、このお茶園に来ることになったか、いきさつや私が感じる魅力についてはまた後々書いていきたいけれど、長くなりそうなので、まずは実際に体験した作業工程順に書いてみようと思う。

こんな方に読んでもらえたら、多分共感してもらえるところもあるかなと思う。

☆お茶が好き(煎茶でも紅茶でも)
☆緑茶と紅茶の違いを知りたい
☆お茶作りに興味がある
☆自然栽培やオーガニックに興味がある
☆農に興味がある
☆自然、特に山や川が好き
☆カフェでテラス席をつい選んでしまう
☆動植物が好き

収穫前の大切な作業<草引き>

現地に着いて、茶畑を眺めながらお昼ご飯をいただいてひと息ついたら、早速茶畑へ。
まずはお茶の収穫前に、大切な作業がある。
ずばり「草引き(草刈り)」。
これは自然栽培を実践しているからこその作業かもしれない。
茶畝はもちろんのこと、周辺を含め敷地一帯が無農薬、もちろん除草剤も撒いていない。
そのためチャノキも元気だけれど、他の野生植物も負けずにかなり元気だ。
あたたかい雨も潤沢に降り、日差しも強まってくる八十八夜から立夏を越えたお茶摘みシーズン。
もちろん他の植物にとっても育ちざかりシーズン。
盛り盛りと生えてきて、彼らの姿も日に日に色濃く変化していく。

全ては手作業

それを草刈り鎌などで刈り取っていく。
農家さんは「草引き」と呼んでいたけれど、ニュアンスとしてはこちらこそ「草刈り」だった。
と言うのも、野草たちもぐんぐんと成長していくため、手では根元から引き抜けない位頑丈に木質化し、草刈り鎌なしでは太刀打ちできない箇所もままとある。
しかも野茨に関してはごつい棘が手に刺さって割と痛いので革手袋が必須だった。

しかも前日に丁寧に草引きしたつもりでも、翌朝にはひょこっとお茶の新芽と肩を並べて顔を出す野生植物。

チャノキ上部に横這いに伸びてチャノキに絡まる蔦

それらを地道に引き抜いたり、刈り取ったりしていく。
重ねて言うが、それらは手作業だ。(人が歩くところの草刈りなど一部の作業を除く)
当たり前だが、手摘みだと人の目と手で新芽を選んでピンポイントに収穫できるので他の植物を摘んでしまうことはないが、茶刈り機だとチャノキ上部全体の表面に刃を滑らせるように刈っていくので、基本は刃の高さ調整となる。
チャノキの新芽の背丈以上に成長してしまった草たちが、一緒に刈られて茶葉と混ざらないようにそれらを丁寧に取り除いてやらなければならない。

仮に他の草が混ざったとしても、繊維の質や重さ、水分量などが違うため製茶やクリーニングの過程で茶葉のみになるが、葉汁が混ざればその分雑味の原因につながってしまうので、極力取り除いていく。
(工程についてはまた後々)

草引きした後のチャノキの表面
だいぶ新芽が出そろっている

とにかくこの草引き作業が、広大な茶畑を前に延々としかし着々と続けられる。
山に囲まれた環境ならではの、自然栽培ならではの追いかけっこ。
けれど、私はこの作業がクリアな美味しいお茶作りに直結している気がしてとても嬉しい時間だった。


草刈りの対象、ノイバラ。
鋭い棘に反して白い花は可憐で、実は生薬にもなるそうだ。


地下茎で広がる中々の強者、笹

草引きをしていると、色んな動植物にも遭遇する。
生えているのは例えば、主に蔦(ツタ)や野茨(ノイバラ)、笹(ササ)、芒(ススキ)、羊歯(シダ)植物などだ。
これらがチャノキの幹や枝を絶妙にかき分けて生えている。
中高木が生い茂る山のすぐ脇まで茶畝は広がっているので、山林の植物からのこぼれ種から伸びたと思われる若木なども。
畝がないところ(つまり人が歩く道の部分)はもちろん、茶畝の中からも容赦なく沢山生えていて、畝の下にしゃがんで覗き込むとこれから数日後には伸びる気満々の草も沢山ある。

チャノキはとても強い。
ちなみに世界には樹齢1000年以上とも言われるチャノキもあり、スリランカでも樹齢70~80年のチャノキは普通で、今日でもバリバリ現役で見た目からは衰えは全く感じられないくらいだ。

畝間もあっという間に草で覆われていく

そして、その強さ故に、強い野生植物が周辺に根を張ってしまっても、ちょっとやそっとじゃ弱らない。そういう逞しさを感じた。
寧ろ、野生植物たちと共存しているようにも感じられた。
そうだった、チャノキはもとは中国の岩肌に生えていたような木である。
「チャノキが人間にお茶の新芽を提供してくれる」という事情を抜いたなら、チャノキは本当は周辺に何が生えようが気にしないのかもしれない。
そう思わせるほど、しなやかな枝ぶりで艶やかな葉を茂らせるチャノキ達だった。
けれど、私たちはそのチャノキの新芽を頂くために古くから現代まであれこれ試行錯誤して、実際に素晴らしい恩恵を受けている。
世界的に見てもチャノキは人間の都合で植栽されたものがほとんどだけれど、そうして成長して生き抜くことを良しとしてくれているようにも思えた。

ああ。私がお茶に魅了されているのは、この強さゆえなんだな、と再認識した。
野性味あふれるこの植物と人の手仕事がかけ合わさった時に初めて生まれる滋味深い味わいの数々のお茶。
このお茶が、人の心と身体に施してくれる健やかな作用と純粋な喜び。

そんなことをぐるぐると考えながら、黙々と手を動かす。
ここの茶畑は里山とは言え山林に囲まれた際(きわ)にあるので、動物も虫も沢山いる。
常にウグイスは鳴いているし、蝶も沢山飛んでいる。
毛虫や何か分からない色んな幼虫もその辺りに沢山いる。
クマンバチ、トンボ、カマキリなどの虫はもちろん、カタツムリもいて草引き作業の合間に癒しの時間を与えてくれる。
天候や場所によってはマダニ対策も必要だ。(季節によってはスズメバチも出るそうだが、茶刈りシーズンには見当たらない)
滞在していた10日間の間には、シカやアオダイショウ(性格の穏やかなヘビ)、キツネまでもが現れた。
朝日が昇れば、蜘蛛の巣が朝露に光ってきらきらと美しい。
確かに気安く無防備な恰好で、長時間茶畑の中に居たら、何かしらのリスクはあるかもしれないが、基本的に農作業する格好できちんと虫対策もしていれば、問題はなかった。
お互いに生きている領域があるだけで、敵ではない。
そんな気持ちで茶畑に足を踏み入れる。

色んな虫や動物がいるからこそ、何か一部が大量発生するような偏りをバランスしてくれている面もあると思うので、生態系にはあまり詳しくはないけれど、彼らの生きる様子がとても興味深かった。
(今年のカメムシ大量発生は近畿地方全体ですごかったそうだけれど、、、汗)

基本的には、翌朝に茶刈りをする区画の草引きを前日に行うのだけれど、どこにするかは社長さんが自ら新芽の成長具合などを見て決めていた。
毎日広大な茶畑のあちこちを草引きしていると、どことなくその区画ごとの特徴があることも分かった。

ある特定の植物が突出して生えやすい区画。
反対にあまり野生植物が生えていない区画。
チャノキの枝ぶりが細い区画、あるいは太くてしっかりしている区画。
新芽の成長が早い区画。
虫が多い区画。
などなど。


カタツムリよこんにちは

敷地内に綺麗な沢水が流れているので、その水流も関係しているかもしれないし、日当たりや傾斜角度も様々なので、7ヘクタールもある広大な茶畑の中にも個性が現れるのは、当然と言えば当然かもしれない。
年々の変化ももちろんあると思うが、この傾向が分かって来たら、より面白いお茶作りが出来そうだ、と社長さんもおっしゃっていた。

ここから生み出されるお茶がますます楽しみなお茶園だなと、私はわくわくしながらお話を聴いていた。

終盤に差し掛かった山藤の花びらが舞い降りてくる茶畑で草引きするのも、また乙な体験だった。

向こう山の景色も眺めてひと息
林業が盛んな土地ならではの広葉樹と針葉樹の山々

次回は茶刈り作業へ・・・

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