ストレッチと遠心性収縮とトレーニング
今回はオーストラリアのEdith Cowan大学の運動科学部門ディレクターである、野坂和則教授が来日された際に大阪で行われた講演会でお聞きした内容と、私自身の日々の業務との共通点、そして当店で行うパーソナルセッションの考え方などを絡めてまとめたいと思います
Edith Cowan大学は運動科学などの分野で世界的にも有名な大学で、野坂教授は日本生まれ日本育ちの日本人ですが、東京学芸大や横浜市立大、マサチューセッツ州立大学などを経て現在のEdith Cowan大学で教鞭をとっておられます
講演会自体はちょうど1年程前の事で、内容は野坂教授が研究をされている遠心性収縮に関してや、それがどう高齢者の健康に好影響をもたらすか等が主な内容でした
科学的論文でも発表されていますが、筋肉量は年齢と共に失われていきます
数字に大小はありますが、30歳を過ぎた成人であれば、特に運動をしていなければ筋肉量は10年毎で3-5%減少し、70歳を過ぎれば毎年0.5-1%減少すると言われています
そしてこの加齢による筋肉量の減少は「サルコペニア」と言われます
ご高齢の方で筋肉量が減れば転倒リスク等も高くなり、骨折などの怪我につながります。ですので、アメリカでは10%でもこのサルコペニアを改善できれば、1000億円の医療費が浮くとの計算もあります
野坂教授のグループは高齢者に対して遠心性収縮を主に用いてこのサルコペニア予防を行い、その結果や方法をこの講演で説明されていました
遠心性収縮というのは筋肉の動き方の一つで、筋肉が伸びながら力を発揮する際に呼ばれます。これは手提げ袋を持っている手を、肘が90度になるまで持ち上げ、そこからゆっくりと下げる時に「上腕の前側の筋肉(力こぶを出す筋肉)を伸びながら使っている」状態となり、上腕の前側の筋肉が遠心性収縮をしていると呼びます
遠心性収縮は他の筋肉の動かし方よりも負荷が高くなりやすく、筋肉痛も出やすい動かし方です。ですが、その分筋肉量増加や筋力への効果も期待出来ます。野坂教授の研究では、他の筋肉の動かし方よりも遠心性収縮の筋肉量への効果がより高かったことや、強い筋肉痛が出るのを抑えながら行う方法を説明されていました
ただ私が興味深いと感じたのは、遠心性収縮を説明されている時に仰った、
「筋肉が遠心性収縮を行っている時(伸びながら力を発揮している時)は、全ての筋節が均一に伸びるわけではない」
という事でした
筋肉というのは一つの大きな塊ではなく、顕微鏡などで見ると細い繊維が束になって縦や横に連なった出来てきます。筋節というのはその繊維の束一つ一つ、とここでは思ってください
ですので、ここでの意味は筋肉は遠心性収縮をする際、伸びる筋節もあれば伸びない(伸びにくい)筋節もあるという事になります
先ほどの手提げ袋を下げる例で言えば、下げる動きの最中に例えば力こぶの筋肉の肘に近い方(筋節)は伸びるけど、肩に近い方の筋肉(筋節)は伸びにくい事があるとなります
遠心性収縮の最中に筋は均一に伸びるわけではないという認識は初めてだったので興味深かったのですが、ただこれは他の事との共通点もみえました
というのは、日々の業務の中で選手の体のケアを行う時、例えば筋肉の伸び具合をチェックする際には同じ筋肉でも伸びにくい箇所を探します
例としては、裏もも(ハムストリングスという筋肉)の伸び具合をチェックする際は、選手は仰向けに寝て、私は選手の膝を真っ直ぐにしながら片足を上げていきます(裏もものストレッチと同じ様な体の格好です)。片足を上げながら裏ももの伸びにくい箇所を探します
「裏ももの膝に近い方なのか、それとも真ん中か、お尻に近い方か」
「裏ももでもより外側なのか、内側なのか」
「表面なのか、より骨に近い方なのか」
などを探しながら筋肉の伸び具合をチェックします
そしてほとんどの場合、一つの筋肉(この場合では裏もも)でも伸びにくい所、伸びやすい所というのがあります
選手自身が裏もものストレッチを行う際、多くの場合は動かし易いやり方(ストレッチをしやすいやり方)で行います。ストレッチは筋肉等を伸ばす為に行いますが、この動かし易いやり方で行った場合、ストレッチは伸びやすい所ばかりにかかり、伸びにくい部分はあまり伸びないという場合があります
ですので、業務の中でそれらの伸びにくい部分を探してこちらからストレッチをかけたり、その部分を選手自身に認知させて自分でも伸びにくい部分を伸ばせる様に指導を行なったりします
このストレッチをしても伸び易い部分と伸び難い部分があるというのは、先ほどの「筋肉が遠心性収縮を行っている時(伸びながら力を発揮している時)は、全ての筋節が均一に伸びるわけではない」と共通しており、とても興味深く感じました
おそらく、このストレッチで筋肉を伸ばす時も、遠心性収縮で筋肉を伸ばしながら力を発揮する時も、伸び易い所は普段から使っている部分であり、伸び難い部分は普段あまり使わない(使う感覚がない)部分なのだと思います
そしてこの普段から使う・使わないに大きな影響を与えているのは、日常生活や仕事(デスクワークが多いのか、立ち仕事なのか)、今までの怪我や手術歴(例えば怪我で硬くなった関節の近くは使いにくいです)、食事、栄養、睡眠、運動頻度や強度だと思っています
誰しもが普段使わない筋肉や動き方、伸び易い箇所、伸びにくい箇所があると思います。ですが、このバランスが崩れた時や伸びにくい部分が過剰になった時、怪我や痛みを発症する場合があります。例えば肉離れでは伸び易い箇所から伸びにくい箇所に移行する部分に怪我が起こり易いです
そして実はこの伸びにくい箇所を自分でストレッチするというのは難しく、その理由はご自身ではどこが伸びにくいか、どこの筋肉やどんな動き方が普段はあまりしていないのかが分かりにくいからです
当店のパーソナルセッションやトリートメントでは、クライアント一人一人のお身体を詳細にチェックし、まずこの伸びにくい箇所や動きにくい箇所を探して改善していきます。これを行う事により、怪我や痛みの改善と予防、1回1回のトレーニングの効果の向上も期待出来ます
そして、一度伸びにくい箇所や動きにくい箇所の対処法や動かし方の感覚を身につければ、いざそれが再び伸びにくかったり動かしにくい場合に、ご自身ですぐ気づく事が可能でその後の体の不調や怪我の予防などにも繋がります
感覚を得るのトレーニングなどは地味で時間がかかりますが、一度覚えた感覚は失えばすぐに気づく事が出来、それゆえ対処も早くなります。例えば片足で30秒間安定して立つ感覚(コツ)を覚えた人が、毎朝に体のコンディションチェックとしてそれを行なった際に、もしうまく立てなければ何かがおかしいと気づく事ができます
当店のセッションでは、クライアント一人一人に伸びにくい箇所や動かしにくい部分などをご説明して認知して頂きながら、そのチェック方法や対処方法も併せて提供しております
身体の不調や怪我、痛みなどでお困りの方
大型ジムでは運動が続きにくい方
自己流のトレーニングで身体を痛めてしまった方
部活動に励む学生選手やアスリートの方
是非一度、当店までご相談ください
Calant Sports Rehab & Performance
代表 爪川慶彦
www.calant.org