ブラック企業で輸出管理が崩壊していた話 教育編
以前書いた話の番外編です。
会議招集
ある日、役員から輸出管理に関する会議に出るよう呼び出されました。
何故担当ではない私がと聞くも、詳しい事は会議でと濁されます。
当時、輸出管理をフォローしていた同僚は鬱病で失踪。
輸出管理に詳しかったという前任者も既に退職していました。
そこで、貿易実務を知っている私が呼び出されたようです。
貿易実務と輸出管理は、範囲が全然違います。
聞かれても答えられるだろうかと不安に思いながら、会議に向かいました。
輸出管理内部規定
会議には各部門の役員や部長が集まっていました。
重役ばかりの面々に嫌な予感がします。
「CPが剥奪されるかもしれない」
配布された資料には、要約するとこの内容が書かれていました。
CPとは輸出管理内部規定の事で、経産省に提出しているものです。
経産省からCPを受理されると、自主管理が適切に出来ている企業として、包括許可制度が使えたりとメリットを享受出来ます。
CP受理は1度取ってそれきりではなく、毎年経産省へ自己管理チェックリストを提出し、更新された受理番号を毎年入手しなければなりません。
CPが剥奪されるかもというのは、今年は経産省から受理がされずに滞っているためでした。
滞った原因
事の発端は、経産省への提出内容を前年コピペで出した事です。
輸出管理に詳しい前任者は退職しており、代理で対応した人はそうせざるを得なかったようです。
コピペの結果、実施していない事を実施していると回答している状態になっていました。
経産省からは、提出内容のエビデンスを必要に応じて求められます。
実際に提出を要求され、そこで発覚した一つが、教育記録を出せないという事でした。
「自己管理チェックリストで実施していると回答しちゃったから、どうにかしなきゃいけない」
国に出すものをなぜ内容をよく確認せずに出したんだよ、と内心思いつつ話を聞いていました。
教育の義務規定
今回テーマで取り上げる教育についてです。
経産省にCPを届け出ると、外為法等遵守事項に則った自主管理をしなければなりません。
CPを届け出ていなければ教育は努力規定ですが、届出により義務規定となります。
民間企業が作成した輸出管理内部規定により、教育の実施詳細はそれぞれです。
その実施結果を、年一回自己管理チェックリストで経産省へ報告する仕組みです。
ブラック企業では、退職者が相次いだせいで教育は忘れ去られており、実施していなかった事が発覚したのです。
教育記録の作成
ブラック企業も極まると、時空を操れるようになります。
あるはずの残業時間が消えたり、過去の日付で書類を作成したり…と色々な技を持っています。
役員の指示で、教育記録の作成を大至急行うこととなりました。
教育内容といえば、社内ポータルサイトに経産省資料を載せ、とにかく署名を回収しろというもの。
ブラック企業は皆忙しいので、資料を真面目に読んでいる人は極わずかです。
それに輸出管理の基礎資料を掲示しただけなので、最新の法改正情報は全く載っていません。
これが教育と言えるのかという状態ながらも、教育記録が作成されました。
これを経産省へ提出し、事なきを得ます。
何と、受理されました。
昨年の実施結果として出したはずなので、日付欄はどうしたのでしょうか。
真相は、提出した社員のみぞ知るです。
受理後の話
教育記録以外にも指摘はあったらしいものの、結果的に受理されました。
期日も迫る中、剥奪されるギリギリのラインだったとの事。
恐ろしいのは、その後の社内です。
あれだけの危機に瀕したのにも関わらず、全く変わる気配がない。
何か今後の対策を練ろうとか、そういう話も出ません。
一旦乗り切ったら、それで誰も取り組まなくなりました。
というのも、ブラック企業は多くのトラブルを抱えていて、この件も数多くある中の一つでしかありません。
どの部署も人員に余裕はなく、一つ一つ細かく対応していたら帰れません。
トラブルには場当たり的な対応となってしまうのが実態でした。
今回のやり方、資料を掲示して教育記録の署名を集めるだけで受理される事が分かった為、恐らくまた同じ方法で乗り切るのでしょう。
今後、あの会社で真っ当な教育が行われることはないのかもしれません。
最後に
輸出管理における教育では、法律遵守精神を自社内に浸透させる事が重要だと思います。
輸出管理を軽視されない為です。
ブラック企業は、処罰を食らわなきゃOKの精神でした。
なので、処罰等とならないスレスレを低空飛行しています。
この体質の組織に教育を浸透させるのは困難です。
真面目にやり過ぎだ、と誰もついてきてくれません。
ブラック企業は極端な例ですが、一般企業にも少しはあるんじゃないでしょうか。
何故やらなきゃいけないのか、何のためにやるのか、それを理解してもらわないと輸出管理は軽視されてしまいます。
定期的にやっていると消化試合のようになりがちですが、ブラック企業の悪しき例を忘れず、意味のある教育を心掛けていきたいです。