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自然はすごい! Sense of wonder 「異形の美学」東京大学総合研究博物館

東京大学総合研究博物館というところはその名のとおり東京大学本郷キャンパス内にある博物館です。

入館は無料!常設展示も興味深い展示物であふれていますが、ここの特別展示がいつもとても面白くて気になっています。
今回の「異形の美学」も貴重な自然の不思議をみせていただき、感動しました!
是非是非皆様にもオススメしたい!

最初はその展示のすごさとかおもしろさに気づいていなかったんです。でもここにいつもいらっしゃるボランティアの女性が声をかけてくださり…


「この蝶の羽、なんか違いを感じませんか?」

ザルモクシスオオアゲハ【雌雄型】
産地:中央アフリカ・分布:アフリカ中西部
アフリカを代表する美麗アゲハチョウでアフリカ中央部熱帯域に分布する。種小名ザルモクシスオオアゲハは古代トラキアのケダイ人の神に由来する。

わたし「色が右と左とちがう・・」(この写真だとあまりその違いが感じられませんが、現物はかなりはっきりと違っていました)
女性「そうですよね。左側が水色ですね。色がちがうわよね。これね、左右でオスとメスっていう蝶なの。一匹にオスとメス両方いるの。すごいでしょ?でね、ここではそういう珍しい蝶が展示されているんです。」
わたし「えー!そうなんですか!聞かなければぜんぜん気づかなくて、ただ蝶がきれいだなあと思っただけで帰ってしまうところでした!」
女性「そうよね。ちょっとこういうこと知るだけでも全然ちがうわよね。すごい蝶がたくさん展示されているの。ゆっくり見て行ってくださいね」

よく気を付けてみれば、蝶の標本の下にもしっかりとこんな記載がある。

「メスは非常に稀で、現在でも知られる個体数は少ない。その雌雄型ともなると、得られる確率は天文学的である。」

通常のメスだけでもかなり貴重らしい。しかもその種の雌雄型というのですからどんなに珍しいものか!と驚きました。
しかし「雌雄型」といわれても、私には意味がわからなかったかもしれないなあと思いました。聞いたことがない言葉と思ってもみなかった状況にピンとこなかったのではないかと思います。そんな種類があるんだなあと、通り過ぎてしまったかもしれません。
だから教えていただいてよかったなあと思いました。
興味の度合いが全然違うものになりました。

左上:ベニシロチョウ【雌雄モザイク型】左側オス右側後翅の一部以外がメス
右上:ウスキシロチョウ【雌雄モザイク型】左側の大半がオス右側のほとんどがメス
左下:メスシロキチョウ【雌雄モザイク型】左側前翅の一部以外がメス右側はオス
右下:ベニモンシロチョウ【完全雌雄型】左側オス右側メス

あきらかに左右違う色合いなどの羽になっていますね。
こんな世界があるんだと食い入るようにみてしまいました。
また、このような異常型・極珍種に加えて、蝶の状態もとても良く美しさの質の高さにも目を見張りました。

コウトウカラスアゲハ(ヤエヤマカラスアゲハ)
台湾の蘭嶼(紅頭嶼)と緑島にのみ分布するヤエヤマカラスアゲハ(クジャクアゲハ)屈指の美麗亜種で、コウトウルリオビアゲハとも呼ばれる。その完全雌雄型は世界でも類を見ない。そのさなぎ殻も展示


左上:キリシマミドリシジミ【完全雌雄型】雌雄で斑紋が全く異なる種の完全雌雄型は多くはない。しかし本種のような美麗な種でそれが得られることは非常に稀。
右上:メスアカミドリシジミ【雌雄モザイク型】右前翅がメスでそれ以外は翅はオス。
左下:オオミドリシジミ【雌雄モザイク型】両前翅のところどころにオスの特徴(緑色)が出た雌雄モザイク型

標本の説明は電子画面にて図柄を上下裏表とゆびで動かしながら見ることが出来る展示もあり、蝶の体や裏側なども念入りにみることができます。


しかし、どうしてこんな異形のチョウがうまれるのでしょう。
やはりその疑問にいきつきます。

こんな解説がありました。

チョウ類では、突然変異や環境要因により、斑紋や色彩、形状に異常な個体が発生することがあります。その種類には、雌雄型や斑紋異常、翅脈異常、過剰翅など様々です。このうち雌雄型(雌雄モザイク型)とは、オスの特徴とメスの特徴を持つ部分が明確な境界線を持って混在した個体のことです。この現象は卵発生の分裂中に核の染色体分配に異常が見られたり、性染色体の欠失が起こることで生じると考えられています。哺乳類のような多くの動物の性が細胞分裂プロセスの後半に性ホルモンによって決定されるのに対し、昆虫を含む節足動物では体細胞の性が細胞自立的に決定されることが挙げられます。
斑紋異常型の出現に関しては、寒冷・高温などの激しい温度変化による斑紋形成の阻害が主な要因とされていることがあり、累代飼育を重ねて特異な遺伝形質が固定された例もあります。野外では通常現れない斑紋を持った交雑種も存在し、あまり推奨されるべきではありませんが、人工的に別種同士を交配させて作り上げられることもあります。
他の異常形質として、ホメオティック突然変異による斑紋の同列転換や過剰翅形成が挙げられます。翅脈異常は成虫原基でのシグナル分子発現や翅脈の細胞分化を誘導するシグナル伝達系に異常をきたした突然変異型でみられ、他の外的要因で発生することもあります。最近では翅原基での細胞ターンオーバー機構が崩れることで起こる翅脈異常も知られています。

会場解説版にて

例えばここに書かれている「人工的に別種同士を交配させて作り上げる」という事に関しては、果物などに多く見られ、そして私たちはその恩恵をいただいていると感じます。だから、「悪いこと」だけではない。
だけど自然の中でも「出来てしまった」時は、何かの警告のように感じてしまいます。


アレクサンドラトリバネアゲハ(左:オス 右:メス)
世界最大の蝶として有名。特にメスが大きい。1906年の発見時には、高所を飛翔する本種を小型散弾銃で撃ち落としたと言われる。ワシントン条約付属書I掲載種で、国際取引が禁止されている。ニューギニア島東部低地から極めて局地的に知られる。

この蝶はかなり大きく、少しぎょっとしました。
近くに大きさを比較するものがない写真となるため、是非ともこの大きさを確認すべく現地に足を運んでいただけたらと思います。

この蝶の標本のように、個体で雌雄をあわせもったというものでなく、オスメスそれぞれを並べて展示したものもあります。
しかしどれも珍しいものばかりです。

私は蝶の知識が全くないのですが、こういうことにとてもお詳しく、また興味のある方でしたらかなりの珍品種となり、みごたえのある標本になるのではないでしょうか。


また、常設展示の蝶にも興味深いものがありました。

左上:アサギマダラ オス表面
右上:アサギマダラ オス裏面(長野→奄美を移動したマーキング個体)
左下:オオカバマダラ オス表面
右下:オオカバマダラ メス表面
日本に産するアサギマダラは、翅に標識をつけて放し(マーキング)、それが再捕獲されることで、季節による南北への長距離移動が確かめられてきた。その距離は最大2500㎞に及ぶ。南北3500㎞を旅する北米産オオカバマダラの長距離移動もよく知られる。

「渡りをするチョウ」と題されたこの展示に驚きました。
「渡りをする」という事は鳥でよく聞きますが、そもそもその鳥の渡りということもとても興味があります。なんの目印もないと思われる空を飛びながらなにを基準にして正確な目的地にたどりつくのか。また、その命がけの行動はなにを意味するのか。そういうことをする種としない種があるのはなぜか。また、例えばどこででも餌を採取することができるようになると「渡り」という行為は「退化」する(そもそも退化するという言葉がふさわしいか疑問ですが・・)のか。興味は尽きません。

この図からも本当にかなりの距離を移動するのだという事がわかり驚きます



さて、もう一つこの会場にて同時に展示されている珍品は「異常巻アンモナイト」というもので、その中でも選りすぐりの珍奇かつ美しく貴重な標本が並べられていました。

通常のアンモナイトとともに稀少なものがこのような状態で採取されているという標本。現在でも1,2年に一度くらいの割合でこの異形のものはみつかるそうです。

アンモナイトはデボン紀に出現し、白亜紀末に絶滅した軟体動物頭足綱の一群です。アンモナイトの多くの種では、貝殻はオウムガイ類の殻と同様に通常は平巻の規則正しい螺旋を描きます。しかし、アンモナイト類の進化史のなかでは、規則的な螺旋から逸脱した「異形」が進化しました。
この「異形」は、規則的な形の殻(正常巻)と対比して、「異常巻アンモナイト」と呼ばれています。北海道の白亜紀の地層である蝦夷層群は、世界有数の異常巻アンモナイトの産地であり、多様性が高いことでも知られます。それらはすべてノストセラス科Nostoceratidaeというグループに分類され、いずれの種も個体数が少なく珍しいものです。その中でもニッポニテスNipponitesは、完全個体の入手が最も難しい珍奇な異常巻アンモナイトとして世界的に有名です。菱川コレクションには、驚異的な数の完全なニッポニテスの標本が揃えられており、世界一のニッポニテスコレクショント言えます。

会場解説版にて

本当にみればみるほど不思議です。
だってアンモナイトのあの殻の形は一つのデザインというか「壊れるべきはずがない形」と思っていたから。それがこんなふうに「解体」されたかのように蛇状の物体となりそれがねじれたりくっついたりして新たな形をつくろうとするなんて。なんの目的があってそんな「苦しそうな形」にしようとするのだろう?と考えてしまいます。でも自然はそう成るべく必要があってつくられていくのですよね?本当に不思議です。

こちらも蝶とおなじく画面にてその形態や情報を観ることが出来る設備があります
「ニッポニテス 三ラビリス」とは「驚くべき日本の石」という意味です
触るとぐるぐると動かすことが出来ます


究極の異常型チョウの標本やアンモナイト展示を見終わって改めてこの展示のタイトル「異形の美学」ということにたどりつきます。

解説チラシにも記載がありましたが、
「美学」という用語には美の本質・原理などを研究する学問と、美しさに関する独特の考え方や趣味という2つの意味があるといいます。
まさに私も美術などを日頃鑑賞しながら「好み」という世界での美があることを感じ、だれもが同じように共有しているわけではないことも理解しております。「美」の世界は本当に幅広く展開することができます。

会場のボランティアの女性からお聞きしたのですが、
この異形のアンモナイトを「汚い」と評する方もいるそうです。
また、チョウもあまりにうつくしすぎて「不気味」と思う方も。
そういう考え方もよくわかります。
けれど私は今回この展示をみて「感動」したことはまちがいありません。

しかし、私たち人間がどうすることもできないところで「自然」がこのような状況を作り出していることに関しては、なんだかとても「考えさせられ」ました。

同時に
こんな世界があるんだという自分の視野の広がりに対するワクワク感もあり、それはまさにセンスオブワンダーのときめきでした。

自然ってすごい。想像をこえています。

おもしろい世界!
これからもどんどん知りたいです!



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