ジェルネイルシールに夢中な話
【すっかりジェルネイルシールにハマってしまったことを話しているだけの雑文】
ハンドネイルというものに縁のない人生を送ってきた。
学生時代のアルバイトは塾講師で、卒業後の就職先も教育業界だった。いわゆる「きちんとした服装」を求められ続けてきたので、ネイルなるお洒落は、基本的には控えるべきものだと認識していた。
ネイルカラーと完全に無縁だというわけではなかったのだが、もっぱらペディキュアとしての用途しかなかった。足元ならば、いくら派手にしても靴さえ履けば解決である。
そうは言ってもお年頃の女子である。爪のお洒落を楽しみたいと思ったこともある。
お湯ではがせるタイプのネイルを手の爪につけてみたこともある。が、どうしても巧く塗ることができず早々に諦めた。世のみなさまは、利き手のネイルをどうやってはみ出さずにむらもなく塗っているのだろうか。未だに謎である。というか、利き手で塗ったところで下手だからどうしようもないのである。ペディキュアと違って、手元のネイルは失敗すると目立つ。
そんなこんなでこれまでずっと、ハンドネイルとは無縁の人生を送ってきた。
が。
そんな私に友人が、ジェルネイルシールを譲ってくれた。使わない色だから試してみて、といって。どうやらおまけで貰ったものらしい。
――ジェルネイルシール。
半分硬化されたジェルネイルが、シール状になっている商品である。爪にぺたりと貼り、UVランプで硬化して使う。
ohora、というブランドだった。
貰ったシールは単色で、濃いめだったがぎりぎりオフィスで使えなくもないような色合いだった。
私は当時、勤務先では上から数えたほうが早いようなポジションにいた。早い話が、ほんの少しお洒落をする程度では睨まれる可能性が低かったのである。
だから試してみた。
そして――可愛いな、と思った。
シールだから、はみ出さない。
シールだから、むらにならない。
そして、思った以上につややかだった。
ハンドネイルは常に自分の視界に入る。顔に施すアイシャドウやリップは鏡を見ないと見えないが、ネイルならば、いつも自分で見ることができる。
爪が綺麗なのは、気分が良い。
けれど、やっぱり職場でつけるのは落ち着かなくて、すぐにオフしてしまった。
そしてしばらく封印していた。
――転職が決まったとき、真っ先にohoraのことを思い出した。
面接で訪れたオフィスの様子からすると、いわゆるオフィスネイルの範囲であれば、充分に許容されそうな雰囲気だった。
有給休暇の間、件の友人がまたまたohoraを譲ってくれた。思い切った深い赤。イエベの彼女には使いづらくても、ブルベの私なら好んで使う深紅。
春休みだから、といって堂々と真っ赤な爪を楽しみながら、私は遂に、自らohoraの通販サイトを開いた。
さんざん吟味した結果、いちばんナチュラルだと思ったデザインを2つ、購入した。
入社日当日。
真っ赤なネイルはオフした。ナチュラルデザインのシールたちにも、ひとまずドレッサーで留守番をしてもらった。「素爪でいるより、爪にいい」というコピーのネイル美容液を、丹念に塗って出社した。
人事担当者が、服装規定の説明をしてくれた。
ネイルは、自由だった。
それはもう、読んで字のごとく自由だった。ナチュラルカラーの人もいれば、ビビッドカラーをまとっている人もいた。もちろんなにもしていない人もいた。
恐る恐る、シンプルなネイルシールを施して出社したら、先輩が褒めてくれた。
ちょっと濃いめの色に変えたら、別の先輩が可愛いねと言ってくれた。
別のデザインに変えたとき、ohoraの名前を出したら「それ気になってた! 教えて!」と食い気味に目を輝かせた先輩がいた。
綺麗に貼れば2週間くらいはもつ。頑張ればもう少しもつのかもしれないが、2週間もすると爪のほうが伸びてくるので、だいたいそのあたりで貼りなおす。ショートヘアの民が頻繁に美容院に行くように、ショートネイルの民たる私は長い爪に耐えられないのである。
ohoraの場合、1箱で約2回分のシールが入っている。つまり1か月分だ。これで2000円でお釣りがくるというのだから安いものである。
安いけれど、結構いろんなデザインがある。単色にグラデーション、総柄、ラメ、パーツ付き、などなど。自分で複数のデザインをミックスしてみると新たな発見があったりもする。
手のお洒落といえば、もともとリングが好きだった。特にピンキーリングが好きだ。左手の小指には、だいたいなにかつけている。
だからネイルをするときも、そのバランスを考えるようになった。つまり、左手の小指にリングをつけることを前提に、両手のバランスを考えるのである。
自分の中に、今まで無かったタイプのお洒落であった。
毎日鏡を見ながらメイクをして、出掛ける前にリングをつける。
鏡はそうそう常に見ているものではないが、リングや爪なら、1日のうちに何度となく目に入る。
私は。
ネイルが可愛いので、毎日ご機嫌である。
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