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5万円あったらの話

【5万円あったらなにがしたいかという妄想を膨らませているだけの雑文】

「5万円あったら、なにを買いたいですか?」

 どういう流れだったか、職場の雑談でそんな話題になった。
 5万円といえば大金である。夢のある話は大好きだ。

 わくわくしながら欲しいものを思い浮かべる。しかしいくつか数えたところで、私ははたと首を傾げた。

 欲しいものは確かにある。ドライヤーを買い替えたいとか。電子レンジを買い替えたいとか。ベッドを買い替えたいとか。けれど冷静に考えてみると、ドライヤーなどは数千円の安物で充分だと思っているし、次に買うレンジは単機能一択だと思っているし、ベッドに至っては風通しの良いパイプベッドを好んでいるような人間である。5万円をはたく対象としては、いささか面白みに欠ける。
 かといって、じゃあ喜び勇んで高い買い物をしようかと思うと、5万円では到底足りなくなってしまう。悲しいことに、新型iPhoneにそんな金額を差し出しても鼻で笑われるのがオチである。

 日常生活においては大金だが、思いきった贅沢をするには心許ない金額。

 5万円、案外難しいな。
 同僚たちも同じ感想だったらしく、ああでもないこうでもない、と平和な議論が始まった。

 真っ先に挙がったのは旅行であった。
 近場で豪華なホテルステイを楽しむも良し。宿代を調整すれば遠くにも行ける。おいしいグルメを楽しんで、お土産も買えるだろう。ちょっとした国内旅行をするには充分な金額である。
 余談だが、私はロックバンドを追いかけて遠征するのが趣味である。5万円あれば、遠征費用としては十二分だ。いつもより良いホテルが選べそうだし、なんなら飛行機の座席もアップグレードしてみたい。

 グルメというなら、気前よくディナー一度で使いきるのもアリかもしれない。和食に洋食。肉に魚。お酒とデザート。お寿司にステーキ、色とりどりの前菜。ドレスコードと、スマートな接客。目でも舌でも、おいしいものを味わい尽くしたい。
 たった数時間で消える5万円。けれどお腹も心も満たされる時間。間違いなく贅沢である。

 趣向を変えて、ジュエリーはどうだろう。
 上を見れば際限ないのがジュエリーの世界である。が、5万円あれば、日常使いの気軽なリングくらいなら選べるのではないだろうか。Tシャツにジーンズのラフな服装を少しだけ引き締められるような、ちょっとしたジュエリー。ハイブランドでなくても構わない。きちんとしたゴールドやプラチナの、あるいは宝石の煌めく控えめなリング。あるいはネックレス、あるいはイヤリング。良いかもしれない。

 税金を払う、という身も蓋もない意見も飛び出した。いや、でも確かに切実な話である。

 切実といえば、人間ドックという手もある。
 毎年毎年着実に年齢を重ね、そろそろ言い訳がきかない歳になってしまった。肩は痛いし腰も痛いし疲れは取れない。ここはひとつ、隅から隅まで調べてもらおうか。日帰りの相場が3~7万円というから、5万円というのは案外良い線をいっているかもしれない。

 こう考えてみると、なにかを「買う」というよりは、なにかを「する」ことに支払ったほうが、5万円の使い道としては満足できるのかもしれない。現実的である。いや、正真正銘の夢物語なのだが。

 夢と現実の狭間を行き来しながら、勤め人たちは日々の仕事に戻っていった。日常を支え、ささやかな贅沢を叶えるために。
 今日のランチはもちろん、冷凍食品に頼ったお弁当である。

 さて、どうだろう。
 5万円あったら、なにに使うだろうか?

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