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手ぬぐいに惚れた話

【手ぬぐいの魅力に気づいてしまったことを懺悔しているだけの雑文】

 気がついたら夢中になっていたもの、というのが、いちばん手に負えないと思う。

 ここ半年ほどで、急速に惚れてしまったものがある。
 手ぬぐい、である。

 そもそものきっかけは転居だった。
 昭和生まれの1Kアパートから、令和の1LDKマンションに引っ越した。その結果、家の広さが1.5倍になり、憧れの独立洗面台を手に入れた。その結果――タオルの消費量が増えた。
 単純な話である。今まではキッチンとトイレに1枚ずつ吊るしておけば事足りたのだが、そこに洗面台が加わったというだけだ。2枚が3枚に変わったところで大した変化もないように思われるのだが、タオルというのは思いのほかかさばるものである。そして乾かないときには本当に乾かない。その手間が1.5倍になったとなると、なかなかどうして、無視できないものがあった。

 薄手のタオルを導入しようか、と検討しはじめたとき、目をつけたのが手ぬぐいだった。

 もともと手ぬぐいは好きであった。
 お弁当を包んだり、趣味の着物で半衿はんえり代わりにしたり。
 好きなバンドがグッズとして手ぬぐいを出したことがあった。しばらくライブに持参していたのだが、かさばらないので遠征の際など重宝したものである。
 子供のいる友人にプレゼントしたときにはとても喜ばれた。布の類は、子育てにおいてはいくらあっても良いようである。
 出先で手ぬぐいを見つけると、ついつい眺めにいってしまう。最近はお洒落な柄が増えていて、見ているだけでも楽しい。

 ただ、そういえば、自宅にあるのはどれもこれもが貰い物や100均の品ばかりだった。出先で楽しむ手ぬぐいも、眺めるだけで買ったことはなかった。

 手元にたまたま、ノベルティで貰った新品の手ぬぐいがあった。端が縫われておらず切りっぱなしの、昔ながらの品である。
 ノベルティならがしがし使ってみても良いかな、と思った。柄が適度にシンプルで、日常使いに違和感が無いのもちょうど良かった。

 試しにトイレに吊るして使ってみたところ、これがすこぶる快適だった。なにが良いって、ちゃんと水を吸うのに乾きが早い。トイレというのは基本的に密室だが、そんな場所でもからっと乾いてくれるというのはありがたかった。キッチンでも洗面所でも同様である。やはり水回りは清潔が第一である。

 お洒落な柄の手ぬぐいは、テーブルを彩るにも良い。
 テーブルクロス代わりに敷くと、それだけで部屋が華やいで見える。季節感を出すのも仕舞うのも簡単だし、友人を招いても様になる。

 1枚の布に、いろんな用途を見出せる。
 手ぬぐい、良いな。

 気がついてしまうと、あとはもう一気である。

 旅先のお土産物屋さんで、無意識に手ぬぐいを探してしまう。さすがに手あたり次第とまではいかないが、気に入った柄があれば連れて帰る。
 洗濯して、初回の盛大なほつれをはさみで丁寧に切る。面倒だが、私は昔ながらの切りっぱなしタイプが好きだ。こなれてフリンジ状になると可愛いし、なにより縫い目が無いからこそすっきり乾くのだという安心感が素晴らしい。
 綺麗に畳んで、あとは出番が来るまで待機である。実用的なお土産というのは良いものである。更級日記のおばさまとは喧嘩になりそうだが。

 使うペースより買うペースのほうが早いかもしれないなあ、なんて思いつつ、そんな理性にはひょいと手ぬぐいを掛けて見ないふりをする。なんといっても、たくさんあってもかさばらないのが良さである。

 理性にかぶせた手ぬぐいが可愛いので、私はご機嫌である。

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斜芭 萌葱
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