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じっくり悩んで衝動買いした話

【3足で650円の靴下を衝動買いしたことを告白しているだけの雑文】

 珍しく衝動買いをした。

 ある平日の昼下がりのことである。
 外出先に直行して用事を済ませ、やれやれと昼食を摂る。ハンバーグとラーメンで悩んだ末にハンバーグ店へ向かったのだが、私の直前で満席になってしまったので、その日のランチはラーメンに落ち着いた。

 さっと入ってさっと食べてさっと出るのがラーメン屋の常である。
 そのまままっすぐ会社に戻っても良かったのだが、その前に、駅前のお店を少しひやかしていくことにした。60分の昼休みも、まだ半分残っている。

 パンの詰め合わせに心惹かれ、半額の高級チョコレートに心奪われ、危うく苺大福を連れて帰りそうになりながら、なんとか財布の紐を締め上げる。なにしろ午前中の用事のせいでバッグはずしりと重かったのだ。ここで荷物を増やすわけにはいかない。それにしても、重い資料を持参させておきながら当日にも分厚い資料を渡してくるとはなかなかのセミナーであった。

 バッグを抱えなおしたところでふと振り返る。
 店先の、可愛らしいポップが目に飛び込んできた。

「靴下3足 650円」

 ――安い。
 靴下3足の相場って1000円とかじゃないのか。なんだ、650円って。

 私はふらふらと棚に吸い寄せられた。奇抜な柄しか残っていない叩き売りの類かと思ったら、そういうわけでもないらしい。シンプルな無地、可愛い柄物、薄手に厚手。よりどりみどり。
 手持ちの靴下を思い浮かべる。去年の初売りで福袋を買っていたので数はあるのだが、薄手のものが多く、真冬用を買い足したほうが良いだろうかと迷っていたところだった。

 職場ではパンツにスニーカーである。一応オフィスカジュアルということになってはいるのだが、シンプルな服装でさえあればある程度は許されるような緩さだ。男性もノーネクタイが多い。

 職場ではける、可愛くてあったかい靴下が欲しいな。
 そう思った瞬間、私は棚の前で本格的な吟味に入っていた。

 まずは無地を1足。黒とグレーは持っていたので、ネイビーを選ぶことにした。
 残りの2足は柄物が良い。冬はフルレングスのパンツばかりなので、ワンポイントよりは総柄が良い。

 しかし柄物といっても、色はよく考えなければならない。
 私はいわゆるブルベ冬である。手持ちの服は、モノトーンを除くと赤や青が基調だ。それに合わせることを考えると、やはり靴下もそちらの系統を選ぶのが筋だろう。例えば一見使いやすそうなブラウンの靴下は、私にとっては微妙に使い勝手が悪いのである。
 総柄を選ぶからには柄の色も重要だ。黄色系が目立ちすぎないものを選びたい。

 あとは、丈も大事である。
 最近の可愛い靴下、みんな丈が短くはないだろうか。
 冷え性なので真冬はヒートテックレギンスが欠かせないのだが、あんまり丈が短いと、脚を全部覆うことができなくなる。そんなところに絶対領域があっても寒いだけである。
 落ち着いた紅色の靴下にかなり惹かれていたのだが、丈が少し短かったため、泣く泣く諦めることにした。だって今の私が欲しいのは、真冬にはくあったかい靴下、なのである。

 悩みに悩んで、黒地に赤とグレーのチェック柄と、黒地にグレーと淡いベージュのブロック柄を選んだ。文字で書くと黒ばかりだが、並べてみると案外印象が違う。チェックは赤が映えているし、もう1足は黒の面積が小さいので明るい印象だ。

 締めて、3足税込み650円。
 ただでさえ資料でぱんぱんだったバッグが余計に膨らんだ。
 しかし私は満足した。衝動買いと言えば立派な衝動買いなのだが、私としては「もともと欲しかったものが安く買えた」という気持ちである。しっかり吟味したのだし、良い買い物ができたと思う。

 意気揚々と電車に乗り、会社へ向かう。

 その日の帰り、セールになっていたハイネックTシャツを衝動買いすることになるのだが、それはまた別の話である。

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斜芭 萌葱
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