人工授精は何回まで? 体外受精に進んで初めてわかる不妊要素もあります
私は2ヶ所の不妊治療クリニックで合計6回の人工授精(AIH)を行いました。残念ながらそれでも妊娠しませんでした。
不妊治療検査であらゆる項目を確認し、決定的な不妊要素が見当たらない場合は『体外受精をやるほどではないだろう』と、自然妊娠の範疇である人工授精での妊娠に思いを馳せてしまいます。私がそうでした。
そんな私が思うのは、体外受精に早めにステップアップした方が不妊治療トータルでかかる時間的・金銭的負担が抑えられるのでは?ということです。
今回は結果論的な局面が多いのですが、私の体験からその理由をお話ししたいと思います。
なぜ私は6回も人工授精を行ったのか
まず私のお話から。見出しの理由は、各種不妊治療検査の結果から私が自然妊娠ができる可能性は決して低くなく、妊娠可能期間は十分ではないものの、まだ余裕があると考えたためです。
不妊治療検査の中で一刻も早く体外受精へ進むべきかを決めるのに一番影響を与えるのは、AMH(抗ミュラー管ホルモン)検査の値でしょう。
AMH(抗ミュラー管ホルモン)検査:卵巣に残された卵子の数の目安がわかることで卵巣予備能を把握できる。値が低い=妊娠の可能性がある期間が限られていることを意味する。
出典:わたし(ふたり)のAMH読本
私が2020年、33歳当時に、初めて調べた時の値が3.6でした。これは34から36歳の女性の卵巣年齢と同等であることを示しています。つまり実年齢との誤差が大きくなかったことで、卵子(の在庫)はまだあるから今すぐに体外受精をしなくてもいいかと判断してしまいました。
加えて、卵管造影検査で異常がなかったことも、自分には自然妊娠の可能性があることを否定するに足りないなと考えました。
卵管造影検査:卵巣と子宮をつなぐ卵管の通過性を調べる検査。問題があると卵子と精子が通過できず、自然妊娠が困難だと考えられる
出典:春木レディースクリニック
上記以外にも明らかな不妊要素の所見がなかったため、「私はまだ不妊と決まったわけではない」と人工授精をゆるゆると6回も行った次第であります。
人工授精は『精子を子宮に届ける』部分が『人工』です
『人工授精は高度生殖医療を駆使したさぞハイテクな代物なのだろう』、残念ながらこれはちがいます。なので、人工授精さえすれば妊娠すると期待しすぎるのは尚早です。
タイミング法と人工授精での妊娠確率は以下です。
30代前半の女性がタイミング法にて妊娠する確率は1ヶ月あたり10%
出典:ファティリティクリニック東京
人工授精での妊娠確率は1施行あたり5〜10%
出典:恵愛生殖医療医院
人工授精の方がタイミング法よりも妊娠確率が下がってしまいました。この謎現象が起こる背景はこう考えられます。
1回の人工授精で妊娠した方もいれば、稀ですが10回以上の人工授精で妊娠した方もいて、回数をこなすほど人工授精全体の試行回数は増加します。その結果、人工授精で妊娠につながった施行回数のの平均値は自ずと高くなる=妊娠確率は低くなる…と考えます。
では人はなぜ人工授精をするのでしょう(主語が大きい)。
それは、どちらかというと男性側の能力を補う目的があります。射精能が低い、もしくは精子の状態があまりよろしくないという場合です。
人工授精は、採取された精子をまるごと子宮に注入するわけではありません。一度クリニックでろ過処理されたものが使われるため、その過程で運動能力の低い精子は除外されます。
また、女性側の膣内環境が良くない場合にも効果はあります。人工受精では膣をすっ飛ばして精子が直接子宮に注がれるので、頸管粘液が少ない体質(要するに濡れにくい)ケースで効果があります。
このように、人工授精の実態は『成績の良い精子を子宮に届ける』部分を第三者が手伝うシステムであり、それ以外は通常の性交渉やタイミング法と変わりがありません。
人工授精で妊娠できない=自然妊娠ができない可能性大
このような統計結果があります。
人工授精で妊娠した⽅の約80%は3回目まで、約90%は5回目までには妊娠にいたる
出典:杉山産婦人科
もしくはこのようなデータもあります。
人工授精で妊娠した方の75%が3回目までに、96%が6回目までに妊娠している
出典:西垣ARTクリニック
どちらも人工授精の6回目までには9割以上の方が妊娠しているということです。言い換えれば、7回以上行ったとしても人工授精では妊娠が難しいことも意味します。
このデータを元に私たち夫婦もとりあえずは6回まで人工授精を行いましたが、もっと早く体外受精に進む決意をしていれば時間もお金も無駄にしなかったな思いました(後の祭り感)。
その理由を述べる前に『妊娠するための3段階』を確認しましょう。
『妊娠するための3段階』
1. 排卵 2. 受精 3. 着床
人工授精では「排卵」が行われているかを知ることができます。人工授精を行う前には、超音波検査で卵胞の発育状況を観察し、人工授精施行後もまた卵巣内を検査することで排卵が確かに済んでいるかを確認するためです。
しかし、人工授精では排卵後の「受精」と「着床」をコントロールすることはできません。試行回数を重ねた人工授精でそれでも妊娠できなかった場合、「人工授精では妊娠できなかった」ことのみ判明します。「不妊である理由」まではわからないのです(ちなみに確実な着床は体外受精でも操作することはできません)。
自分が自然妊娠できると期待した結果、6回の人工授精を行った1年近くの歳月と約15万円を失いましたが、得られたものは「人工授精では妊娠できなかった(自然妊娠はできなかった)」という事実のみです。
「なぜ自然妊娠ができないのか」は体外受精に進む過程で精査していくことになります。
まとめ:AMHと人生プランによっては早めの体外受精を
おそらく人工授精レベルではどのクリニックでも技術に偏りはないと思います。人によっては1、2回の人工授精で切り上げて体外受精に進んだり、逆に10回以上の人工授精を行ったり、そもそも人工授精を行わずに最初から体外受精に突入したりと十人十色の治療方針です。
どの方法がいいのか、どのタイミングで次のステップに進めばいいのか、そして果たして自分たちはその治療を続けることができるのか…と不妊治療を行う方々は悩ましい日々を送っています。
クリニックからの進言はあるにせよ、結局はその夫婦2人の人生設計によります。
6回人工授精を行い、2回の体外受精でも結果に結びつかなかった私からの意見ですが、まずはAMHの値を調べましょう。そして、どのような人生や家族構成を考えているのかをパートナーと話し合ってください。
戻らない時間と卵子の在庫、妊孕力と向き合って早めに体外受精に踏みきるのも大事かと思います。そしてたまには『妊娠しない人生でもいいか』と思えますように。