オルテガ・イ・ガセット著『大衆の反逆』読書メモ
第一部 大衆の反逆
一 充満の事実
大衆 とは、 善い 意味 でも 悪い 意味 でも、 自分自身 に 特殊 な 価値 を 認めよ う とは せ ず、 自分 は「 すべて の 人」 と 同じ で ある と 感じ、 そのことに苦痛になるどころか、他 の 人々 と 同一 で ある と 感ずる こと に 喜び を 見出し て いる すべて の 人 の こと で ある。
オルテガ・イ・ガセット. 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) (Kindle の位置No.118). . Kindle 版.
人間をもっとも根本的に分類すれば、次 の 二つ の タイプ に 分ける こと が できる。 第一 は、 自ら に 多く を 求め、 進ん で 困難 と 義務 を 負わ ん と する 人々 で あり、 第二 は、 自分 に対して なんら の 特別 な 要求 を 持た ない 人々、 生きる という こと が 自分 の 既存 の 姿 の 瞬間 的 連続 以外 の なに もの でも なく、 したがって自己 完成 への 努力 を し ない 人々、 つまり 風 の まにまに 漂う 浮標 の よう な 人々 で ある。
オルテガ・イ・ガセット. 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) (Kindle の位置No.129). . Kindle 版.
二 歴史的水準の向上
今日の平均人の生は、かつては最上層の少数者の特徴をなしていた生活分野から構成されていることが明らかとなった。ところで平均人は、それぞれの時代の歴史がその上で展開する地表面を示すののである。歴史における平均人の役割は地理学における海水面に役割に相当する。そこで今日の平均水準が、かつては上層階級のみが達していた点にきているとすれば、それは、歴史的水準が突如上昇したこととを単純明快に物語っているわけである。
オルテガ・イ・ガセット. 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) (Kindle の位置No.295). Kindle 版.
三 時代の高さ
一般に、これは時代の高さにそぐわないとか、あれは時代の高さにそぐわないというようないい方をする。年代学上の抽象的な時代というものは完全に平坦なものだが、それぞれの世代が「われわれの時代」と呼ぶこの特定の生の時代にはつねにある種の高さたあり、それは昨日の高さに比してある時は上昇し、ある時は水平を保ち、またある時は低下する。
オルテガ・イ・ガセット. 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) (Kindle の位置No.362). Kindle 版.
ほとんどの時代が、自分の時代が過去の時代より優れているとは考えなかった。それどころか、漠然とした過去によき時代、より完全な生存形式を想像するというのが最も普遍的な態度であった。
オルテガ・イ・ガセット. 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) (Kindle の位置No.382). Kindle 版.
四 生の増大
世界が突如として成長し、世界とともにそして世界の中で生が増大したという簡単な事実である。それによって、生は実質的に世界化した。つまり、今日では、平均的な人間の生の内容が地球全体を包括しているのであり、各人は常時全世界に生きているのである。
オルテガ・イ・ガセット. 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) (Kindle の位置No.537). Kindle 版.
アインシュタイン の 物理学 が ニュートン の 物理学 より いっそう 精確 で ある という こと では なく、 人間 アインシュタイン が 人間 ニュートン よりも 精神 の いっそう の 精密 さと 自由とを もっ て いる という こと で ある。
オルテガ・イ・ガセット. 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) (Kindle の位置No.617). . Kindle 版.
没落は文化 と 諸 国家 という 歴史 の 二次的 要素 に関する もの で あり、 部分的 な 衰退 に すぎ ない からで ある。 絶対的 な 没落 は ただ 一つ しか ない。 それ は 生命力 の 衰退 による もの で あり、 かかる 没落 は ただ それ を 実感 し た 時 に のみ 存在 する ので ある。
オルテガ・イ・ガセット. 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) (Kindle の位置No.636). . Kindle 版.
五 一つの統計的事実
われわれの生は、可能性のレパートリーとしては豪華であり、多すぎるくらい多く、歴史的に知られているいっさいの時代に優っている。しかし、その形状があまりにも大きいために、伝統によって残されてきたいっさいの河床、原則、規範、理想をはみ出してしまったのである。それは、他の時代のすべての生よりもいっそう生であり、それだからこそいっそう多くの問題を含んでいる。
オルテガ・イ・ガセット. 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) ((Kindle の位置No.692). Kindle 版.
したがって 十 二 世紀 間 に ヨーロッパ の 人口 は 一億 八千 万 を 越え た こと は 一度 も なかっ た。 ところが、 一八 〇 〇 年 から 一 九 一 四 年 の 間 に―― つまり 一 世紀 余 の 間 に―― ヨーロッパ の 人口 は 一億 八千 万 から いっきょ に 四 億 六 千万! に 増大 し た ので ある。
オルテガ・イ・ガセット. 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) (Kindle の位置No.748). . Kindle 版.
六 大衆人解剖の第一段階
自分の生の欲望の、すなわち、自分自身の無制限な膨張と、自分の安楽な生存を可能にしてくれたすべてのものに対する徹底的な忘恩である。この二つの傾向はあの甘やかされた子供の心理に特徴的なものである。そして実際のところ、今日の大衆の心を見るに際し、この子供の心理を軸として眺めれば誤ることはないのである。
オルテガ・イ・ガセット. 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) (Kindle の位置No.893).筑摩書房. Kindle 版.
七 高貴な生と凡俗な生
高貴 な 人 (noble) とは「 世間 に 知ら れ た」 人 の 意味 で あり、 無名 の 大衆 の 上 に ぬき ん 出 て おのれ の 存在 を 知ら しめ た 人、 すべて の 人 が 知っ て いる 人、 有名 な 人 の 意味 で ある。
オルテガ・イ・ガセット. 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) (Kindle の位置No.988). . Kindle 版.
八 大衆はなぜすべのことに干渉するのか、しかも彼らはなぜ暴力的にのみ干渉するのか
大衆人が、彼ら本来の視覚も聴覚ももたぬ姿で介入してきて、彼らの「意見」を強制しない問題は社会的な生の分野にはもはや一つもなくなっているのである。
オルテガ・イ・ガセット. 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) (Kindle の位置No.1128)Kindle 版.
九 原始生と技術
大衆の反逆は、たしかに人類の新しいそして比類なき組織への移行過程でもありうるが、しかし同時に、人類の運命における一つの破局ともなりうるのである。進歩という事実を否定する理由はどこにもないが、しかし、その進歩が安全なものだとする考え方は訂正しなければならない。
オルテガ・イ・ガセット. 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) (Kindle の位置No.1144). Kindle 版.
今日の主調をなすタイプの人間は、文明世界のまっただ中に突如現われた原始人、自然人 (Naturmensch) であることを意味しているのである。世界は文明開化しているが、しかしその住民は未開なのである。彼らは自分たちの世界の中に文明をさえ見ずに、ただそれがあたかも自然物であるかのように使っているだけである。
オルテガ・イ・ガセット. 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) (Kindle の位置No.1300). Kindle 版.
十 原始生と歴史
文明を形成した原理が、あまりにも豊饒で適格であるがために、その実りは量においても精度においても増大し、ついには通常人の理解力を越えてしまうのである。
オルテガ・イ・ガセット. 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) (Kindle の位置No.1444)Kindle 版.
十一 「慢心しきったお坊っちゃん」の時代
今日あらゆるところに姿を見せ、ところかまわず自分の野蛮性を強制しているこの登場人物は、まさしく人類史た生んだ甘やかされた子供は、遺産相続以外何もしない相続人なのである。ところでその遺産とは文明というか、快適さや安全性など要する文明に便益である。
オルテガ・イ・ガセット. 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) (Kindle の位置No.1586) Kindle 版.
人間 の 生 が とり うる 最も 矛盾 し た 形態 は「 慢心 し きっ た お 坊ちゃん」 という 形 で ある。 だからこそ、 そうした タイプ の 人間 が 時代 の 支配 的 人間像 に なっ た 時 には、 警鐘 を ならし、 生 が 衰退 の 危機 に 瀕 し て いる こと、 つまり、 死 の 一歩 手前 に ある こと を 知らさ なけれ ば なら ない ので ある。
オルテガ・イ・ガセット. 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) (Kindle の位置No.1637). . Kindle 版.
十二 「専門主義」の野蛮性
今日、社会的権力を行使しているのは誰であろうか、また時代に自分の精神構造を押しつけているのは誰であろうか。それは疑いもなくブルジョアジーである。それではブルジョワジーの中で、最も優れたグループ、つまり今日の貴族とみなされているのは誰であろうか。それは疑いもなく専門家、つまり、技師、医者、財政家、教師等々である。それではこの専門家グループの内で、最も高度にそして最も純粋な専門家は誰であろうか。それは疑いもなく、科学者である。(中略)
今日の科学者こそ、大衆人の典型だということになるのである。しかもそれは、偶然からでもなければ、個々の科学者の個人的な欠陥からでもなく、実は科学ーーー文明に根源ーーーそのものが、科学者を自動的に大衆人にかえてしまうからである。つまり、科学者を近代の未開人、近代の野蛮人にしてしまうからなのである。
オルテガ・イ・ガセット. 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) (Kindle の位置No.1765).. Kindle 版.
科学者が、一世代ごとに自分の活動範囲を縮小してゆかなければならなかったために、徐々に科学の他の分野との接触を失ってゆき、宇宙の総体的解明から遠ざかっていった過程である。
オルテガ・イ・ガセット. 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) (Kindle の位置No.1792) Kindle 版.
人間は単純に、知識のある者と無知なるもの、多少とも知識がある者とどちらかといえば無知なるものの二種類に分けることができた。ところが、この専門家なるものは、そのいずれの範疇にも属しえないのである。彼は、自分の専門領域に属さないことはいっさいまったく知らないのだから、知者であるとはいえない。しかし、かといって無知者でもない。というのは彼は「科学の人」であり、彼の領域である宇宙の小部分はよく知っているからである。
われわれは彼を知者・無知者とでも呼ばねばなるまい。これは極めて重大な問題である。というのは、この事実は、彼は、自分が知らないあらゆる問題において無知者としてふるまうのではなく、そうした問題に関しても専門分野において知者である人もっているあの傲慢さを発揮するであろうことを意味するからである。
オルテガ・イ・ガセット. 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) (Kindle の位置No.1828) Kindle 版.
十三 最大の危険物=国家
国家主義の矛盾に満ちた悲劇的な過程がどういうものかお分かりいただけるだろうか。社会は、よりよく生きんがための一つの道具として国家を創った。ところが、その後国家が社会の優位に立ち、社会は国家のために生きなければならなくなった。
しかし、それでも国家は依然としてそうした社会の人間によって構成されていた。しかし、すでに彼らだけでは国家を維持するに十分でなくなり、まず初めにダルマチア人、後にはゲルマン人というふうに外国人を招かなければならなくなった。
そしてそれら外国人が国家の主となり、社会における彼ら以外の者たち、つまり本来の民族は、外国人の奴隷としえ、自分たちとなんら関係のない人々の奴隷として生きなけらばならなくなったのである。国家による干渉の結果がこれである。
オルテガ・イ・ガセット. 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫) (Kindle の位置No.1999) . . Kindle 版.