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4行でわかる世界文明

今回は、橋爪大三郎著『4行でわかる世界文明』に基づいて、世界の文明である西欧社会、イスラム社会を学ぶことにします。

まず本書のまえがきを引用します。

世界は複雑である。時間は限られている。世界を知りたい。
ならばどうする?
ひと昔前の人びとは、本を読んだ。専門家や知識人がが本を書いた。読んだ人びとは、そういうものかと思った。
そのやり方が、崩れてしまった。本が多すぎる。専門家や知識人があてにならない。人びとは、本を読んでいる時間がない。
ならばどうする?
万能カギ、を頭にもつことだ。

橋爪 大三郎. 4行でわかる世界の文明 (角川新書) . 株式会社KADOKAWA. Kindle 版.

情報は多すぎてあてにならないので、情報を配列し、そこから図柄を読み解くことのできる、図式(カギ)として、「4行モデル」を橋爪氏は提案した。

世界の各文明を、それぞれたった4行で説明できるというのですから、凄い本です。

橋爪氏は、世界をざっくりと四つの大きな集団からなっていると言う。

その集団とは、宗教をベースとした、10億人単位の大集団です。第一は、西欧キリスト教文明(25億人)、第二は、中東イスラム教文明(15億人)、第三は、インドヒンドゥー教文明(10億人)、第四は、中国儒教文明(13億人)を挙げています。

この四つで世界の全人類の約86%を占めているのであり、残りの人びとは、それ以外のマイノリティとなる。グローバル世界を大掴みに捉えるならば、まずこの四つの文明圏に注目すべきだというわけです。

各世界のうち、西洋キリスト教文明と中東イスラム文明の「4行モデル」を描きます。

西欧キリスト教文明

①まず自己主張する
②相手も、自己主張している。
③このままだと、紛争になる
④法律あるので、解決する。

というのものです。えっ!これでいいのかと驚くが、これで良いのだと、橋爪氏は言う。

キリスト教とひと口に言っても、いろいろある。正教(オーソドックス)もあれば、カトリックもある。そこから分かれたプロテスタントもある。そのプロテスタントが、さらに細かく分かれていて、違いを言い出せばきりがない。

でも大摑みに、キリスト教文明圏の人びとが、共通に備えている特徴を取り出すとするなら、4行で十分。4行がちょうどよいのである。それ以上の細かな違いは、共通点を押さえたうえで、見ていけばよい。 

橋爪 大三郎. 4行でわかる世界の文明 (角川新書) . 株式会社KADOKAWA. Kindle 版.

というわけなのです。

キリスト教に限らず、世界の人びとは同様に、自己主張が強い。だから①に、「まず、自己主張する」は、どんな文明圏に人びとでもだいたい共通です。

だれもが自己主張するのであれば、相手も自己主張主張して当然なので、②の「相手も、自己主張している」となるのです。

そうすると、主張と主張が、矛盾・対立する関係になる。その場合、言葉の応酬では済まなくなり、言葉以外に手段、つまり暴力で相手を押さえつけて、自己の主張を通そうとする。③の、「このままだと紛争する」となるのです。

安定した社会では、紛争を、暴力以外の方法で解決するメカニズムを備えており、そのメカニズムの在り方に、文明ごとの特徴がある。キリスト教文明の場合、それは、法律です。事前に決まっていたルールに従えば紛争は解決できる。そこで、④の、「法律があるので、解決する」となります。

これは、あまりにも単純なモデルであり、こんなことで解決できるのかという疑問がわきます。だが、橋爪氏は、単純だから良いと主張する。

現実は、複雑である。複雑なので、そのまま認識することはできない。誰でも現実の一部を切り取って、自分に都合よく認識している。言葉を使うのも、そうしたやり方の一つだ。  

モデルはそれを、自覚的に行なう。複雑な現実の、枝葉の部分を思い切ってばっさり切り捨てる(捨象)。そして、いちばん大事な部分だけを、取り出す(抽象)。そうしてモデルをつくると、複雑な現実の本質が理解できるのだ。

同上

中東イスラム教文明

①~③は西洋キリスト教と同じですので省きます。

④イスラム法があるので、解決する。
イスラム法では、人間が法を解釈したり、法判断を下したりすることが許されていない。よって、イスラム法によってすべてが解決できるというわけです。

キリスト教世界では、教徒の一部分が、契約を結んで、国民国家(政府)を形成してよいとなっており、政府は主権をもち、とりわけ立法権を持っている。契約は、人間が結ぶものでありながら、最高の法(憲法)であるとされている。

一方、イスラム教では、主権、立法権は、神アッラーの権限であり、人間(の集団)が、とりわけ法人が、そんなものを持つことは許されていないのです。

キリスト教世界は、国民国家を樹立し、列強の対峙する戦争の時期を経過し、覇権国の世界支配の時期を経験し、二度の世界大戦と冷戦の時期を経過し、ポスト冷戦とグローバリズムの時期を迎えた。だが、GAFAのようなグローバリズム企業は国民国家を翻弄しているように見える。

国民国家の仕組みは、中央銀行があり、税金を集めて、金融政策や財政政策を行うことにあるが、グローバリズム企業は、こうした仕組みから逸脱した組織となっていて、その前提を成り立たせなくしている。

こうしたグローバリズムに限らず、EU(欧州連合)は、これを克服すべく、各国が、経済主権の一部を放棄または制約して、EU内を統一市場のように運用しているが、イギリスが離脱したように、思い通りの成果を挙げているのかどうかは疑問のあるところです。

これに対して、イスラムは、国民国家の成立を認めず、ユニバーサリズムであり、一周回って、グローバリズムの先駆と言ってもよい。

しかしイスラム世界は、ユニバーサリズムであることの利点を、グローバリズムの時代に活かしているとは言えない。

どこに困難があるのかについて、橋爪氏は、次のように分析している。

その弱点として、イスラム世界には、リーダーが存在しないことを挙げている。イスラム世界のリーダーは、本来、カリフ(もしくはイマーム)であるが、不在のままです。

キリスト教世界には、アメリカのような覇権国があって、国際社会をとりまとめてきたが、イスラム世界には、覇権国にあたる存在が欠けている。

中東のイスラム諸国は、産油国となって、巨額の富を蓄積した、けれどもそれを、イスラム世界で分かち合い、産業を振興をしようという動きにはならない。
【私見:最近のサウジアラビアの動きを見ていると、BRICSと協調して、石油をドル建てではなく、ドル以外の元建てで取引する動きがある。こうした動きにより、アメリカは覇権国としての権威を失いつつあるように感じる。】

イスラム世界ではイスラム法に従うとあるが、これは、あくまでムスリム内のことであり、グローバル世界には非ムスリムが、多く存在するので、彼らとの紛争をどのように解決するか、その一般的な原則を、イスラム法はもっていない。

となれば、イスラム世界との紛争は永遠に続くということになるのだろうか?





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