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The Church蒐集の旅2022~ (※2023.0730追記)

2022年11月のある日、レコード棚で長年眠っていた1枚のレコードを売却目的というやましい気持ちで抜き出し状態を確認するためターンテーブル(安物)に置いてPLAYしてみたところ流れてきた音楽に心を奪われた。The Byrdsやonly ones,television,soft boys,Felt,the smiths,go betweensなど自分が慣れ親しんで聴いてきたバンドたちを数多く想起しつつもそれらのバンドに全く引けを取らない魅力を持っている素晴らしいバンドはThe Churchという名前だった。

The Churchは1980年にベース&ボーカルのSteve Kilbeyを中心にオーストラリアで結成されたバンドで何度かのメンバーチェンジを経て現在も活動中。30枚近くのアルバムを出している多作なバンドでもあり来年早々にはニューアルバムのリリースも予定されている。ネオサイケなどとカテゴライズされることは多いが私自身90年リリースのアルバムまでしかしっかり聴き込めていないのでこのバンドの全貌の一端しか掴めていない。そんな俄かファンではあるが、現時点で入手している音源をこの場を借りて紹介しつつ新たに入手したものがあったら随時更新していけたらと思う。


・the church / of skins and heart (1981年 parlophone)

オーストラリア盤オリジナル。記念すべき1stアルバム。Discogsの相場は約7000円くらいだし再発盤も既に廃盤なので最も入手が難しいと思っていたが、まさかあっさりと1000円+送料で買えるとは…腰椎の不調に苦しみ続けたこの1年半くらいの辛さが若干報われた気持ちになった。
デビューアルバムらしい瑞々しさとストレートな粗さと野心、良い意味でのアマチュアリズムが眩しく若々しいガレージバンド的側面が強調されている。実際この時期のMVはタイトなパンツやペイズリー柄のシャツを着たメンバーたちがリッケンバッカーなどを抱えてガレージで演奏する姿を捉えたものが多く、60年代のサイケデリック・ガレージロックへの憧憬が前面に出ていて愛おしい。

この1stアルバムをもってドラマーが交代。その後1stアルバム収録曲とシングルやEP収録曲を含めたタイトル・選曲・曲順・ジャケ違いの編集盤「The Church」をアメリカなど他国でリリースするが大して売れなかったらしい。そのアメリカ盤にも収録されている「too fast for you」は同郷のGo Betweens「lee remick」なんかにも通じるかなりポップな曲でアメリカ盤の購入も当然私の視野に入っているのだった。

・the church / seance (1983 Arista)

CDで今月頭に購入。3rdアルバム。かなり好内容な2nd「The Blurred Crusade」(未入手)をリリース後は本国以外での評価が上がりデュランデュランのUKツアーのオープニングアクトに抜擢される。しかし全く客に受けないのでやる気をなくしてツアー途中に撤退などという尖った行動の後に作られたのがこの3rdアルバム。
ゲートリヴァーブ全開のドラムサウンドやシンセの導入、やや過剰なエフェクトの掛かった非常に80年代的な音像のミックスはオーバープロデュース気味に思えるしメンバー自身もあまり気に入っていないらしいが、時代背景を無視してしっかり聴きこむとこれはこれで奇妙なサイケデリック感を増幅させていて面白い。空間系エフェクトが多用されたギターのフレーズや機械的なリズムが反復する中をモタっとしてヘロっとしたSteve Kilbeyの低音ヴォイスが漂う様はPeter PerrettやSyd Barrettなどを彷彿とさせるもので80年代の作品の中では最もアシッド度が強く長尺の曲も多い。自分がドラマーだったらバンドを辞めたくなるようなやたら機械的に加工されたドラムサウンドはさすがにやりすぎだと思うが奇妙な味があることは否定できない。
クラブ映えしそうな「Electric Lash」などしっかりとシングル向けの曲も入っている。

・the church / remote luxury (1984 warner brothers)

5,6年前に地元のレコードライブラリーというクラシック専門店に存在していたマイナーロックコーナーで同郷のHoodoo Gurusなんかと一緒に購入。なんとなく名前は知っていたし値段も安かったという理由で買ったと思う。現在はロック担当の店員が辞めた影響なのか全くロックのレコードは扱わなくなってしまい久しいが、この店ではPlimsoulsやFlamin' Groovies、the dB'Sなどのレコードをかなり安価で手に入れることができたし前述のマイナーロックコーナーはレコードが100円~500円くらいの値段だったのでジャケ買いなどもよくした(ほぼ外れだったが)。

1984年にオーストラリアでリリースされた「Persia」と「Remote Luxury」という2枚のEPを他国リリース用に1枚のLPにまとめた編集盤。3rdの「seance」延長線上にあるような80'Sニューウェーヴィーなリズムやシンセをフィーチャーした曲が目立つ一方でリバプール出身のギタリストMarty Willson Piperがボーカルを取る「10.000miles」「volumes」の2曲を筆頭にギターポップ/ネオアコファンの琴線に突き刺さるようなポップで清冽な楽曲も多い。Churchの持つ繊細さや曇天が似合う憂いを帯びたサウンドはFeltやSmithsなど英国のバンドに通じるものがありそれらはブライアンジョーンズ風の髪型でリッケンバッカーを弾いているMarty Willson Piperの存在が大きく影響しているのだろうと私は考える。

このレコードを長年まともに聴くこともなく棚に放置し続けていた自分の見る目のなさが恥ずかしいが、とりあえず買っておいてよかったとも言える。

・THE CHURCH / HEYDAY (1986年 EMI)

4thアルバム。UK盤。特に誰とも競合することもなく野口英世×1+送料で購入。2023年に最初に買ったレコードがchurchなのが嬉しい。

ややバンドとしてもソングライターとしても停滞していた時期を長期休暇とYOGAの影響で抜け出して制作された心機一転という意味合いの強い作品で、ジャケットのペイズリー柄のシャツを着こんだメンバーの晴れやかな表情とも呼応するようなchurch史上最も爽やかでポップで分かりやすいアルバム。プロデューサーのピーター・ウォルシュの力も大きいかもしれない。

steve kilbey主導で行っていた曲作りをバンドの共同作業に切り替えた成果なのかライブ感のある楽曲多く、A-5のインスト以外はどの曲でもシングルカットできそうなキャッチーさがある。ストリングスやホーンの導入なども派手さはあるが違和感はない。その反面churchの特色の一つである気難しそうな暗さやサイケデリックな深みのようなものは薄い。

今聴くと一番売れそうなアルバムではあるが、当時は本国では期待通りには売れずにレコード会社からの評価も下がり、海外レコーディングへの道を模索することとなり次作「starfish」のヒットへと繋がっていく。


・the charch / starfish (1988 Arista)

今月半ばに入手した5thアルバムのUS盤。代表作でもありヒット作でもあり最高傑作。4thアルバム「Heyday」(未入手)も名作と呼ばれていてシングルカットできそうな曲が多くわかりやすい魅力はあるが、今作は曲順の流れや曲調の幅、多彩なアレンジなど名盤と呼ぶに相応しいクオリティと統一感があり捨て曲がない。初期に感じたガレージバンドっぽさはほぼなくなっているが紆余曲折を経て到達したロマンティックで官能的な世界観の音像と楽曲を聴き進めていく行為に至福の喜びを感じる。最近買った激俄かリスナーの自分が言うのも何だが、世界中でこのアルバムを愛している人たちが沢山いるのだということをすぐに理解できたし自分もその一員となれたことが嬉しい。

church史上最大のヒット曲の公式映像。

ほぼほぼ再現ライブのような2011年にシドニーで行われたライブ映像も素晴らしい。

・the church / Reptile (1988 Mushroom Records)

アルバム「starfish」収録曲のオーストラリア盤シングル。グリーンヴィニール仕様。U2をまともに聴いたことが自分が言うのも何だがU2っぽいディレイが印象的なギターリフを主体に組み立てられた楽曲でアレンジが上手い。B面「Texas Moon」はアルバム未収録のジャムセッションから派生したようなミニマルなサイケデリックチューン。

・the church / gold afternoon fix (1990 Arista )

6作目。B○○K OFFオンラインで購入。このアルバムは再発アナログも含めて比較的入手が容易で価格も安い。あまり評価されていないということの裏返しだが。。。

長期のツアーによる疲弊、ヒット作の次作というプレッシャー、プロデューサーとの軋轢、メンバーの不仲、cureに曲をパクられる(Love Song)などそこそこ成功したロックバンドに襲い掛かる不安要素が重なりに重なった状態で制作されたアルバムなので充実し活力に漲っていた前作と比べると音に活気がない。実際の所、制作途中でメンバーやプロデューサーからのパワハラによりドラマーのRichard Ploogが脱退。その結果数曲を除いてドラムは打ち込みで代用されているが、打ち込みのフレーズや音色がしっかり作りこまれているわけでもなくガイド的な役割しか果たしていないのでバンドとしてのノリがかなり損なわれている。

メンバー自身や熱心なファンからも失敗作と位置付けられることの多い作品ではあるが、このアルバムに付随するネガティヴなイメージを排除して聴くと個々の楽曲の質はそれなりに高かったりキャッチーだったりする。個人的に7曲目の「Essence」は2nd収録曲「you took」やNew Order「Leave Me Alone」なんかを彷彿とさせつつもChurchらしさが全開のネオサイケデリックチューンでお気に入り。

・the church / priest=aura  (1992 Arista)

priest=aura CD

特に誰とも競合することもなくオークションでワンコイン+送料で購入。CD。地元オーストラリア録音の7作目。LPは2枚組で再発されてもいる。

やや散漫で活気のない印象だった前作の反動なのか優れたアルバムを遺そうという強烈な意志がサウンドの節々から感じ取れる力作でリーダー兼メインソングライターのsteve kilbeyはthe churchの最高傑作と断言している。実際に楽曲の統一感やきめ細やかな配慮がなされた演奏・サウンドメイクはヒット作「starfish」と共通する部分は多いが、より内省的でサイケデリックな精神世界を容赦なく追及したような長尺の楽曲が多くヒット性やキャッチーさは薄い。

このアルバムからJay Dee Daugherty(patti smith bandなど)という経験豊富なドラマーが正式メンバーとして参加している。今まではなかったワルツ調の楽曲なども違和感なくアルバムに溶け込んでいて安定感と楽曲の幅を広げる意味で彼の貢献度は高い。

このアルバムに通底する深淵なサイケデリックサウンドの秘密はタスマニアの農場で栽培された大量の阿片をスタジオに持ち込んでキメまくりながら録音した影響が大きいと各メンバーが自白している。リーダーのSteve Kilbeyに至っては阿片だけでなくG〇 Betweensの某メンバーからの薦めで始めたヘロインの使用も同時に行っていたらしく「Priest=Aura」はドラッグからの影響が切り離せないアルバムなのは事実だ。深いエコーやフィードバックの渦に隠れて輪郭がぼやけた2本のギターサウンドの不思議な高揚感とミニマルなトランス感覚は謎に満ちていて興味深い。

個人的なベストトラックは美しくも不穏な影が覆っているアルペジオが印象的な「Dome」。日本人の私にとっては羅針盤を聴いた時に感じる感覚ととても近い。またこのアルバムの中で最も長尺な9分越えのナンバー「chaos」は長年の経験で培ったサイケデリック感覚が高いテンションと豊富なアイデアで表現されているthe churchの一つの到達点とも思える楽曲で感動してしまう。

初めて聴くthe churchのアルバムとしてはハードルが高すぎて人に薦めることはできないが、80年代からじっくりとthe churchを聴きこんだ上で彼らの世界観を理解しようとする気持ちがある人にとっては非常に聴きごたえのあるアルバムだ。

・the church / Sometime Anywhere (1994年 Arista)

特に誰とも競合せずオークションで購入。400円。8作目(多分)。オークションサイトなどで沢山の人が持っているであろう評価の定まった有名なレコードに高額な課金をしている人々(業者も多数だろうが)の多さに哀れみを感じながらchurchの所有音源を増やしている2023年である。

前作のリリースから重要なリードギターや印象的なギターソロを担っていたギタリストのPeter KoppesとドラマーのJay Dee Daughertyが不仲やらなんやらで脱退したため2人ユニット体制で制作されたアルバム。ドラムに関しては生ドラムと打ち込みが半々くらいの割合でこれまでのアルバムと比べるとアレンジの自由度は高め。

CDをトレイに入れて76分57秒というプレイタイムが表示された段階で普通の人は聴く気がしなくなるかもしれない。全13曲収録されているが半数以上の曲が6分越えの長尺ナンバーということもあり自分もApple Musicなどでは途中まで聴いて挫折することが多かったが、実際に音源を手に入れた今月(2023年7月)は身体的・精神的な絶不調で安静を余儀なくされていたためじっくりと3回ほど通して聴くことができた。怪我の功名とでもいうか。

前作の作風を踏襲したような本格長尺サイケデリック路線をさらに推し進めた聴き手を選ぶような作品なのは事実だが、打ち込みのドラムやシンセ・SEの使用によって強調されたミニマルなトランス感溢れる音像は非常に90年代的でPrimal Screamの「Scremadelica」やStone Rosesの長尺ナンバー(Fools GoldやOne Love及び2nd収録曲とか)などと通じる部分があるように思う。

アルバム冒頭からキャッチーさが微塵も感じられないダークでサイケデリックな長尺楽曲が容赦なく連発されるのだが、10曲目と11曲目にやたら爽やかでポップな楽曲が一服の清涼剤的な感覚で配置されている構成に面喰った。元々はこういう曲が得意なバンドなんだよなぁと感慨に耽ってしまった。まあその次の曲は8分超ありすぐに本格サイケデリック路線churchの世界に引き戻されてしまうのであるが。

・the church / under the milky way:the best of the church (1999 Budda )

ベスト盤CD。Amazonで購入。

81年~94年までにリリースした音源から選曲されている全17曲。購入の決め手となったのは各種サブスクリプションサービスでは聴くことができない初期シングル「Too Fast For You」と「Tear It All Away」が選曲されていること。この2曲は無数あるchurchの楽曲の中でもポップ度とByrds度が高く初期の代表曲といっても差し支えない。PVも作られており60年代サイケデリックや中世ゴシック建築などへの憧憬がチープながらも感じられて愛おしい。

私自身もitunesなどを使ってChurchベストの選曲に挑戦し片っ端から好きな曲を入れていたら3時間以上の膨大なプレイリストになってしまい逆に聴く気がなくなるということがあったので、公式が考えた無難なベスト選曲をあれこれ考えずに浴びて聴くという行為は精神衛生的にもよい。
Churchの黎明期と全盛期を上手く捉えた入門編として優れたベスト盤であると思う。


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