ゆるい生活のすすめ
「体調を崩す」という言葉その通りに、「健康」な状態というのはある日突然ガラガラと崩れる。だけどその前に少し崩れてきて、私たちの生活に邪魔な不快をもたらし、ギリギリだと、気付かせようとすることもある。私の場合は「PCを触って3分で気分が悪くなる」だったし、群ようこさんが『ゆるい生活』の中で書いている症状は、「くるくるっと軽く目がまわった」だった。
それは突然やってきた。忘れもしない二〇〇八年の十一月、いつものように、朝、目が覚めてベッドの上で体を起こしたとたん、くるくるっと軽く目がまわった。(中略)
日常生活はふつうにできるのだが、ちょっと体勢を変えたときの、くるくるが鬱陶しい。食事も食べられるし、仕事もできるのだけれど、不快な日が続いた。
四日経っても症状が改善されないので、これは本格的にまずいと感じた私は、友だちが長年通っている漢方薬局を紹介してもらった。
(群ようこ著『ゆるい生活』より)
初めて行った漢方薬局で、病気ではなく体の冷えが原因だと告げられ、
・食べ過ぎ
・甘いものの摂りすぎ
・水分がたまっている
と指摘される。
心当たりがある著者は、顔を見ただけでそんなことがわかるのかと驚き、ポツポツと白状する。
そして2週間は甘いもの厳禁だと言い渡され、自分の体のためだと必死に言い聞かせながら、禁断症状に悶絶しながら、まず1週間を過ごす。
そしてまた薬局へ。
私が禁を破って、ばくばくと和菓子を食べてしまっても、誰にも迷惑をかけるわけではないが、私の体調が今より悪くなるのは嫌なのだ。私はもともと料理には砂糖を使わないので、甘いものはおやつだけである。そのおやつの楽しみがなくなり、私は毎日、
「ま、まんじゅうが、た、食べたい……」
と禁断症状に悶絶しながら、1週間後、また薬局を訪れた。
1週間では、自覚できるほどの症状改善はなかったようだが、薬局で先生が顔を見てすぐに、甘いものを食べなかったことに気づき、褒めてくれる。しかし必死の我慢にも関わらず、先生が毎回やってくれるリンパマッサージは死ぬほど痛い。だけど痛い中でも体の反応が違うことに著者は気づく。
「いたー、いたたたー」
と断末魔の叫びは変わらない。ただ先週と違うのは、マッサージの間中、両手からじわじわと汗がしみ出てきたことだ。先生が首筋を圧すたびに、じわっ、じわっとしみ出してくる。体が水を含んだスポンジになったようだ。
そして2回目は水分の摂取量についてのアドバイスをもらって帰る。次の1週間は甘いものと水分量に気をつけて生活するのである。
そんな感じで週に1度通い、1週間の報告をしたり新しい相談をしたりしながら、体との向き合い方を知っていく。
長い間通っていると、1週間の間にはいろいろある。働きすぎたり、食べ過ぎたり、運動しすぎたり。2週間の厳禁期間を経て、油断して甘いものを食べ過ぎてしまったりすることもある。だが時間が経つほどに著者の体のセンサーは敏感になっていき、少し無茶をすればすぐに自覚できるようになるし、適量もわかっていく。
「体が悪いとアンテナが鈍くなってくるんですよね。体がニュートラルな状態になると、自分の体の快、不快に敏感に気づくようになるんです。」
先生の言葉通り、甘いものを食べ過ぎると頭が痛くなることに気づいたり、自分の体にあった時間の使い方が徐々にわかるようになる。そして、例えば体調が悪くなった時にどの漢方をどのくらい飲めばいいのかといったことも覚えていく。つまり、だんだんと自分で自分の体の管理ができるようになる。自分の体がわかるようになっていくと、漢方を飲む回数も減っていく。自分の体のクセが分かれば、無理な食事制限や運動は不要だ。
途中、著者以外の様々な人のエピソードが盛り込まれているのだが、体質も必要な食生活も十人十色でとても面白い。身近な誰かの顔が浮かんでくる。
そんな風にして1週間ごとに自分の体をアップデートしていく群ようこさんの様子が約6年分書かれたエッセイ『ゆるい生活』。おまんじゅうや、チョコレート、氷菓という単語がよく出てきて、それだけで甘いものを買いに走りたくなってしまうのが難点だが、
病院に行って薬をもらう、体の調子が悪くなった時にだけ整体やマッサージに行ってとりあえず回復する、という対処療法が当たり前のようになってしまっている私たちには、著者が悶絶する姿を見て、我が身も見直すべきなのでは…?と自分と向き合うきっかけになるのではないだろうか。なるといいな。私も自分にあった水と食事の量を見直すことにした。
「わりと元気」=「健康」=「休まなくても大丈夫」
数年前の私はそんなイメージを持っていた。だけど、その「健康神話」はある時、一気に崩れた。当時の私と同じように、自分では割と元気だと思っていて、実際は不調に気づいていない人が多い気がする。「困った時は薬を飲んで治った気になっている人」はもしかしたらそれ以上いるかもしれない。
私たちの体は素直だけど、脳みそはずる賢く、体からの信号を無視させる(体への信号は脳みそが送っているのだからなんだか矛盾しているけど)。体の信号を無視させる原因はストレスとかホルモンとか薬とか色々だ。体調不良の時に本当に必要なのは薬ではなく、休養と正しい食生活だったりする。体の痛みに必要なのは薬ではなく、正しい座り方や歩き方を知ることだったりする。
野口整体の野口晴哉先生はこう言っている。
これだけ冷房がきいていて、いつでも冷たくて甘いものが食べられて、みんながPCもスマホも持っていて、働く時間が長い社会の中で、「自分の体に適うように飲み、食い、働き、眠る」ことができる人がどのくらいいるのだろうか。冷えと砂糖と疲労の蓄積は、体を鈍くしてしまう。
私自身も自分の体を観察する日々である。自分ことを知り、ニュートラルな体を作り、自分で調整できるようになれば、生活に支障が出るような大きな病気になることはなく、やりたいことを楽しく続けて生きていける体を作ることができると信じている。そのためには、厳しい食事制限などではなく、群ようこさんがやっているような基本をおさえたゆるい生活がきっと続けやすい。
最後に、群さんがガリガリ君の誘惑に負けたエピソードを紹介する。
猛暑のなか家に帰って、一気に二本食いした。一時的に体がほっとした。今日はこれでいいんだと納得した。たまにはこれくらいしないと息が詰まる。その後、体調にも変化がなく、無事に過ぎている。還暦を過ぎると、予想もしなかった問題も起きてくるはずだ。が、これからもこのような感じで、基本は抑えつつ、ゆるく生きていければいいなと思っている。
<書いた人>
整体師 万力春乃 やってこ!整体(とHAKU)
揉んだり引っ張ったりしない痛くない方法で、体が本来の力を出せるよう整える整体をやっています。本の中で漢方が処方されるのと同じように、毎回施術後にセルフケア体操をご紹介。ニュートラルな体を一緒に作りませんか?
出張整体やイベント出店などで各地に出没。オフィスなどでのセルフケア体操教室も実施しています。
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