準備の「質」の差:ラグビー早明戦レビュー<1>
2020年の早明戦。対抗戦Aの優勝を賭けた大一番は、明治が34-14で勝利した。
スコア以上の差があったという見方もあろうし、スコアほどの差はないとの見方もあろう。「『強い方が勝つ』のではなく、『勝った方が強い』」と考えるならば、スコアと力の差を結びつけて考えることに意味はない。ただ、私の見るところ、この差は、力の差と言うより、準備の「質」の差であるように思える。
この試合の勝敗を分けたのは端的に言えばセットピースの差だ。スクラムで明治が圧倒し、ラインアウトでもプレッシャーをかけ、早稲田にクリーンな球出しをさせなかった。現代ラグビーにおいて、一方のセットピースがこれだけ機能しなかったら試合にならない。ただ、早明の組み合わせの場合、スクラムにおける明治優位は織り込まれるべきもの。早稲田の問題はラインアウトが壊滅したことだろう。
スクラムの駆け引き
早稲田のスクラムは低い。明治のスクラムは強い。早明戦では、明治のスクラムに対して低く組む早稲田がどう対抗していくかが見所の1つだ。
この試合、いつものように、明治は早稲田の低さに合わせなかった。高さを保ったまま、上から押し潰すように押した。
この写真を見ると、明治の左プロップとそれを後ろから押す左フランカーが早稲田に対して上から圧力をかけているのがわかる。早稲田の3番は腰よりも頭が低くなってしまっており、もう少し押したら潰れる状態になっている。
また、プロップの片方は少し外から回り込むようにしながら押し潰そうとすることもあった。もう片方のプロップはまっすぐ押すので、挟み込まれるようになって早稲田のフロントローが落ちる場面が頻発し、早稲田のコラプシングとなった。
下の図は1番が回り込むように押した場合のイメージ。
面白いのは、そういうときでも、レフェリーが見ている側のプロップはまっすぐ押し、見てない方のプロップが回り込むような押し方をしているように見えたことだ。例えばこの写真、レフェリーの反対側にいる明治3番はまっすぐ押していないのがわかる。
このあたりを含め、明治が押し方の準備やレフェリーを巻き込んだ駆け引きについていい準備が出来ていたということだろう。
なお、上から圧力を受けているので、このコラプシングは実際には早稲田が崩したとは言い切れないものがある。しかし、上から潰された場合は多くのレフェリーは低く組んでいる方のコラプシングを取る。ジャパンの長谷川コーチが低く組むスクラムを捨てたのもそれが理由だ。そう考えると、早稲田もそろそろ伝統の低いスクラムだけではなく、最新のスクラム理論を取り入れて新たな組み方を模索していくべきではなかろうか。
明治、ラインアウトを制圧
早稲田の攻撃プランを大きく崩したのがラインアウトだった。明治は、22mラインの外側でのラインアウトにはそれほどプレッシャーをかけなかったが、22mラインより内側の、決定的な場面でのラインアウトではほぼドンピシャのタイミングで競りに来て、早稲田のキャッチを効果的に妨害した。
おそらくサインが読まれていたのだろう。それを恐れた早稲田のスローワーは2回もノットストレートを犯してしまう。
ただ、早稲田は帝京戦でもスローミスでのボールロスト2回、ノットストレート2回の失敗があった。それを思うと、今年の早稲田はラインアウトが弱いと見切って明治が準備してきた可能性もある。
ペナルティからラインアウトに出しても、そこでボールを失ってしまうのであれば攻撃が組み立てられない。そこで早稲田は前半の終盤からクイックタップ(チョン蹴りからの速攻)を仕掛けてきたが、その割り切りが少し遅かったと思う。また、クイックタップを仕掛けるならば全体のゲームテンポをもっと早くする工夫も必要だ。
プレビューの復習
プレビューで書いた私の注目点は三つあった。
第1は、早稲田が、明治のワイドな展開にどう対処するか。これは、早いフェイズでの横展開に対してはドリフトディフェンスが上手く機能していたことで、上手く対処できていたと思う。
しかし、後半箸本のノックオンで明治が取り損なったトライが典型だが、フェイズを重ねていくとエッジの方でミスマッチ(明治は体の大きいフォワードがエッジに待機しているのに早稲田のディフェンスは体の小さいバックス)が頻繁に発生していた。フェイズを重ねて明治がフォワードをポッドに配置していくのに対し、早稲田のディフェンスが対応し切れていなかったということだと思う。
第2は、明治が早稲田のダブルライン攻撃にどう対処するか。これは、明治がラインアウトを制圧し、またラックでも激しく絡んできたことでほぼ達成されていた。ただこの絡み方、プレビューで懸念したような寝たプレイではなく、きちんと立って絡んできていた。キックオフ直後の最初のラックでクリーンに早稲田をオーバーしてボールを奪取したのが典型だ。
この立ってプレイする意識こそ、明治に欲しかったもの。この試合、明治のフォワードの規律に心から拍手したい。
第3は、テリトリーキック。明治は3回ほどテリトリーキックを蹴ったが、チェイサーのポジショニングがでこぼこで、カウンターから早稲田に走られてプレーエリアを戻されていた。早稲田がそこからトライを取れなかったのはノックオンや裏が空いていたのにキックしなかったなどのミスによるものだ。早稲田ももっとキックを蹴ってくるかと思ったが2回程度しか蹴っていない。その分慶応と違ってテリトリーを稼ぐことができなかった。これはこれでゲームプランだったのだと思われるが、理由はよくわからない。
まとめてみると、「明治は良い準備をしたな」ということに尽きる。スクラム、ラインアウトもそうだし、ラックでの規律も、自分たちの準備に対する自信が裏付けにあってのことだろう。早稲田ももちろんいろいろ準備したと思うが、いい場面で早稲田に頻発したノックオンを考えると、準備の「質」に大きな違いがあったと言わざるを得ない。
大学選手権決勝まであと一ヶ月弱。早稲田はどう立て直してくるのか。
(続く)