プレー解剖 智将沢木が練り上げたアタック:キヤノンイーグルズ対NTTドコモレッドハリケーンズマッチレビュー<2>
キヤノンイーグルスの監督は智将として名高い沢木敬介。2月21日の試合、最終的にはNTTドコモレッドハリケーンズに屈しましたが、やはりよく考えられた攻撃を見せてくれました。
今日は、キヤノンの基本攻撃パターンと、「注目の1シーン」として前半30分のキヤノンのトライを。
「注目の1シーン」はこれからも続けていきたいと思っています。
キヤノンの基本的な攻撃パターン:田村優に多くのオプションを持たせる
基本的な攻撃パターンは、9シェイプと10シェイプを組み合わせて早いリサイクルでディフェンスを混乱させ、田村優の即興的攻撃が生きるような状況を作り出すこと。
9シェイプとか10シェイプについては、下記の記事を読んでください。
細かく見てみます。
まず基本的な立ち位置は、スクラムハーフ田中史朗の真横にフォワード3人(=9シェイプ)、その影に隠れるようにスタンドオフの田村優、さらに田村の横にも3人(=10シェイプ)が並びます。
ラックになると、スクラムハーフの田中史朗から、真横にいる9シェイプのフォワードにパスします。
ボールをキャッチした9シェイプのフォワードは、そのまま縦に進んでクラッシュしてまたラックを作るか、真後ろの田村優にパスします。
この時、田村は真横やや斜め前に走っていることが多いです。
田村はボールを受け取ったらそのまま真横の10シェイプの選手たちにパスします。そしてキャッチした選手はまっすぐ走り、ディフェンスとクラッシュ、ラックを作ります。この時、スクラムハーフの田中史朗はあらかじめラックができそうな場所に走り寄っています。
ラックが形成された瞬間、既に田中史朗はポジションに着いてます。田村も最初のパスをもらってからずっと横方向に走ってますから、田中の真横にいます。そこで田中はすぐにボールを出し、今度は田村にパスします。
この2回目のラックでの球出し(=リサイクル)は本当に早く、ディフェンスの再構築が間に合わないケースが多いです。
そこで田村は、ディフェンスの再構築の様子を見て、最適な攻撃を判断します。再び10シェイプにパスすることもあれば、その後ろにいる12番(15番のこともある)にパスすることもあり、あるいは裏に蹴ることもあります。
相手のディフェンスが整う前に、田村に多くの攻撃の選択肢を持たせる、というのが、キヤノンの基本攻撃パターンの特徴でした。この、田村にスペースを与える攻撃パターンから、後半36分のトライにつながる田村のビッグゲインが生まれます。
注目の1シーン:前半30分のキヤノンのトライ
また、初トライとなった30分の攻撃は、おそらく準備されたオプションの1つなのでしょうが、非常に興味深いアタックでした。
この時、キャノンボールのラインアウトからのリスタートだったのですが、私は真後ろから見て、14番のポジションが面白い、と思い気にかかってました。
ラインアウトからはスクラムハーフ田中史朗を経て、少し離れて立っていた12番マイケル・ボンドへ。ボンドはまっすぐ進んでクラッシュ、ラックを形成。
次のスライドからは向きが変わります。上が攻める方向です。
ボンドが作ったラックから田中が素早くパスアウト、13番ジェシー・クリエルにパス。クリエルはディフェンスを引きつけて、真後ろを横方向に走っている田村にパス。田村の左斜め後ろには14番山田聖也が並走してます。
15番橋野のデコイが効いた
この時のポジショニングを確認します。
15番橋野は5mラインの内側でボールを取れる位置にいました。11番のサウマキの姿は近くにはなく、5mラインの外側にはスペースができていました。
この時、私は15番にパスが行くと読んでカメラを橋野に向けていましたし、ドコモのディフェンスの14番茂野洸気も橋野をノミネートして、外からもフルバックのトム・マーシャルが寄ってきます。
田村はここでまず14番山田に短いパス。山田はスピードに乗って走ります。ドコモの13番が山田をノミネート、15番橋野にも14番茂野洸気が付きます。
15番橋野はマークに付いていたドコモ14番茂野を十分引きつけます。引きつけすぎてノーボールタックル受けてますが(笑)。
その結果ドコモの15番マーシャルはボールを持って走っているキヤノン14番山田のディフェンスに行かなければならなくなります。
しかしこの時、左タッチラインと5mラインの間のスペースに、どこからともなく11番ホセア・サウマキが出現します(ポジション的にはいてもおかしくないのですが、ずっと気づかなかったので別のところにいたのだと思います。橋野と入れ替わってフルバックの位置にでもいたのでしょうか?)。
キヤノン14番山田はドコモ15番マーシャルを引きつけて、キヤノン15番橋野を越える飛ばしパスをサウマキへ。
この時サウマキはフリーです。トップスピードでパスをキャッチ。縦に突進します。内側から戻ってきたディフェンス2人を躱してトライ。
ウイングを同じ側に移動させての攻撃
リサイクルの時間を使ってウイングを2人同じ側に移動させるのは、2019年ラグビーワールドカップでジャパンが多用した攻撃でした。
このキヤノンのアタックは、片方のウイングをミッドフィールドで使い、フルバックを左エッジに立たせる形だったので、ジャパンの攻撃とも違います。両ウイングを同じサイドに走り込ませ、フルバック橋野をデコイに有効に使う、さすが沢木!と思わせる、非常に良く準備された美しいアタックでした。
私もデコイに引っかかりました!
この時、橋野に引っかかったのはドコモだけでなく、私もでした(笑)。カメラはずっと橋野を追っていて、飛ばしパスは撮れたものの、ボールの後追いになってしまったのでサウマキのキャッチの瞬間を撮ることができなかったのです・・・・。
両チームとも今後に期待
接戦の末ドコモに敗れたキヤノンでしたが、とてもいいチームに仕上がっていると思います。今年はすごく面白いラグビーを見せてくれそうです。TJペレナラの個が生きるようにチームを作ってきたドコモも、もっと見たいチームです。関西ベースなので見に行けないのが惜しいです。
(終わり)