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プレー解剖 サントリーのラッシュアップディフェンス対策:サントリーサンゴリアス対クボタスピアーズ(4月3日)<3>
最終的に33-26の接戦の末サントリーが勝利した4月3日のサントリーサンゴリアス対クボタスピアーズ。
試合が始まる前は、クボタの出足の早いラッシュアップディフェンスにサントリーがどう対応するかが1つの大きなポイントだと思っていた。
そして実際、サントリーは非常に明確な対策を講じていた。
クボタディフェンスの復習:対ホンダHEAT戦から
ここではまず、クボタのディフェンスをおさらいしておこう。
38-7と完勝した対ホンダHEAT戦から。
ホンダのダブルラインに対するディフェンスから。前半0分、ホンダは反対方向からランナーを走りこませてフロントドアとし、元々ポジショニングしていた選手と合わせてダブルラインを形成して攻めようとする。
そのホンダに対し、クボタは内にかぶせるように出足の早いディフェンスを仕掛ける。ポイントは、外から内に絞り込むようにして走りこんできて、パスを受けた選手が次に展開しようとするスペースを潰すこと。そうすることで、外側へのパスを封じてしまう。
後半12分にも似たような展開があった。ラックからパスアウトしたホンダに対し、クボタのディフェンスは速いラインスピードで詰めていく。
ホンダはバックドアまでボールを下げようとするが、クボタのディフェンスは実はバックドアを狙って詰めてきている。内に絞り込んできて、パスを受けてこれからアタックしようとする選手の外のスペースを潰してしまう。
そしてこの時はインターセプトでボールを奪い、トライまで持って行った。
クボタのディフェンスの特徴と弱点
この2つの局面を踏まえ、クボタのディフェンス特徴をまとめると以下のような形になる。
まず、ラックからボールが出たら、ディフェンスラインは、フロントドアを潰すのではなく、バックドアにタックルを仕掛けることを狙って速いラインスピードで飛び出す。
特に、バックドアでボールを受けるスタンドオフに対し、直接タックルに行くだけでなく、スタンドオフから外にパスを出すスペースまでも潰してしまう。
そのために、ディフェンダーは、ボールに合わせて外にスライドする(ドリフトディフェンス)ではなく、最初にノミネートしたアタック側の相手に向かって飛び出すようにタックルを仕掛けていく。それは内に絞り込む形が多く、スタンドオフを頂点とする「傘」のような形になるので「アンブレラディフェンス」という守り方だ。
ただこの守り方には1つ弱点がある。ディフェンスはスライドせず、むしろ少し内に絞りながら前に詰めていくので、外側にスペースができてしまうことだ。
サントリーが狙った外のスペース
サントリー戦、クボタは「バレットの時間とスペースを奪う」ことを狙ってか、やはり出足の早い強烈なラッシュアップディフェンスを仕掛けてきた。それに対してサントリーは、外側に生まれるスペースを、再現性の高い形で攻撃してきた。
スクラムハーフからスタンドオフのボーデン・バレットがボールを受け取ると、大外のスペースに向けてキックパスを蹴る。そのスペースにはエッジの選手が走りこんでくる。
クボタのディフェンスは飛び出してしまっているから、蹴った先には大きなスペースがあり、サントリーはキックパスをキャッチさえできれば大きくゲインできる。
実例:47分と32分
例えば47分。サントリーは自軍左サイドでラック。そこからバレットが右サイドのエッジまでほぼフラットなキックパスを蹴る。そして待ち構えていたウイングがキャッチして、ビッグゲインを勝ち取った。
同じく32分。クボタがシンビンで1人少なくなってからの中盤の攻防。左サイドで出たボールをバレットが12番の中村亮土にパス。中村は右サイドにスペースができているのを見て取り、右サイドにフラットなキックパス。ここでも大きくゲインし、ラックから左に展開、トライを取った。
この32分のアタックのポイントは、キックパスを蹴ったのがバレットではなく中村だったと言うこと。
つまり、バレットの即興ではなく、サントリーのチーム戦術として、クボタのラッシュアップディフェンスの外のスペースを狙っていたと言うことだ。これはキックではなくロングパスのこともあったが、的確な攻め方でサントリーは、再現性の高い形でクボタのディフェンスを攻略することができた。
クボタはどう対策を打つ?
実はこの攻撃、2019年のラグビーワールドカップのプール戦、ニュージーランド対南アフリカ戦で、南アフリカのラッシュアップディフェンスに対してニュージーランドが仕掛けた攻撃と同じものだ。つまり、ラッシュアップディフェンス対策として有効な対策だったと言うこと。
クボタは、これに対してさらなる対策を打てなければ、トーナメントで再戦したとしても勝利することはできないだろう。サントリーでなくとも、この週末に対戦するトヨタを含め、クボタと対戦するチームは同様の対策を打ってくる可能性があり、クボタとしてはさらなる対応策が必要になる。それがどのような形になるのか、楽しみだ。