プレー解剖 常に複数の選択肢を持つパナソニック:パナソニック ワイルドナイツ対ヤマハ発動機ジュビロ<2>(4月10日)
日本代表のみならず各国代表を数多く擁し、今シーズン、圧倒的な強さを見せつけているパナソニックワイルドナイツ。その1つの特徴はスタンドオフ山沢拓也の正確なキック。4月10日の対ヤマハ発動機ジュビロ戦でも、その精度が遺憾なく発揮された。
しかしパナソニックの攻撃の柱はそれだけではない。ディラン・ライリーとハドレー・パークスの両センターの突破力を生かすよう工夫されたアタックオプションも特長だ。
クボタスピアーズの場合:幅を広く取るアタック
パナソニックを見る前に、他のチームのアタックオプションを見てみる。
まずはクボタスピアーズ。
クボタは、スクラムハーフからのパスを受ける9シェイプのフォワードたちと、スタンドオフからのパスを受ける10シェイプとの間を広く取るのが特徴。スタンドオフのバーナード・フォーリーも、広めの立ち位置を取る。
基本パターンはラックから9シェイプにパス。9シェイプはクラッシュしてまたラックを作る。そのタックから素早くパスアウト。あとはディフェンスの様子を見て、スタンドオフのバーナード・フォーリーがパス、ラン、キックを選択する。12番の立川理道が絡むこともあるが、基本的にはこのパターンだ。
キヤノンイーグルスの場合:田村優の即興性を生かす
次にキヤノン。
キヤノンの場合は、クボタと違って9シェイプと10シェイプが広めに立つのではなく、重ね合わされるような立ち位置を取る。特に、スタンドオフの田村優は9シェイプのフォワードの真後ろに立つ。
ラックからパスアウトされた場合の選択肢は2つ。そのままクラッシュしてラックを作るか、バックドアに当たる真後ろの田村にパスするか。
田村にパスされた場合、基本的なパターンは、田村はそこで横に立つ10シェイプにパス。10シェイプが改めてクラッシュしてラックを作る。
そうやって10シェイプが作ったラックから素早くパスアウト。もう一度田村優へ。田村は、ここでディフェンスの様子を観察し、パス、ラン、キックを選択する。
これらの攻撃の基本的な特徴は、まず9シェイプがラックを作ること。キヤノンの場合は9シェイプはラックを作らないことがあるが、その場合は次の10シェイプでラックを作る。
パナソニックの場合:センターの突破力を早い段階で活用
パナソニックの特徴は、これらの2チームがやっているような形ではラックを作らないことだ。
まず、9シェイプの3人は、ラックから少し距離を取って広めに立つ。10シェイプの3人も、さらに横に広めに立つ。広めに立つという意味ではクボタに近いが、違いは、スタンドオフが広めに立たないこと。もっとスクラムハーフの近く、キヤノンの田村優のような立ち位置を取る。
何よりも大きな特徴は、常に複数の選択肢を持って仕掛けていること。ラックから球出しをする時点で、スクラムハーフはボックスキックに加えて2つの選択肢がある。1つは9シェイプのフォワードにパスすること。もう一つは後ろに立っているスタンドオフの山沢拓也にパスすることだ。
これからはその2つの選択肢それぞれに見てみる。
まず9シェイプにパスした場合。この時、9シェイプでボールを受け取った選手(多くの場合はフッカー堀江)には2つの選択肢がある。
1つはまっすぐクラッシュしてラックを作ること。これは普通の攻撃。
もう一つは、外側に13番ライリーを走りこませて、トップスピードで走るライリーにパスすることだ。ライリーは、ディフェンスの外側のチャンネルを狙って、タックラーの中間に走りこんでいく。
4月10日のヤマハ戦では、このライリーのランで面白いように突破していた。
ライリーは13番。つまりアウトサイドセンター。しかし、この攻撃オプションの時は、インサイドセンターのハドリー・パークスと入れ替わっている。なので、ライリーが突破したあと、パスがパークスに渡っていく局面が何回か見られた。
もう一つのパターンはスクラムハーフからスタンドオフ山沢にパスされたとき。この時も山沢は2つの選択肢がある。
1つは横に立っている10シェイプにパスすること。この10シェイプの3人も開き目のポジションを取っているので、パスを受けたらディフェンスの外側を突く。
もう一つの選択肢は、ディフェンスの裏へのキック。10シェイプを狙ってラッシュアップディフェンスを仕掛けたときなんかにこのキックは有効で、山沢は正確なキックでボールを再確保させ、繰り返しゲインに成功していた。
常に複数の選択肢を持つアタックと精度の高いキックディフェンス
このように、パナソニックは、スクラムハーフはもとより、そこからパスを受けた選手も常に複数の選択肢が与えられるアタックの形をしている。悪天候で行われた神戸製鋼戦を除き、パナソニックと当たるチームはそこでディフェンスが絞りきれずに失点を重ねていってしまった。
正確なキックとこのアタックの威力は凄い。もう1つ、キックディフェンスも精度が高い。ヤマハは「蹴らされた」形から3つのトライを失った。
そうなると興味がわいてくるのはボーデン・バレット擁するサントリーとの対決。果たしてバレットのキックに対してもパナソニックは同じように切り返せるのか。あるいはバレットはそのさらに上を行くのか。この2チームが対戦するのは決勝戦。現地観戦できるかどうかはわからないが、この対決を是非とも見たい。