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UFOの夏という魔力

 はい、そんなわけで今回は箸休め的な意味も含めて夏休みの宿題がてら読書感想文を書きたいと思います。私的に伝説的なカテゴリに属する凄すぎるライトノベルです。とにかくとんでもないです。未読の方は是非手に取って下さいとしか言えません。なのでマーケティングします。ただ、この小説を冬にレビュゥしようものなら過激派原理主義者にキャトルミューティレーションされて、心臓にアルミホイル捲かれて六角電波の影響下に放り込まれて、さっきから後ろにいる誰かに刺されるので夏真っ盛りの今しかチャンスはないのでした。


○そもそもどんなお話?

 主人公は「浅羽直之(あさば なおゆき)」という、どこにでもいるようでどこにもいない、間違いなく自身を平凡だと思っている非凡な少年です。彼は新聞部というこれまた実在するのを見たことがない怪しい部活動にいそしむ中、「水前寺邦博(すいぜんじ くにひろ)」なる、キャラが濃いにも程がある万能な天才の先輩に半ば拉致されて、夏休みの間山ごもりをすることになります。

 正直意味がわからないと思いますが、私も最初は意味がわかりませんでした。山ごもりって何? と思いますがまあそれは後々に重要なファクターとなるので先に進みましょう。そんなこんなで貴重な夏休みを浪費してしまった浅羽くんはせめてもの思い出にと、夏休み最後の日の夜、学校のプールに忍び込むことにしたのです。

 めちゃくちゃ気持ちいいぞ、と誰かが言っていた。だから、自分もやろうと決めた。山ごもりからの帰り道、学校のプールに忍び込んで泳いでやろうと浅羽直之は思った。

 そして彼は誰もいないはずの夜のプールで運命的な出会いを果たすのでした。

 スイングドアを押し開けて、夜のプールサイドに出た。そこで、浅羽の思い出し笑いは消し飛んだ。瞬間的に足下がお留守になって、のたくっていたホースを踏んづけて危うく転びそうになった。夜のプールサイドに、先客がいたのだ。
 女の子だった。

 もう素晴らしすぎる導入だと思いますが、そういった物語そのものの機微は次の項に譲ります。

 取り敢えずこんな感じで主人公はヒロインと出会いました。ヒロインは「伊里野加奈(いりや かな)」。 不思議な女の子です。手首には鉄球が埋まってるし、そもそも生徒でもないのに浅羽くんの通っている中学校のプールに侵入しているやべー奴です。けれども読み進めるにつれて彼女が愛おしくてしかたなくなり、浅羽くんの優柔不断ぶりにキレそうになりながらも、二人の中を応援したくなります。

 こんな感じで、浅羽くんと伊里野、そしてUFOと愉快な仲間たちを取り巻く一夏の物語が始まるのでした。

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○何が凄いの?

 作者である秋山瑞人氏の文章力です。魔性の文章力です。言葉だけで紙面から夏が溢れ出てきて、むせ返るような熱気と、夕方以降のあの切ない感じが常に視界をジャックしてきます。例を挙げると、

四限目はまだ終わらない。授業の静けさがグランドを支配している。近くの果樹園で発電機が回っている。微かに農薬の匂いがする。何種類ものセミが鳴いている。空が恐ろしいくらいに青い。

 一体何を食べたらこんなにテンポ良く、情景を切り替えながら、空気感を切り抜いて、美しく纏めることの出来る文章が書けるのでしょう。私には一生掛けても辿り着かない領域かもしれません。ネタバレにならないように場面は選んだのでこれは所詮ほんの一例です。もっと切なく儚く、それでいて迫力に溢れた表現が暴力のように襲いかかってきますので、これ以上は是非とも本文でお確かめ下さい。


○それだけ?

 いいえ、そもそも小説で一番の肝になるストーリー(構成)がとんでもないです。こればっかりはネタバレに配慮すると中々書くことが難しいのですが、できるかぎり皆さんにお伝えできればと思います。

 基本は、浅羽くんとその周囲の登場人物が最近噂になっているUFOを探し回っています。けれどもこのUFOはかなりきな臭いもので、今は昔の冷戦の中の米ソ対立のように、洒落にならない大国同士の対立があったり、堅気ではない大人の人たちがすぐ近くをうろついたりしています。いわゆるセカイ系ですね。ポスト・アポカリプスにも近いかも。正直一つ一つの事象が、中学生の手に負えるものではないのですが、そこで活躍してくれるのが伊里野というヒロインの存在です。彼女は口数も少なく、ぶっちゃけ何考えているのかわからないことたくさんですが、彼女がキーパーソンとなりながら、UFOという非現実を浅羽くんみたいなその辺の中学生の手の届く範囲に落とし込んでくれるのです。

 あくまでフィクションでSFなストーリーラインが、まるで目の前で繰り広げられているような親近感と錯覚を覚えるのは間違いなくこの伊里野の存在が大きいと思います。UFOの秘密や世界の真実が彼女の口から語られることにより、非現実のお話がリアルな物語となって私たちに伝わるようになっています。

 他にもシリアス一辺倒ではない、笑いを取りに来るエピソードや、私たちの日常で見て見ぬ振りをしている不義理に対しても深く切り込んでくるエピソードがちりばめられています。とくにこんな世の中だからこそ、私たちの真に迫ってくるようなお話がこの本たちには込められていると思います。


○もう少しだけ語るならば?

 エンディングの読了感はこの小説唯一無二のものだと思います。校長という単語だけで泣きそうになるくらいには、辛くて悲しくてそれでも美しく素晴らしいエンディングでした。私が「ブリジットという名の少女」の中で最後に猫を持ってきたのもこの小説の影響が多分にあります。とにかく後悔はしないであろうエンディングなので、是非皆さんの目で確かめてみて下さい。


○終わりに

 詳しい年齢は言えませんが、私は一番多感な時期にこの小説に出会いました。そしていつか小説という媒体を通じて人々の心を揺らしてみたいと感じました。その為の試行錯誤はここ10年以上続けてきました。実を結んだものや、そうでないものはもちろんありますが、ぶっちゃけこれを読んでいなかったら人に小説を見せることもないままに、早々に趣味としては見切りをつけていたでしょう。それくらい人の心のありようを帰ってしまった魔性の小説ですので、これを読んで頂いた方は今すぐKindleストアに向かいましょう。全四巻で揃えやすいのも良いところですよ。そして、できるならば夏の終わり、8月末か9月頭に四巻を読んでください。もう、UFOにキャトルミューティレーションされて、帰ってこられませんから。


 Kindleのリンクです。アフェリエイトではない、純粋な紹介ですので念のため。

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