小説「哀愁のアクエレッロ」:七章・独り占め
ジョットーの鐘楼を過ぎ、アルノ川を越え、ユースに辿り着いたときにはとうに夜中の一時をまわっていた。そしてドアの前まで来て愕然とした。アーチ型をした木製の扉がぴっちりと閉められていたからだ。扉を叩いてみても、空しい音が人影のない路地に響き渡るだけである。よく見ると扉の横に、
門限は十二時です
と書かれた貼り紙がしてあるのだった。こんなにも充実した一日でさえ、すんなりハッピーエンドとはいかないようだ。それもまた旅の面白さの一つでもあるのだが。
仕方がないので僕は暗いフィレンツェの夜道をひとり、とぼとぼと歩き出した。野宿する場所を探すためである。もちろん別のホテルを探すという手もあるが、極貧をある種の美徳にまで高めてしまっているバックパッカーにとっては、すでに払ってあるユースホステル一泊分に、その何倍もするホテル代を重ねて払うことなど選択肢のうちに入らなかったのである。
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