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小説「哀愁のアクエレッロ」:第三章・狩り

 翌日は早起きをした。急ぎ身支度を整えると、バックパッカーたちの溜まり場となっているユースホステルを後にさっさと街へ繰り出した。この日に限れば、目標はただ一つ、いい絵を描けるポイントを探すことだった。そのためにはまずこのわがままな我が胃袋を黙らせねばと思い、陽気なオヤジたちが元気よく野菜を売っている街のはずれの市場で、でこぼこの洋なしを一つ買った。そしてTシャツのは端っこで軽く汚れを拭き取るなり、がつがつとかぶりついた。これでもう邪魔者はいない。観光客でごった返すポンテ・ヴェッキオの界隈や、恋人たちが戯れる緑いっぱいの公園などを抜けながら、僕は獲物を狙う獣のようにポイントを探し始めたのだった。

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