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小説「哀愁のアクエレッロ」:四章・ダヴィデに夢中

 入り口を入って左に曲がると、右手の回廊の奥に佇む"彼"が視界に飛び込んできた。スポットライトに照らされたダヴィデ像は、品があるのに剛健な印象を与える、まさにルネッサンス彫刻の傑作と呼ばれるにふさわしい威風堂々とした御姿であった。世界史の教科書でしか見たことがなかったものが、今まさに目の前に忽然と現れたのだ。ゆっくりとその神聖なフィギュアに近づき、正面の真下から見上げてみた。なんと精巧に彫りあげられた作品であろう。腕の筋肉の上を這う血管の様子までもが、まるで血液を送り出しているかのような鮮やかなリアリティーで表現されていた。彫刻の台座の下には、美術館のスタッフによる簡単な解説とともに、ウフィッツィ宮殿を設計したことで知られるジョルジョ・ヴァザーリの言葉がプラスチックのプレートに印刷されて、ケースの中におさめられていた。

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