葬儀で可笑しかったこと・ラストは番外編
母の葬儀がすべて終わり、取り急ぎ済ましておくべき手続きもひと通り済ませて、まだ仕事は残っているけれどもあとは急がずにいいものだけになってやれやれと少しおちついたタイミングに、まだ訃報を知らせていない母方の親戚に順繰りに電話をかけたりメールをした。
そのなかの一人に母の従姉妹がいる。年齢差でいえば私と8歳しか変わらないので、気分的には母の従姉妹というよりも私自身の従姉妹のような感覚がある。
母の従姉妹とは子供のころは度々会っていたものの、あちらが大人になり国際結婚をして海外在住もあれば日本在住の時期もあったりして、いまどこに住んでるんだろ?と分からなくなる時もあった。私のほうでも結婚して住所が変わったりと断続的なつきあいしかなくなった。
しかし不思議と不意にふっと連絡が付くことがあったりして、縁が切れきることはなく、お互いに忘れ去ることもなく今日に続いている。
今回は母の訃報を知らせたのを機にメールのやり取りを繰り返した。
母の従姉妹は現在は国内に暮らしていて、大阪へは月に一度仕事で行くからその時食事でもどうかと誘ってくれた。
よくよく思い返せば、このおねえちゃんと二人だけで会うのは初めてかもしれない。いつもお互いの家族が一緒だった。
なんばで待ち合わせ食事をしながら、いまやすっかり中年となった女が二人となれば、こども時代の無垢な思い出話よりも、今の介護や葬儀や子育てやとすっかり大人じみた会話が盛り上がった。
母の通夜の日、葬儀で可笑しかったこと①に書いた棺桶ゴロゴロの話をするとおねえちゃんも大笑い。
「実は私もさ…」と、おねえちゃんが、母へのお供えとして持ってきてくれた箱包みが入った紙袋に視線を送った。「熨斗紙、見た?」
熨斗が付いてることくらいは見たけれど、字まで確認はしてなかった。
「最近は熨斗紙も昔みたいに手書きしてくれるところは少なくてパソコンからプリンターで印刷するお店ばかりになったでしょ?」
うんうん。
「これ買った時も店員さんがいかにもベテランな年配の人で、お熨斗はどうしましょうか?って聞かれたからお供えで〜って頼んだら、かしこまりました!ってサッと筆ペン取ってサササーってすっごいカッコよく書き始めて、えー!手書きしてくれるんだー!いまどき珍しい、さすがご年配は丁寧〜!と喜んでたのよ…はい、どうぞ!って出来上がったの見たらさ…びっくりするで?」
と、おねえちゃんはそこまで話してから紙袋からお供えを取り出した。
不祝儀らしく薄墨の筆で、水引模様の上側に〈お供え〉、下側に姓がひとつ、姓の下におねえちゃんの母親の名とおねえちゃんの名が連名で書かれているのだが…
字がデカイ。
やたらデカイ。
熨斗紙からはみ出しそうな大きさ。
字が下手な熨斗はいくらでも見たことがあるが、熨斗紙からはみ出しそうな大きな字は初めて見た。
上手・下手以前の問題である。
しかも小学校三年生がようやく漢字の書き初めに挑戦したかのような筆跡なのだ。下手とかなんとかいうよりまるで子供の字。
進物売場のご年配のベテラン店員が書いたとは到底信じられない。
え?しかもこれを堂々と自信満々で?え?繰り返しますがこの腕前で自信たっぷりだったって?
「びっくりするやろ?」
お供えのカステラはもう完食してしまいましたが、これならおねえちゃんが自分で書いた方がよっぽどマシやがなー!と笑うしかない、たいへん伸び伸びと大きく健やかな筆跡の熨斗紙は記念に置いてあります。