道具と、ものづくりのかけら。
「最近、どうですか」
向かい合わせに腰掛ける彼に尋ねる。
「最近かぁ。そうねえ。プラモデルがとても上手く出来上がった」
その声色は、言葉とは裏腹に淡々としていた。私はカフェオレの紙カップを口元から離して、頭の中で声と言葉を反芻した。触れるように温度感を確かめながら、意味を計りつつ問い掛ける。
「それは、上手くできたけど、さほどヤッターっていう感じでもないのか、嬉しいなぁって感情なのか、どれでしょう」
彼は顎に手を当ててウーンと小さく唸ると、
「知らない人には説明が難しいんだけど」
と、前置きをした。
「このジャンルは30年くらい歴史があるんだけど、僕はいままでどちらかというと古典的なやり方をしていたから、新しい手法をネットで調べて幾つか取り入れて、いい塗料を買って、言われた通りにやってみたのね。そしたら、うまく出来たのよ」
私は無言で『ふむ』と頷く。
「なんていうか、お釈迦様の手の平の上だな、と」
「手の平の上ですか」
一瞬、西遊記に出てくる孫悟空が、金色の巨大な掌の上でころころと転がされている姿が頭をよぎった。慌てているような、呆気にとられているような、複雑な表情をしている。
彼は淡々と続けた。
「そこは今まで、技術で埋めていくところだと思っていたのよ。でも、いい道具を使って、先人に言われた通りにやってみたら出来た。スルスルーっとね」
上手く出来たからといって、何でもかんでも嬉しい気持ちに昇華されるわけではないらしい。
「……ああ、あれですかね」
私は自分の中から似た感覚をたぐり寄せて言葉にした。
「クリスタを使った時に思ったんですけど、線が綺麗に補正されるんですよね。確かに自分の絵なんですけど、一から描いたものではないんです。でも、それは、私だから描ける絵だっていうのも確かなんですけど」
「道具に技術を持ち上げて貰うのは、アリなのよ。だから本来、ここは引っかかりを持つ程でもないのよね」
「そうですねぇ」
「新しい道具を使いこなして量を生み出していくか、面倒なことを敢えて自分のさじ加減でやるか、あとは自分の好みでいいと思うのよ」
自分の創りたい物がアナログの極みだとしても、創っていくのならきっと愉しい。そうして、新しい道具を使いこなせると、やっぱり知らない景色に出会えて、愉しいことだろう。
お膳立てされた道を歩いているように感じた。
これはそういう話なのかもしれない。
自分で見つけたい。
という欲でもあるのだろう。
道具と手段をきちんと揃えたらできた、というのは、多分、力に見合った適切なやり方に出会った、ということでもある。
それも踏まえた上で、お釈迦様の手の平の上で釈然としない顔をしている彼は、中々によいと思う。
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