そのうち書くこと。

時折、病院に通っている。
月によっては毎週という時もあるし、今月はゼロ、という時もある。


所用を終えて自動ドアをくぐると、病院内のロータリーには、タクシーが二台ほど待機している。敷地の中まで入っていいタクシー会社は、事前に契約が交わされているのか、「あのシンボルマーク、この前も見たな」という事が度々ある。
車体の後方から運転席をのぞき込むと、やはり見覚えのある運転手さんだった、という場面も随分と増えた。

昔、勤め人だった頃をふと思い出す。当時は終電がなくなる深夜まで働く事も珍しくなくて、そういう日が続いた時に、眠気を堪えながら乗り込んだタクシーの運転手さんが、2日前に乗せてくれた人と同じ人だったりした。
遅くまで大変だねえ、と笑顔で労って貰った。そういう瞬間は、深夜まで働く者同士の仄かにアツい連帯感が生まれて、和む。

病院から乗るタクシーの運転手さんも、足元気をつけてな、とか、今日は混んでて待ったんじゃないか、などと、気遣うように声を掛けてくれる。


私自身は三ヶ月に一度、診て貰っている。胃腸とアレルギーの治療でお世話になってから、かれこれ10年ほどになる。
胃腸の方は、逆流性食道炎と呼ばれる。そのついでのように、線維筋痛症と慢性疲労症候群の経過を眺めて貰っている。

この話については、noteを始めた当初から、いずれ詳しく書こうと思っている。今は、とても簡単にいうと、私の胃は機能的に消化に時間が掛かる胃をしていて、時に体の各所が痛み、または怠くなり、疲れやすくて時々息が上がる。

現在は医師の親切な指導の元、寝たきりになる日はほぼ無いし、痛みも軽減して怠さに変換されたのかあまり感じない。


症状が重かった時期には、体の中を細かく砕かれたガラス片がザリザリと絶え間なく駆けめぐっているような尖った痛みと、長距離マラソンを全力疾走して余力もなく膝から崩れおちた直後の押しつぶされるような疲労感と息苦しさが、24時間365日あるという、かなり意味の分からない状態だった。あと、水を飲むだけで苦しい。

この意味の分からない体の状態に、心身は随分と削られて、私は布団から起きあがれなくなった。しんどさの原因が何なのかわからない、という点も、実のところ重苦しかった。

誰かに伝えたところで、誰にもわかって貰えないのはよくわかっていた。当然である。人の痛みやしんどさの深刻さや大きさは目に見えないし、計りにも乗せられないからだ。そうして、こういうのは、当時の経験上、大体、不定愁訴で片付けられる。なんなら、「気のせいでしょう?」と大きな刀で切りつけるみたいにバッサリといかれる。

原理の分からない痛みに呻きながら、一日の殆どを眠ることもできずにいた。真夜中。布団を被って、青白い光に煌々と顔だけ照らされながら、携帯電話の検索窓に文字を打ち込んだ。

たどり着く先は、匿名の人たちがメッセージを好きに書き込む、掲示板と呼ばれる空間だった。当時、2ちゃんねるという名前だった。そこには私と同じように、「どこが痛いのかわからないくらい、体中が痛くて、つらい」と零して困っている人たちがいた。

私はいつも読むだけで、書き込むことはなかった。ただ、痛みとだるさで潰れそうになりながら、取りあえずこの地球上のどこかに似た症状の人がいるらしいと知らせてくれるその文字列を、力なく目で追っていた。くしゃくしゃになった胸に、わずかながら、灯がともる。

そんな風にして過ごした私の頑張った記憶は、少しずつ色褪せてゆく。なので、誰が見るでもないこの場所にこうして書いておいて、あの頃の私と同じように、ここにたどり着いたたった一人に、見知らぬ誰かから貰った灯を、ひとつ、渡せたならば、幸いに思う。


ちなみに、医師からは、コロナにかかると、食事を起きて摂れなくなったり、運動の質が著しく下がるので、この病気は悪くなりますから。と、罹ったら気を付けるように、サラリと言われている。

いつなんどき、どういった不調を抱える事になるかは、誰にもわからない。

わからないものがそこにある、と認識することも大事だと思う。

あなたの痛みも私の痛みもそこにある。
例えば骨折したことがない人にはその痛みを実感できない。なので、自分の記憶を思い返して、打撲でのたうち回った経験から想像したところ、随分と大変そうである。或いは、考えてもわからないけれど、あなたが痛いと言っているのはわかった。と、ざっくり捉える。そうして時折、薬を飲んだり、或いは手放せたりする。

最近、新たな薬を飲み始めた。いい感じに助けて貰っている。

薬の効き目や役割について調べるのは、ネットの聞きかじりだけれど、興味深い。病気の様々な仕組みからは、人の生命の精密さと不思議が垣間見える。

難儀である一方で、私たちは爪の先まで、神秘と不思議でできている。

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もちだみわ
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