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こまごまとまとめ

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テキストやトーク、エッセイのような記事などを、あれこれとまとめ。
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#エッセイ

朝の目覚めは歌声とともに

毎朝、スマートフォンのアラームで起きている。 アラーム機能は日常的に重宝している。例えば出掛ける二十分前に、或いは寝る準備を始める時刻に、またはお米を洗う頃合いに作動するようセットして、予定をうっかり忘れても拾えるように予防線を張っている。まるで肩を叩くように、バイブや音で報せてくれる。 音は本体に初期設定で入っているメロディから選ぶか、好きな楽曲を流すこともできる。ここ最近は、朝の起床時のアラームに米津玄師さんの曲を設定している。 掛け始めたのは、酷暑の盛りにセミが沸き

おろしたミュールで出かけたら

靴箱の奥でオフホワイトのミュールが出番を待っていた。ヒールはやや高め。つま先と足の甲の当たる部分にそれぞれ同系色のベルトが通っている。グレーの花があしらわれたデザインが気に入っていて、いつか機会を見て履こうと、季節ごとに取り出しては眺めていた。 先日、買ったばかりの服とスカートを姿見の前で合わせていた時に、ふと、これにミュールを合わせて散歩したら楽しそうだと思った。気が向いたらその時とばかりに、魔法瓶に水を入れてカバンに投げ込み、スカートを風に翻しながら自転車に乗ってでかけ

蟻の気持ちがわからない

台所にたまに蟻が出没する。 体長2mmほどの極めて小さな黒い蟻が、一匹、どこからともなく現れて、グレーのガラストップコンロの天面を、右端から左端へ音もなく歩いていく。 時に、木製の水屋の奥にある珈琲の粉を取ろうと扉を開けた瞬間に、或いは、シンクで食器を洗っている瞬間に、棚の縁やシンクの縁を歩く彼らとエンカウントする。 わからないのは、何故かいつも一匹か二匹で出現する。列を作るでも群れを成すでもないのだ。一体彼らはどこから来てどこへ帰って行くのだろう。 数年前に、和室のサ

何気なく、歌を歌っていたところ

小学校や中学校の、音楽の時間が好きでした。 鉄琴や木琴や太鼓を用いた合奏の時間は、楽器が奏でる様々な質感の音に包まれる感覚が心地良く、また、合唱曲をパートごとに分かれて全員でハーモニーを響かせて歌う時間は、音楽と詞が体の中を駆け巡って心に問いかけたり、雨や風や日差しみたいに歌を全身に浴びる感覚が好きでした。 実家に住んでいた頃は、家に誰もいない休日の晴れた昼下がりに、「野生の馬」や「みんなひとつの生命だから」を、部屋を歩き回りながら伸び伸びと歌っていました。多分、隣家の人は

鍵はいつでも開いている。

「妻のパソコンは無駄にセキュリティが高い」 と夫に言われる。 セキュリティソフトの機能が高すぎるということではなくて、起動するまでにひと手間かかるのだ。 私の使っているパソコンは、電源を入れたあと何もせずに行く末を見守っていると、画面が真っ黒なまま固まってしまう。 通常、パソコンとは、電源がオフの状態から電源ボタンを押してそのまま数秒待っていれば、自動的にOSが起動する。もしくは、複数のOSをインストールしている場合は選択画面に切り替わる。けれど、私のマシンはそのどちら

表紙を描かせていただきました。

おはようございます。もちだみわです。 この度、キッチンタイマーさんのエッセイ集の表紙を描かせていただきました!  キッチンタイマーさんはnoteで奥さんの話やご友人の話や日々のことなどをエッセイに書いているエッセストさんです。そこにある物の手触りや感情の温度を拾い上げて、素直な文章を書くことを心に留めて文章を紡ぐ方です。 この程、エッセイを初めて一冊の本にまとめるということで、ご依頼くださいました。 こちらが、Kindle版の本のリンクになります。 2022年に書かれ

読んでくれているあなたへ。

文章を書こうとしています。 noteの下書きに、書きかけのテキストが8つ程、溜まってきました。ひとつひとつの文章は、まだとても短いです。 雑事をしている時や、外を歩いている時、或いは待ち時間の合間に、言葉がふと思い浮かびます。頭の中に並んでいく言葉たちは、文章になってはいるものの、陽炎のように朧げで、現れたはしから輪郭が溶けていきます。消えないうちに文字にしようと、スマートフォンのキーボードを開いて指を滑らせると、扉がパタリ、と閉じて堰き止められたみたいに、言葉が浮かばな

それは翼を貰う日々。

少し前に、「文章の件でお世話になった事もまた記事にしたいと思っています」とつぶやいていた話をこちらのテキストにしたためました。少し長めの文章になりますが、お読みくださると嬉しいです。 一年前の今時分のことです。一篇のエッセイを書いて頂きました。 「冒頭の一行だけ書いたエッセイなどがあったら、続きを妄想で書き上げます」とTwitterで皆さんに呼び掛けていらっしゃったので、なんだか面白そうだなあと思い、noteの下書きの中で途切れたままになっているものから一つ拾ってお渡しし

いつもの毎日、好きの代わりにキスをする。

毎夜、眠る時。好きと言う代わりにキスをする。 布団にくるまる彼女の、柔らかくて小さな頬に片方ずつ、おでこにひとつ、合わせてみっつ、キスをする。 私の腕にすっぽりおさまってしまうくらい小さかった彼女は、もう大きさ的には「小さいひと」というよりも「中くらいのひと」だ。慌ただしく日々が過ぎていくそのうちに、大人になってしまうだろう。 中くらいのひとは私の首に手を伸ばすと、捕獲するみたいにしがみついた。 私の鼻先に長いキスをひとつ、返す。 頭を抱え込まれるような無理な姿勢に

アイシテルとは、いわないで。

愛するか愛されるかのどちらか片方しか選べないとしたら、愛する方を選びたい。 とはいえ、日常生活で愛を囁き合っているかというと、大好きと声に出すのも割と勇気が要る程度に照れ屋だ。noteのスキもTwitterのいいねも、押しますね!と割と気合いを入れてする。最初の頃など緊張しすぎていちいちぐったりしていた。 なので神前で愛を誓ったことはあるが、面と向かって愛してると言ったことは、まだない。 結婚というのは、ふたりで新しい生活を始めるという、周囲への大々的な告知であり、新し

わざわざ言うほどでもないささいなことなんだけど

ドアの隙間から見えたきみのくろい後ろ頭が 思っていたよりずっと上のほうにあって思わず笑った そういえばもうそんなにおおきくなってたっけね わたしの中のきみはいつまで経ってもちっこい姿のままなんだけど 冷蔵庫の上にも手が届くんだよと誇らしげにきみはいう ハタチになっても 塩で日本酒が飲める程度の酒飲みになっても 二輪バイクで県を跨いで遠出できるようになっても 趣味が増えただけで大人になった実感なんてなかった 仕事を成し遂げても 三十路になっても きみを産んだ瞬間も きっと

でっかい空と借り物の自転車

 生まれて初めて空を飛んだ。  金属製の白い翼越しに見下ろす北海道は日本地図そのままの形で、青森県の先っぽはやっぱり斧みたいだった。日本の地形を写しとった地図と同じ形なのは至極当然だけど、目の当たりにすると染みるようにじわじわと感動した。  北海道に引っ越した友人と落ち合って美瑛へ向かった。借り物の自転車で坂を存分に駆け回る。見渡す限りの畑の緑とシンボルツリーの背後に広がる空の青。何もかもが規格外に大きくて、日本にいる感じがまるでしない。  友人と二人して「どうなってんだ」と

もちだみわのページ

もちだみわと申します。 イラストや漫画を描きます。テキストも時々書きます。 イラストはデジタルでありつつ水彩や色鉛筆の風合いが出せればと試行錯誤中です。この記事にはnoteで投稿したイラストや漫画・マガジン、LINEスタンプ等のリンクをまとめています。 イラストや漫画、アイコン、文章を書くなど、お仕事のご依頼やお力になれることがございましたら、メールやコメント欄、Twitter(@md3883dm)のDM等々でお声掛け頂けると嬉しいです。 ※この記事は不定期に更新されます