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北海道の生活史とブックブックこんにちはとちくわちゃん

まるで三題噺のようですが。
「北海道の生活史」プロジェクトに聞き手として参加することになりました。

100人の聞き手募集のところに250人以上の応募があったそうで、聞き手を150人に増やした上で最終的には抽選で決めたとのこと。何とも貴重な機会をいただきました。

せっかくなので、提出する原稿とは別に、このプロジェクトに関して感じたことなどを備忘録的に書き残しておこうかと思い、久しぶりにnoteを開いた次第です。(前の投稿が3年前って驚いた)

「それにしても、物事というのはどこに転がっていくのかわからないものだなあ」と思ったお話から。

きっかけは「ブックブックこんにちは」

「北海道の生活史」の監修に入る岸政彦さんの本を初めて読んだのは、柴崎友香さんとの共著『大阪』でした。

ポッドキャスト「ブックブックこんにちは」で、柳下恭平さんが『大阪』を紹介していて、ちょうどその頃大阪に続けて行くことが重なったことから気になり、図書館で借りてきたのです。

大阪の記憶といえば、梅田の駅で迷子になったことと、十三のわかめうどんと朝からやってる定食屋の貝汁と出し巻き卵くらい。一般的なイメージの大阪のテンションの中でも一番地面に近いところのようなお二人の文章に、じわじわと大阪の空気感を思い起こし、「良い本だなあ」と思ったのでした。

それまでも「生活史」のシリーズの評判は多く聞いており、「いつかちゃんと読もう」と心の積読リストには入っていました。おそらく、岸政彦さんの名前もおぼろげながら認識はしていたはずでしたが、『大阪』を読んだことでしっかりと私の中で像を結びました。社会学者の岸政彦先生ではなく、静かで悲しいような寂しいような、でも、優しくないと書けない文章を書く人として。

ちくわちゃんフィーバー

その後、『リリアン』など少しずつ読んでいましたが、岸さんの存在を日常的に意識するようになったのは、ちくわちゃんの登場でした。

ちくわちゃんは、岸さんご夫妻が引き取った保護犬の女の子。
大きなお耳とお目めの愛くるしい姿にわたしも夢中になりました。
仔犬の頃の大変さは、ミニチュアダックスのこたろうくんと多実ちゃんを育てた十年以上前を思い出させます。

オシッコのしつけ。
ガジガジと何でもかんでもかじりまくり散らかしまくる感じ。
どこからその体力は出てくるんだ? というほどの走り回りっぷり。
眠っている顔のたまらなさ。
拗ねても、怒っても、暴れても何してもかわいい……

岸さんの毎日のXのポストとちくわちゃん引き取りの同時期に始まったポッドキャスト「岸政彦の20分休み」からの様子にまるで、目の前でちくわちゃんが跳ねているみたいに楽しんでいました。

我が家には今、世界一かわいい猫めんまがいます。
もちろん、めんまは世界一かわいいのです。
でも、ちくわちゃんも世界一かわいい。
そう、かわいいは増殖するのです!
かわいい犬猫ばんざい!!

聞いておかなきゃ消えてしまう

そんなある日、今日のちくわちゃんを見たくて追っていた岸さんのXにススキノ交差点のニッカのおじさんの写真が。
「北海道の生活史」プロジェクトのスタートと聞き手募集についてのお知らせでした。

これまで、東京、大阪、沖縄と出ていた「生活史」が気になっていたのは、自分の祖母や母の話をきちんと形にして残してみたいと祖母の生前から思っていたから。おばあちゃん子だった私は、台所でごはん支度をする祖母の横にくっついてはいろいろな話を聞いていました。

近くの飴屋さんが柱の釘に飴を引っかけては伸ばし引っかけては伸ばしするのを飽きずに観ていたこと。
朝、早起きしてかまどでご飯を炊く役目が大変だったこと。
お祭りの前には兄さんたち若者が集まって、笛や踊りの練習をしていたこと。
父さんは刀の鍔を作る腕の良い細工師だったけど仕事がなかなかなくなって暮らしが大変だったこと。
などなどなど……

「物語として書いておこうかな」とも思ってはいたものの、ひとまず自分の中では保留にしていた祖母のこと。もっと聞いておきたかったこともあったし、わたしの中の記憶も少しずつ薄れていきます。

そして、ここ数年、図らずもアイヌの方々に食についての聞き取りをするお手伝いをすることになり、いろいろなお話を伺い、一緒にご飯を作り食べました。そんな中、実感したのは、やはり、どんなことでも聞けるときに聞いておかなければ永遠に失われてしまうということ。それは特別な誰かばかりではなく、普通に生きている一人ひとりのこともという意味で。

そうして、「北海道の生活史」プロジェクトの聞き手に応募し、ありがたいことに参加させていただくこととなりました。

あのとき「ブックブックこんにちは」を聴いていなかったら。
推しのライブで大阪に行くことになっていなかったら。
ちくわちゃんという超ラブリーわんこを岸さんが引き取っていなかったら。

もしかしたら、わたしは「北海道の生活史」に関わることはなかったかもしれません。

さて、この転がり始めた石はどんな形になってどこへと向かうのでしょうか。自分でも楽しみであります。

ところで。先日の、研修会の際に、恥ずかしながら岸さんに『大阪』の文庫版にサインをいただきました。岸さんの単著ではなく『大阪』だったのは、これが出会いの1冊だったから。そして、この本は「ブックブックこんにちは」のもう1人のパーソナリティの神輝哉さんが営むシーソーブックスで購入したものでしたよ。



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