藤子ファンの亡き父と行った「映画ドラえもん のび太とふしぎ風使い」
父は、私が中学生の時に突然亡くなった。
これは、まだ元気だった父と観に行った映画の話。
私が住んでいた家は、少し狭いアパートだった。
家が狭い割に、天井まで届く、立派な作りの本棚がどんと置いてあった。
キテレツ大百科、ウメ星デンカ、21エモン、モジャ公、エスパー魔美、T・Pぼん、みきおとミキオ、バケルくん…
その本棚は、父が少年時代に集めていた、自慢の漫画コレクション棚。
タイトルのラインナップを見て分かったかもしれないが、特に、藤子不二雄(両氏)ファンだった。
(余談だが、父の死後、遺品整理をしていたら、ダンボールから鳥山明や手塚治虫作品なども沢山出てきた。色々読んでいたらしい。)
父のコレクションを私が読むようになったのは、小学校に上がった頃。
自分の手が届く範囲に置いてある本を手に取り、端から読んだ。
漫画「ドラえもん」との出会いである。
平成生まれにとっても、ドラえもんは「読みたくなる、面白い漫画」なのだ。凄すぎる。ひみつ道具の幾つかが実現しているくらいには(糸なし糸でんわ→携帯電話など)、時代が古いはずなのに。
読みやすさ故に、私はどんどんと読み進めた。
毎日読んでいるものだから、家にあったドラえもんはすぐ読み終えてしまった。
そして、ドラえもんの奥に置いてあった、「パーマン」を読んだ。
父から大いに影響を受け、藤子先生大好き娘に仕上がった私。
そんな私を、出不精で滅多に出かけない父が、映画館に連れて行ってくれた。
母も、兄も連れずに、二人きりだった。
そこでようやく映画の話だが、そこで観に行ったのが、
「映画ドラえもん のび太とふしぎ風使い」だ。
同時上映は、これまた私の好きなパーマン。
「ウチ、パーマン好き!ドラえもんだけやなくて、パーマンも楽しみ!パーマン読んどるから!」
心の中で、他の子に何故か上から目線の私…。
しかし、いざパーマンの上映が始まると、私にとっては初めての「動いて喋るパーマン」に心奪われ、そんな邪な気持ちはスクリーンにスっと吸い込まれてしまった。
パーマンが終わると、次はいよいよドラえもんだ!
父親も、パーマンで楽しんでいるに違いない!!
ドラえもん始まるねぇ、お父さん!
隣をちらっと見た。
映画は明るい場面になり、劇場も薄ら明かりに包まれ…
父の寝顔が目に入った。
ええええ!!!!?
お父さん、なんで寝るの???
まだ、ドラえもんも始まってないのに!!?
父は、パーマン上映中に、いつの間にか映画ではなく夢を見ていた訳だ。
何とかして起こそうか…と考えているうちに、ドラえもんが始まりそうだったのでスクリーン方向へ顔を戻す私なのだった。
どういった話をして映画館から出たかはさっぱり覚えていないが、お父さん寝てたねって言ったように思う。
帰り道、本屋さん(今は飲食店になっている)へ寄った。
その店先の棚に、なんと、先程見たばかりの「映画ドラえもん のび太とふしぎ風使い」漫画版があるではなないか!!
今日見た記念に欲しいなあー…家でもドラえもん楽しみたいなあ…
お父さん、と私が言うより早く
「これ、買おか」の父の声。
「お父さん、寝てたからこれ読んで楽しむわー。」
あの日…私はてっきり、父親がドラえもん好きだから映画館に行ったのだと思った。
家族の中でも1番ドラえもんが好きな私を連れて、自分自身が楽しむために行ったのだと思った。
大人になって感じたのは、
父は、ドラえもんじゃなくて、私を楽しませるために…
私のために、映画館に連れて行ってくれたんだ、ということ。
既に反抗期気味の息子こと私の兄。
いつか反抗期が来る娘と、今のうちに出かけよう…と思っていてくれていたのではないだろうか。
父が、買った漫画を読んだのかは、今となっては分からない。
けれど、仕事で疲れ、休日はほとんど寝ているだけの父が、わたしを連れて行ってくれた気持ちは何となく分かる。
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