走馬灯に出てくるいくつかの日のうちのひとつ|11月30日(土)さざわさぎ
前日まで遠出していて、帰りに渋滞にもはまって、ありえないくらい疲れ果てていた。新宿で車を返して、ひとりで、バスに乗ったらすぐに全然動かなくなって何かと思ったら花園神社の酉の市のものすごい人ごみだった。渋滞もぜんぶこれのせいだったのかもしれない。酉の市ってなんかほんといちばんすごいから。それでなんか確実にどっかの血管が切れそうになっているかんじのぴきぴきする頭痛を抱えて意識朦朧としながら、本当は当日の午前中にやろうと思っていた帯の印刷をはじめた。疲れているからかなんなのか、これもありえないくらいの時間がかかる。A3ぴったりで4枚とれるデータを作っていたけどそういえばぴったりの印刷ってふつうできなくて、でも帯だから等倍で印刷しなくてはならなくて、それが全然できなくて泣きそうだった。思い至らなかった自分が悪い。データをいじって少し幅を狭めてようやくできた。いつも本づくりのときは印刷に翻弄されている。帯を印刷して手巻きしようって言ったのは誰だよ。私だよ!
でもこれを当日はじめてやっていたら本当にどうしようもなくなっていただろうから、自分の山勘に感謝する。だいたい、おどろくほど甘い見通しを持ちつづけ、直前で、いややっぱこれでは無理なのでは……?と謎の勘が働いてちょっとだけ家を早く出たり予定を早めたりしてギリギリ間に合うかちょっと遅れるかするというところにおさまるのが通常だ。さいしょから余裕をもって見通せるようになっても同じことなのに、どうしてもそうはならない、なれない。
でもそれできのう帯の印刷は済んでいたから、イベントは夕方からなのでいっぱい寝れる、と思ってねむる。それでまた昼過ぎくらいに、あれ、これこのままだと間に合わないんじゃ……?と思いはじめて爆速でお茶漬けを食べて化粧をしてひいひい言いながら家を出た。
そうしたら荷物が重すぎて辛くてしんどくてパニックになって、プリンターを落として壊して駅を間違えて降りて遅刻した、それでここにそのこととかを書こうと思ったけど、あまりにうらみつらみを書けすぎるからそれは図にしました。
なんでスキャンじゃなくて写真なのかというと、
プリンターを、
落として、
壊したからです。
荷物が重いのってどうしてこんなに絶望的な気持ちになってしまうんだろう。子どものころからいちばん苦手だ。まだ身体が小さいのに持ってたランドセルとか、高校のリュックの中の大量の教科書とお弁当と体操着とギターとエフェクターとかとかとかとかとかぶくぶくぶくぶく……
それで、なんとか販売する本やらなんやらを引きずってやっと新宿三丁目の改札まで辿りついたら奈良原さんときたのさんの顔が見えて泣きそうになった。いったん荷物を持ってもらってそこで買ったMATCHを飲む。外に出て、もう夜になった新宿を3人で歩く。分担してもらい荷物が軽くなったのもあるけれど、重い荷物を運んでいてもそばに人がいてくれたら全然絶望しない。だからやっぱり単純に体がつらいみたいなことだけではないんだとおもう。
ビキニマシーンに着いてAくんに挨拶。Aくんはまたパッチパチの坊主になっている。
ここは友だちのAくんとOちゃんが隔週で立っているバーで、二か月前くらいに飲みに来たときにAくんに何かイベントをやっていいよと言われたので抽選漏れした文フリ東京の前日に「火を焚くZINE」の発売イベントをさせてもらうことにした。こういうイベントであれば早い時間に来たい人もいるかと思い、普段より3時間くらい早く開けてもらった。重い荷物を運んだ先にちゃんといつもの場所にいつものAくんの顔が見えてほっとする。
わたしはイベントを開催する、みたいなことが大好きだ。開催されているイベントに参加するよりも好き。本を自分で作るのもそんな感じ。ひっそりと新しいちいさな家を建てるみたいな気持ちでイベントをやったり本を作ったりしている。この世界の空間には限りがあると思われているけれど、こうすることで、勝手に空間は拡張できるのです、とこっそり思っている。
そうして作って、きょうの午前中うちに届いた「火を焚くZINE」をみんなに見せる。今回ははじめて何人もの人と一緒に本を作ったから、いつもより責任が少しずつ分散されて楽、と最初は思っていたけれど結局みんなの期待も勝手に背負ってるからプラマイでおんなじくらいのプレッシャーだった。みんな本を手に取って喜んでくれてうれしい。本を作るとき、印刷されて届くまでがいちばん不安で、届きたての本を関係者に見せるときがいちばん楽しい。ここでかならず感情の乱高下が生じる。
ここまででかなりヘトヘトになってしまった。だがオープン時間なので人がぱらぱらやってくる。荷物を片づけて座る場所と売り場をつくる。そして並行して帯を切って巻かなければならない。この日は17時から0時すぎまでかなり長時間ここにいたことになるが、バタバタしていたのと疲れと色々なことを考えていたのでここから23時くらいまでの詳細な記憶があんまりない。以下覚えていることを書く。
・ひたすら帯を巻きながら来てくれた人と話していた。帯にはなんの目印もないので、毎度セッションするように巻くしかなかった。
・私にインデザインの使い方を教えてくれた高校の友だちが来てくれた。高校のころ軽音部でバンドを組んでチャットモンチーのコピーとかをしていた。私の好きな紫色の花が纏められたブーケを買ってきてくれてめちゃくちゃうれしかった。彼女が高校の卒業ライブの最後に私の誕生日祝いだとサプライズでうさぎのかたちのケーキをプレゼントしてくれたことを思いだした。本を買ってくれて、「小説ってどこから書くの?」と質問してくれたので、執筆者のみんなといっしょに、なぜ小説を書くのか、どこから小説を考えるのか話す。高校の友だちと、大学の友だちと、一緒に本をつくった友だちがみんなで話しているのをかなり幸せな気持ちでながめた。
・堀さんがカウンターの端でずっと帯を切ってくれていた。たまに、あれ、堀さんずっとやってないか大丈夫かな?と思ってそっちを見たけどずっと同じ姿勢で居る、空間の対角線上にいるのですぐに声はかけられなくてそのままやってもらってしまった。
・少し経ったところで、日記を持ってきてくださいと言っていたのを思い出して、日記ありますか!?と来てくれた人に声をかけはじめる。Yさんという方が持ってきてくれているとのことで、データで送ってもらう。それで文字組みをして、持ってきたプリンターをつないで出力しようとしたら「紙詰まりを取り除いてください」みたいな表示が出て一向に印刷されない。何も詰まってないのに。何度再起動しても変わらない。駅で一回だけ、二箱積んだ冊子の段ボールの上から「ガンッ!」て床に、角から落としたんだけどまさかそれのせいだろうか、絶対そうだよな。略さんときたのさんがしばらくめっちゃ中身を覗きこんでくれて、これは、むりそうですね、と言われる。いつも冷静な略さんときたのさんが無理そうと言ったらたぶん無理なのだと思うので、あきらめた。それでYさんの日記を手で書き写した。ひとの日記を手書きで写すのは、その人を自分の中に流れこませる、それでまた出すみたいなこれまでに経験したことのない不思議な感覚だった。そのあと来た人もけっこう日記を持ってきてくれていてうれしかった、ほかの人にも手書きで書いてもらったらきたのさんと奈良原さんが買ってきてくれた黒い段ボールも相まってすごいいい感じになった。みんながそれをながめているのを見て、プリンター壊れてよかったかも、と思った。
・堀さんと、前に『十五人日記』という日記冊子を作ったときに参加してもらった私の友だちのMの話になって、そういえばMはSNSをやっていないから告知できてないかも、となってもう夜だしMはちょっと遠くに住んでるからダメ元だけど連絡してみる。そうしたら来てくれた。「銭湯行って帰ってきて、焼酎飲みながら昨日組んだニトリの本棚に何入れようか考えようとしてたところだったんだけど、来たよ。」とゆっくり言われ、申し訳ないけどうれしい。そして偶然ほかの人繋がりできていた友だちに会ったようでさらによかった。最近やっとはじめたというXのアカウントを教えてもらった。
・来た人がみんな本を買ってくれてうれしかった。
・バーの外まで人があふれて、それでみんなが立って本を読んでいる光景がうれしかった。
・きたのさんと松本さんが寿司を食べに行って2時間くらい戻ってこなかった。帰ったのかと思った。
・終盤さすがに疲れて、すしさんとかを誘って一回ごはんを食べに外に出る。なんのあてもなく、てきとうに目の前のタイ料理に入ったらめちゃくちゃおいしくて驚く。ただ量が多くて、あんまりみんな食べきれていなかった。略さんが「辛いの得意じゃないです」と言いながらなぜか激辛ガパオライスを頼んでいて、みんなでそれを一口ずつもらう。「ぼくが辛いの得意じゃないだけかもしれませんけど……」と言っていたけど全然激辛だった。終電の時間が迫るCさんが、一口食べただけなのに汗を流しながら帰っていった。
こうやって書きだしてみると、べつにけっこう覚えていたかもしれない。
終盤、いっしょに日記本を作っているSが来て、最後までいてくれて、いっしょに外に出た。みんなが書いてくれた日記を貼っていたボードは愛着がわいたのと念が詰まっていて捨てるに捨てられないので、いったん私が持って帰ることにした。歌舞伎町を「日記くださ~い!」と言いながら歩いてみたけど、誰も日記はくれなかった。それどころか、大きいボードを持っていることで面倒そうなやつだと思われたのか、二台くらいタクシーに断られた。
(みんなの日記は数日すぎた今もまだ家に飾っていて、たまに読んでいます。)
さざわさぎ
映像を作ったり文章を書いたりデザインをやったり、常にいろいろ作っている。かわいい服とうさぎとラーメンが好き。
あたたかいものを食べるということは、内側から風呂に入っているということになる。
【「火を焚くZINE vol.1」発売予定】
◆2025年1月19日(日)文学フリマ京都9 @京都市勧業館みやこめっせ1F
関西方面のかた、ぜひお立ち寄りください!!