利賀、吉祥寺、新たなるシステム|12月15日(日)松本アリヤ
昼から吉祥寺に集合。SCOT「世界の果てからこんにちはⅢ」を見るため。
SCOTという劇団は鈴木忠志が主催している。
SCOTサマーフェス(富山県利賀村)に初めて行ったのは2年前で、演劇に従事していた/いる先輩Aと、お笑いサークルの後輩Bと一緒に行った。その時と同じメンバー。演劇を何本も見て、しかも利賀村で見るということは、まず空気が違う。空気感とかそういった曖昧な表現ではなく、空気そのものの質感が違う。音が違う。大気の振動が違う。
利賀村の闇はすごい。人類は火を扱えるようになった時、同時に闇を発見したのだと大澤真幸が鈴木忠志との対談の中で言っていた。
私の場合は、利賀村で闇を発見した。
質感を持った巨大な闇。
ONE PIECEのティーチの闇のよう。実際に見た事はないが。
演劇「シンデレラ」を見る前に、会場となっている一軒家の前で待っていると、入場待ちの時に突然の豪雨に見舞われた。でも別に、早く入場するとかいった事はなく、わりと放っておかれた。(テントに避難させてくれたような気もする)
早く屋内に入れてくれないことに文句を言っている人も多少いたが、なんかダサい存在だった。
SCOTのスタッフたちは、自然になれているというか、そういうものとして過ごしている感じだった。山なのだから雨くらい降る。
今回、2024年の新作は病院が舞台だった。
図らずも、読んでいる『魔の山』と響き合う。魔の山はサナトリウムが舞台。
平田オリザの『S高原から』も、『魔の山』のオマージュで作ったという(こまばアゴラさよなら公演で見た)。
トーマス・マン『魔の山』読んでいるが、上巻の途中段階では、主人公ハンス・カストルプがサナトリウムで色々な人に絡まれているだけだが、ずっと面白い。(毒舌家のイタリア人文学者セテムブリーニから目が離せない)
久しぶりの吉祥寺だった。
大学から一番近い栄えた町が吉祥寺だったから、学生時代よく通っていた。
はらドーナッツを食べた。
吉祥寺シアターの近くには、角海老があった。吉祥寺という街には、意外とそういうアダルトなエネルギーの渦巻く地帯が存在する。
ところで、「ショベルカーとギリシア: 鈴木忠志対話集」(ゲンロン)を読んでいて、東浩紀がこのようなことをいった。
『批評空間』は批評家の柄谷行人と浅田彰が編集した伝説的な批評誌である。
対して、地。チ。
根拠地の思想。
根拠地があること。大江健三郎にとっての愛媛のように、鈴木忠志にとっての利賀がある。
身体的な場所があるのはいい。
初めて利賀でSCOTの演劇を見た時、その根拠地の思想に触れて身体が湧き立ったのを覚えている。
全く新しいシステムが、ここに存在する!という喜び。
土地の呪力と魔法。
精神ばかりを尊重し、物質を軽視していた私にとって、蒙が啓かれる思いだった。
反権力ではなく、非権力でどうやるか。
それはシステムを自ら作り上げること。そこにこそ希望がある。
自分にとっての根拠地はどこか?別に、どこでもいい。
旅先を根拠地とすることもあるだろう。
差し当たって、気候が穏やかで、気圧の変化が一定であればよいと、最近の気圧の乱高下に体調を崩されまくっている身としては思う。あと、Wi-Fiが入れば、とかいうと、怒られそうだが。
『世界の果てからこんにちはⅢ』では、最初に病院で本を孤独に読んでいる、確か『日本人の未来』といったようなタイトルの本を読み耽っている中年男性が(車椅子に乗って)登場し、そこに同じく車椅子に乗った男性が話しかける。
「その本を読むと元気が出るのか?」
それに対して、本を読んでいる男性。
「元気なんか出やしないよ」。
「なんでそんなに小説を読むの?」と普段聞かれた時。
「面白いから」と、差し当たって答えている。でも正確ではないかもしれない。つまらない時だってあるし、そのつまらなさを楽しんでいる時だってある。字が気持ちいい時もある。目のリズムが心地よい時。色々な時がある。
そう。偉くなりたいから読んでいる、という時もある。
いかれた(失礼)イルミネーションが東進ハイスクールの壁に施されていた。この猿のキャラクターは人気があるのだろうか。受験産業についてもいつか書かなければいけない。
それにしても最近舞台に上がれていないからか、全然文章でボケられない。
そろそろ主催ライブをやる。
松本アリヤ
ピン芸人・文筆家。
【「火を焚くZINE vol.1」販売予定】
◆2025年1月19日(日)文学フリマ京都9 @京都市勧業館みやこめっせ1F
【お取扱い書店一覧】
◆水道橋の機械書房さん(オンラインショップあります!)、梅ヶ丘の書肆書斎さん、吉祥寺の古書防破堤さん、百年さん、土浦の生存書房さんで販売中!
◆BOOTHでのオンライン販売を開始しました!電子書籍版もあります。
https://hiwotaku.booth.pm/