見出し画像

墓参り、凧揚げ、腰痛|2月15日(土)奈良原生織

2月15日(土)

年末年始に風邪ひいて帰りそこねた地元に帰省。天気予報で見たとおりあたたかい。ほんとは昼に向こうについて行きたいうどん屋があったけど結局起きれず、16時半ごろ熊谷駅につく。そっからローカル線乗って、すぐ降りて、庭というか駐車場に出ていた父をみとめる。手を振った。

ついて2時間くらいはなにもすることがないので、持ってきた本や、実家の本棚の本をぱらぱらめくる。テレビもついてたと思う。そうだ、家を出た時から左足首がみょうに痛くて、何回か靴下を脱いで確かめたんだけど目立った傷もなく、でも立って歩くとやはり傷があるように痛いのだった。たぶんこの前のスキーでブーツの中で擦れて傷になったのだろうと思う。とりあえず重ためのボディクリームを塗っておく。なのちゃん(うさぎ)はゲージの中でおとなしくしている。もうだいぶ歳だ。妹が大学に入った年に飼い始めたそうだから。それにしてはけっこう元気だけど、前みたいにばんばんぴょんぴょんというわけにはいかない。ゲージの隙間から指をいれる。鼻がよく動く。
ところですしさんの影響もあってKindleを今年から使い始めたわけだが、これはやばい。絶え間なく本が読めてしまう。いままでなんとなくスマホひらいてTwitterやらインスタやら見てた時間が全部Kindleにすいとられる(と思ってたけど今も普通にTwitterもインスタもみてる。じゃあこの時間はどこから吸いとられたのか…)。

19時30分に店を予約してるから19時ごろ車で家を出て、ローカル線の最寄りで妹夫婦を拾って車内は6人。荒川を渡った向こうの、合併するまではまだ熊谷市じゃなかったほうにある和食屋につく。まえにこの6人で食事したのも同じ店の別店舗だった。そっちは靴を脱いで上がる式だったけどこっちは靴のまま個室に通されて、家にいるときから寒い寒いと言ってた私は腹が減ってしょうがなく、定食を頼んだが加えて真っ先に食べられそうなポテトとソーセージも頼んだ。ビールは小にした。他の飲む人は中ジョッキ。妹の旦那は夜勤明けで眠いだろうにいつもどおり爽やかな顔でうまそうにビールを飲んだ。彼は警察官で妹は介護士で、ふたりは4月に結婚式をあげる。パソコンの前に座ってるだけの私の仕事とは訳が違う。妹の旦那はたしか警部補で、取り調べとかやるようになってから口が悪くなったというが、義兄の私には好青年なとこしか見せないから想像もつかない。私はすき焼きを勢いよく食べた。妹が残した海鮮丼の残りも食べた。セットのデザートまで食べた。さすがにお腹が破裂するかもと思った。妹の旦那は明日も仕事かもしれないので、熊谷駅まで送り届けて1人で帰っていく。妹と私と妻は今夜は実家に泊まってく。

2月16日(日)

きのうの晩、8時に起きると母に言ってしまった手前、最長でも8時半までしかベッドの中に居られない。昨日寝たのが1時だったから、休日としてはやや不足感のある起床。パンを焼き、サラダと卵焼きとヨーグルトを食べた。妹は納豆ごはんのひとくちがでかい。口は小さいのに、なんで一気にそんなに入れるんだ。

昨日の昼に行こうとしてたうどん屋に今日行くつもりでいたのだが、そこがまさかの日曜定休で、昼は別のうどん屋に行くことになってて、その前に父方の実家にお土産の鳩サブレーを渡しがてら、遅れた年始のご挨拶。そして墓参り。洗濯掃除をやってる母を残して4人で祖父母宅まで歩いてく。昨日の夜、父がおもむろに祖父母宅に電話をしてかき餅(ついた餅を細く切って醤油を染み込ませてお煎餅みたいに固く焼いたもの)を仕込んでもらっていた。15分くらい歩いて着くと、庭のあちこちに切り干し大根が干してある。ふわふわで毛皮みたいだ。

せっかく外はあたたかいのに日当たりの悪い居間で祖父は掘り炬燵に足を下ろしている。新聞を見ている。祖母がお茶と煎餅を出してくれる。昼前なのについ口に運ぶ。誰がいるのかも知らない仏壇に線香をあげる。線香を半分に折るのは妻の実家の流儀なので、この家でやったら奇異の目で見られた。しかも半分をストーブの裏に落として取れなくなった。振り子時計が11時をうるさく知らせる。交通費および鳩サブレー代と称してお小遣いをもらう。ありがたい。そういえば左足首の痛いのはいつの間に治まった。

そこから妹の結婚式の話になるが会話がこちゃこちゃと拗れてなんか面倒なので切り上げて墓参りにむかう。墓参りとか書くと先祖を大事にするやつみたいだが、この家の墓に行くのは生まれてこの方はじめてだ。親族と確執があるとか住んでる場所が遥か遠いとかなら分かるが、そんなんでは全くなく、歩いて行ける距離にある墓に私は30歳になるまで一度も行ったことがなかった。妻にとってそれは信じがたいことのようだった。たしかに私や妹が直接知る人はこの墓にいないが、それにしても父はたまには来ても良さそうだが、父も私が生まれてからはほぼ初めてなんじゃないだろうか。ほんとうにただ、訪れていなかった。というわけで父も墓のありかを知らないので、祖父がありえない低速の自転車でついてきて場所を案内してくれる。墓はほったらかし状態なのかと思ったら、むしろ周りの墓石より綺麗で浴槽みたいにツルツルだった。墓石の側面に掘られた文字で、祖父が平成一九年に建て替えていたらしいと分かる。ふだんは寺の人が管理してくれてたりするんだろうか。
車で来た母と墓のところで合流する。
父は昨日から、墓じまいをする、してもいいよね?とか聞いてきて困る。本気とは思わないけど、私は地元に住むつもりはないから墓でもないとこの土地は、いずれ帰る用すらない場所になる。そうならないためにも私は墓はこのまま残した方がいいと思う。お世辞にも立地がよいとは言えないが、この国道沿いの、田んぼや畑があってその上を新幹線が走ってて、そのずっと奥に山なみが見えてるこの景色のなかに埋まるのが、自分には合う気がする。妻がどうかは分からないけど。というか妻や妹は原則として自分の親と同じ墓には入らないのかと思うと、別に苗字が変わったり親元を離れたりすることに婚姻の暴力性はあまり感じなかったが、親と一緒の墓に入らない前提でことが進むというそのことは、急に暴力的であるように思えてくる。生きている間はいつでもそこから抜け出せる。でも死んで骨になって墓に入れられたら、自分の気持ちや行動ではもうどうしようもない。

車で移動してお昼はうどんを食べる。思ってたより味が濃かった。当初行く予定だった店へのリベンジを誓う。
家に帰って、気温が下がらないうちに荒川の河川敷にあるグラウンドまでみんなで歩いてった。お正月にここであげるつもりで買ってた凧がある。風はない。走って走ってようやく上がりそうになって、やっぱり上がらない。疲れはてて、ベンチに座って妻と母と私は持ってきたキリンの缶ビールを飲む。飲めない父と妹は炭酸ジュース。だらだらしてると風が吹いてきて、いまだ!と思ってふたたび試す。妻が持ってくれる凧から伸びる糸に、さっきまでなかった突っ張りを感じる。妻が手を離すと凧は自然と空にあがった。父が言うとおり手で引いて煽るとぐんぐん上にのぼっていく。蛸が泳ぐ時みたいな動きだと思った。その上昇が糸づたいに右手に伝わる。糸を伸ばしてって、もう凧はかなり高いとこにいる。30秒くらいして風がやみ、芝生に落ちた。あっけない。父か母がみつけてきたソフトボールを投げたり蹴ったりして遊ぶ。妻はたぶんもうとっくに飽きてて、芝生に三角座りしてる。つまんなそうな妻を尻目に、私と妹と父と母はとにかくもう、へとへとになるまで遊んだ。さぞかしガキっぽい家族だと思われたに違いない。

シャワーを浴びて17時ごろの電車で帰る。檸檬堂の限定のやつを買ってグリーン車で飲んだけど、普通のやつのが美味しかった。この日記はその車内でだいたい書き終えた。遊びすぎたせいで翌日以降腰がめちゃくちゃ痛くて、ふつうに仕事を休んだ。


奈良原生織
埼玉県出身。足腰を故障しないため、姿勢をよくする必要があるという。姿勢がよいのはダサい、猫背がかっこいい、みたいな思想からさっさと縁を切る必要があるという。


【「火を焚くZINE vol.1」発売予定】
◆各書店でお取り扱いいただいています。
〈東京〉
機械書房(水道橋)
書肆書斎(梅ヶ丘)
古書防波堤(吉祥寺)
百年(吉祥寺)
BREWBOOKS(西荻窪)
〈茨城〉
生存書房(土浦)※欠品中

BOOTHでのオンライン販売を開始しました! 
紙の本は増刷までしばらくお時間をいただきます。電子書籍版はいますぐお買い求めいただけます!

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集