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ふつうの人|11月15日(金)奈良原生織


前日の日記でさざわさんが

「仕事をしながらパートナーや友だちと過ごし、たまに旅行に行き、ジムに通い身だしなみをととのえ家ではネットフリックスを見ている」みたいな「ふつうの」人間なんてほんとうはひとりも存在しないんじゃないかと思う。


と書いていて、それ私だよ、と思った。ジムには通ってないが。

生活を要約するとだいたいそのようになるが、じゃあどうしてそんなことが可能かというと、あんまり家から出ないからです。

前日は珍しく飲み会があって二日酔いぎみだったので今日はもちろん在宅勤務、10時に起きて11時に始業。頭がボーッとしている。昨晩の会食でちらちらスマホを見ていたことを上司とのテレカンで叱られる。あっすいません、でも… でもなに? いやなんでもないです。素直に謝れない大人って最低だな、と思う。

最低なふつうの大人だからふつうじゃないことが起きるとどうすればいいか分からなくなる。家の横の公園には夕方になると放課後の子どもたちが遊びに来る。引っ越してくるとき不動産屋はその騒がしさを物件の瑕疵のように説明したが、私はそうは思わなかった。もう四年住んでいる。子どもの声が聞こえるというのはいいものだった。

うつらうつら仕事をしていると何か固いものが家に激突した。ただごとではないと思ったが正常値バイアスで仕事を続ける。もう一度音がしたときようやく家の周りを点検すると公園に面した窓の下へ男の子が潜り込むように入っていった。「あった?」「なーい」「ちゃんと探せよな」ワイルドピッチがうちの壁に当たったんだと分かった。二回もかよ。
ボールが見つかって二人組はまたキャッチボールをはじめた。うちの窓をまっすぐ目指して放たれたボールを手前の子はまたしても取り逃しゴロが家と公園をへだてる低い柵にあたる。注意してやめさせようかという考えが浮かんだ。公園でボール遊びが禁止されているのは知っていた(とはいえみんなやってるし、普段は私も気にしない)。でも出て行って子どもたちに向き合ったときなんて言えばいいのか。「公園でボール遊びは禁止だよ」?「うちの窓が割れちゃったら弁償できるの?」?「もっと上手になってからやってくれる?」? 
こういうときふつうの人ならどう伝えるのかが分からないから、私は行動できなかった。そのうち日が暮れて二人組は帰って行った。
夕飯に松屋のハンバーグ定食(テイクアウト)を食べながら妻にその話をした。そしたらもやもやも晴れたからもう気にしないことにした。これからもずっとずっと「ふつうの人」であるために。

ネットフリックスのメルマガが「地面師たち」の続きを見るように勧めてきた。断って、明日に備えて全員分の原稿をいま一度読み直す。


奈良原生織
北関東の平野で生まれ育ち、現在は神奈川県横浜市在住。小説を書く会社員。現在、髪をいけるところまで伸ばしている。ポメラニアン(キングジムのポメラを愛用している人のこと)。

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