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vol.6 夢を失う恐怖を乗り越えて希望を見つける方法―光はすぐそばに


それは、深い霧の中に突然射し込んだ光のようだった。息苦しいほどに私を縛りつけていた「食」に対する恐怖が、まさか救いへと変わるなんて。その時の私には想像すらできなかった・・・



絶望からの回復と人生の転機


モデルとして生活するには、仕事だけでは到底足りず、私はオーディションの合間を縫ってカフェで働いていた。小さい頃から、海外ドラマの中に出てくるようなカフェに憧れていた私にとって、明治神宮のカフェはまさに夢の空間だった。店内に漂う焙煎されたコーヒーの香ばしさ、エスプレッソを片手に語らうカップルたち、静かに自分の時間を楽しむ人々・・・その空間にいるだけで、私の心は一瞬で軽くなり、嫌なことやダイエットの苦しみから解放された。



ある日、私は姉妹店に移ることになり、心を弾ませながらそのカフェへ向かった。しかし、扉を開けた瞬間に私の期待は崩れ去った。冷たく感じる空気感、閑散とした店内、そして・・・店員たちの無気力な姿。その場にいた誰もが、ただ時間をやり過ごしているだけのように見えた。そこには、私の心を癒す空気感も温もりもなかった。


その店には「魂」がなかったのだ。空間というのは、そこにいる人々のエネルギーで彩られるもの。笑顔や前向きな気持ちが溢れれば、自然と人が集まり、活気が生まれる。しかし、無関心や無気力な空気が漂う場所には、必然的に負のエネルギーが支配する。自分がどんなエネルギー状態なのか、きっと周りを見渡せば一目瞭然。だって、相手を映し出すのは自分自身だから・・・


そんな中、オーナーからの一言が私の運命を大きく変えた。
「好きにやってみて」その言葉に驚きを隠せなかったが、自分の世界観を自由に表現できるチャンスが目の前に広がった瞬間だった。


私はその日から、無我夢中でキッチンに立った。チェリーパイにブルーベリーパイ、キッシュにチリコンカン…試行錯誤しながら、メニューを一新していった。やがて、スタッフも少しずつ入れ替わり、店内には明るい空気が戻り始めた。気がつけば、ランチタイムには長い行列ができるまでに成長していた。


笑顔の連鎖がもたらした変化ー心の成長と自己発見


朝、焙煎したてのコーヒーの香りが店内を満たし、心地よい音楽とともにカフェがゆっくりと目を覚ます。その光景を見ながら、私の心に潤いが戻り始めていた。その後も、様々なお店の立ち上げや商品開発に携わり、いつしか食への恐怖感も罪悪感も消えていた。なにより、痩せることへの執着もモデルへの執念も手放し始めていた。


あんなに怖かった「食」が、いつしか私にとっては大きな喜びへと変わっていた。「美味しかった」「こう言うのをずっと食べたかったのよ」そんなお客様の声が、枯れ果てていた私の心に、新たな命を吹き込んでくれた。



かつての私は、他人の評価に左右されることばかりだった。期待に応えたい、認められたい、褒められたい・・・そうやって自分の価値を他人に委ね、期待に応えられないときには、苛立ちと自己嫌悪に陥る日々。でも、ここでは違った。自分が信じるものを創り出し、それを純粋に喜んでくれる。そんな誰の感情にも左右されない日々に私の心は満たされていった。


私の作った料理で笑顔が生まれ、人々が楽しそうに会話を交わす。それはまるで、私自身が作り上げた小さな「幸せの連鎖」だった。いつしか、私にとって食も人間関係も自然なものとなり、心から笑える日々が戻ってきたのだ。


人生は時に、予想もしない出来事が起こる。夢を失う恐怖に絶望を感じるどころか、新たな道を切り開く転機となることもあるのだ。逆境の中でも光は常にそばにあり、人生の転機を迎えるチャンスがあるからだ。
なぜなら、夢を失う絶望や恐怖はただのまやかしに過ぎないからだ。本当の絶望は、そんな感情すらも忘れてしまった時。そんなまやかしに気づくことが出来れば、自然と未来は切り開かれていくのだ・・・


でも、この時の私はまだ知らなかった。この安らぎの日々の先に、予期せぬ転落が待ち受けていることを…

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