
vol.7 光を奪われた世界ー運命の囁きと暗闇への疾走
何気ない日常がどれほど平穏で幸せなのか・・・
やっと自分の居場所を見つけることが出来た私は
これまで以上に充実した日々を送っていた・・・はずだった。
1.忍び寄る違和感
”ここが私の居場所”
これまで風通しの悪い世界で生きてきた私にとって、
充実感溢れる日々は、これまでの悩みや葛藤が嘘のように、
楽しい日々だった。
様々な飲食店に携わるうちに芽生え始めた新たな夢や目標。
『本格的に食に携わるお仕事をしていきたい』
逃げるようにモデルの世界から離れた私は
もうあれほどの強い思いを持てる夢に出逢えることは
二度とないと思っていた。
だからこそ、もう二度と夢を失いたくない…
なりふり構わず懸命に走り続けた。
しかし、それこそが未だ抜け出すことの出来ない
トラウマであり執着だったのかもしれない。
じわじわと忍び寄る心と体の違和感を感じ始めたのは、
あの人生を変えた数か月前の出来事だった・・・
「最近、妙に体が怠いな・・・」
そんな違和感を感じながらも、ちょっと疲れているだけ
くらいにしか思っていなかった。しかし、その後も、
とめどなく訪れるこれまで感じたことのない感情や体の不調。
些細なことにイライラしたり、敏感なほどに人の言葉に一喜一憂する。
また、突如涙がこぼれて止められない。
悲しい訳でもない
何かがツラい訳でもない
だけど無性に心が痛い
そして、倦怠感に浮腫み、食欲不振と身体的な不調が
さらに心を疲弊させていった。
『わたしの身体に一体何が起きてるの?
このままどうなってしまうの・・・』
次第にそんな不安に襲われるようになった。
執着やトラウマは、恐怖や不安から逃れるために
時に現実から目を背けることがある。
この時の私は、既に体が悲鳴を上げ限界を迎えていたはず。
それでも、そんな現実を失いたくないその一心で
本当に大切にしなければいけない自分自身の心と体を
またも疎かにしてしまったのであった。
誰かに弱音を吐けるほど強くない。
誰かを頼れるほど自分の心が育まれていない。
一見、真逆に感じるけど
自分の弱さを認められる人は強い。
誰かを頼れる人ほど心の柔軟性が高い。
2.転機となる出逢いと人生のターニングポイント
そう感じ始めた頃、お店に一人の男性が訪れた。
その男性は、コーヒーを飲みながら、こちらをずっと眺めてくる。
お店が落ち着いてきた頃に、話しかけてきたのだ・・・
聞けば老舗の洋菓子店をもつ会社の社員の方だった。
男性はこう言った
「麻布十番にこれから新しい業態の店舗を立ち上げます。
一緒にやってくれませんか?」
本格的に食の道に進みたいと感じ始めた頃から
食の道に進む道筋を調べ始めていたこともあり、
今のお店を辞めさせてほしいと願い出ていた私にとって
まるで引き寄せのように夢に近づいていく・・・
早速、その男性に今の状態、そして自分が目指したい道を伝えた。
すると、嬉しそうに私の話を聞きいてくれた。
自分の覚悟、そして良き理解者の存在は、
進む道を照らしてくれているようだった。
望んだ道が開かれていく、そう感じて私は一層心が弾んだ。
そして何よりも、これまで見て見ぬふりをしていた心と体の違和感を
やっと素直に受け入れた瞬間でもあった。
なぜなら、今のお店にいる以上
私が無理を強いらないとやっていけないと
勝手に責任感を背負い込んでいたから・・・
だけど、夢に一歩近づいた瞬間、
『ちゃんと心と体を休ませてあげよう』
期待や評価を手放した時
やっと自分自身に目を向けることが出来たのだった。
しかし、少し遅かった・・・
3.暗闇に消えた世界
そんな翌日
突如、発作を起こし意識を失った。
目を覚ました世界は、これまで築いた世界は何一つ存在しない・・・
『私に何が起きたの?』
苦しくて怖くて、不安で・・・
まるで霧に覆われた先の見えない暗闇に
一人置き去りにされたような
そんな孤独感が一気に襲ってきたのだった。