映画に観る整理収納vol.19 「枯れ葉」編
整理収納アドバイザーひつじが鑑賞した映画を整理収納を切り口に好き勝手に語っています。
突然の引退宣言から6年。アキ・カウリスマキの新作はとても素敵で、2回観に行ってしまいました。
主人公は男女2人。ホラッパとアンサ。
金属工場で働くホラッパとスーパーで働くアンサはある日カラオケバーで出会う。
一目でお互いが気になりながらも声がかけられない内気な性格だ。
二人が厳しい日常を送りながらも愛を見つけてゆくものがたり。
潔さにシビレル
二人とも労働状況が悪く、日々の暮らしだけでいっぱいなことが日常の描写を観ているとわかります。
一瞬「いつの時代だろう?」と思わされるほど質素で現代的な要素が少ない部屋は、古いラジオからのウクライナ侵攻のニュースが流れてこなければ40〜50年ほど前の時代設定と思いそうです。(ラジオからは竹田の子守唄なんかも流れてくるし・・・。)
部屋にはダイニングセットとソファと少しの家具。寝室は別にあるようだけれど、とてもこじんまりしています。
出会ってしばらくしてアンサは彼を家へ食事に誘います。
当日、良い雰囲気だったのにホラッパが隠れてお酒を飲んでいるのをアンサが見てしまい、「アル中はごめんよ」と言い放ち、二人は険悪になってしまいます。
そして、ホラッパが出て行った後、なんとアンサは彼のお皿やカトラリーをそのままごみ箱に捨ててしまいます。
潔い・・・。びっくりです。日々の暮らしもままならない中で(少し前のシーンでは電気代節約のためにラジオも照明も切っていました)彼との食事の為だけにわざわざ買ったお皿とカトラリーだったのに。
お皿ごと、あまり表情も変えずにスパッと!
一瞬「ああ!」と言ってしまいそうになりましたよ。そして暫くして、ホラッパから「酒を辞めた」と連絡があるとアンサは「すぐ来て」と。
ここもとっても素敵です。
迷いなく、芯の通ったアンサの選択はいつも潔くかっこいいなあと思いました。
自分の選択基準がしっかりある。だからモノの持ち方も必要なモノを必要な分だけ持っているのでしょう。
潔さにシビレマス。
私はと言えば、なかなかあの域まではまだまだです(笑)
モノを活かすその他の登場人物
ホラッパが酒を断ち、アンサの家に向かう時に同じホテルに泊まっている赤の他人の男の人に「ジャケットを貸してくれ」と頼む場面があります。
するとその男の人は「もう使わないから持っていけ」とジャケットをあげてしまします。
ちょっとリアルでは考えにくいおとぎ話のような場面ですが、とっても好きな場面です。
結局その後に事故にあってアンサに元へは行かれなってしまうのですが、
怪我をして入院した病院を退院するときには、看護師がホラッパに自分の元カレの洋服をあげる場面があります。
「返さなくていいわ、もう帰ってこないから」確かそんなセリフを言います。
誰かにとってはもう用のないモノが自然な流れの中で必要な人に引き渡されてゆくのは嬉しいです。
構図や配色が素敵
アキ・カウリスマキ監督が小津安二郎監督を敬愛していることは
有名ですが、画面の中にはその影響が色濃くありました。
赤いモノをポイントとして配置する手法はもはや赤がない場面を探す方が困難なほど。青みがかったブルーとオレンジがかった赤がとても好きな配色で、終始その素敵な世界に浸れました。
また、人物や家具、背景の配置もとても整然としていて収まりがよいのも、ものがたり全体の無駄がなくスッキリとした空間を作っていました。
音楽も新旧入り混じっていてとっても素敵でした。、個人的にはライブの場面で登マウステテュトットというバンドの曲が何とも言えず良かったです。
Youtube動画で見られますから興味のある方は是非。
「PerfectDays」の時も思いましたが、同じような毎日でも同じじゃない。それが人生なんだということをしみじみ感じました。
特に毎日戦闘のニュースが流れる今だから、好きな人と一緒に時を過ごすということがどれほど大切なことなのかを思い知らされます。
松葉杖をつきながら一所懸命歩くホラッパを振り返らずスタスタ歩いてゆく
アンサの力強さに少し希望を感じつつユーモアをありがとうと言いたい映画です。