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「上京と本屋」 haraco

上京して最初に住んだ街は、駅前にスーパーとコンビニ、わずかな商店、そして本屋しかない寂しいところだった。生活するには困らないが、おもしろみのない街。ただ、本屋があることだけが私にとっては救いだった。

その本屋は、都内に展開するチェーン書店のひとつ。品揃えは可もなく不可もなく。雑誌、文庫、新書、マンガ、少しのハードカバー、児童書、趣味本、資格本など一通りそろった、ありがちな街の本屋だったが、本屋にしては珍しく深夜1時まで開いていた。

当時は仕事がとても忙しく、22時前に帰宅できればラッキーだった。ショッピングにも飲みにも行くことはなく、ただ家と会社の往復をするのみ。そんななか、唯一の楽しみが本屋に行くこと。

私は、ほぼ毎日その本屋に通った。何を買うでもなく、ただ本屋に通っていた。雑誌を立ち読みしたり文庫を吟味したりして1時間ほど滞在することもあれば(それほど大きな本屋でもないのに…)、何も手にとることなく店内をぐるっと見て3分ほどで出ることもあった。

帰宅が0時を過ぎても本屋に行った。早く家に帰って少しでも睡眠時間を確保した方がいいのに、と思いながらも本屋通いを続けた。私はその本屋に癒やされていたのだと思う。家に帰る前に本屋に行くことで、リフレッシュし1日をしっかりリセットできていたから、ハードな日々を乗り越えられたと思っている。

仕事にも都会の暮らしにも慣れたころ、その本屋は閉店してしまった。

今、わたしが住む街は、駅舎内に本屋がある。やっぱり仕事帰りにはふらりと立ち寄ってしまう。

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