日本で「学び直し」や「ジョブ型」が浸透しない理由: 「社会人の海外留学といえば"MBA"」という固定観念を捨てよ
News Picksで以下のような記事を読みました。
私自身、同様に海外大学院(イギリス)への私費留学をした経験もあり、記事や取材された内容自体には大変共感させていただくことも多くあり、この方のように積極的に新しい環境へチャレンジする人たちがどんどん出てくると、日本ももっと活性化するのではないかとワクワクしながら読んでいました。
ただ一方で、この手の記事で特集されるのは、たいてい"MBAを取得された方"であることに違和感を感じることも多くあります。
それは、日本人の中に「社会人が"大学院"に入って勉強をする=MBAを取得すること」という固定観念があるからではないかと感じています。
そもそも、大学院という総括的な組織の中にビジネス・スクールというビジネス系のコースが集約された機関があり、さらにその中の一つに経営学に特化したコースがあり、さらにそのうちの修士課程(マスターコース)のことを「MBA(Master of Business Administration: 経営学修士)」と呼ぶのだということを、どれだけの人が正しく認知されているでしょうか。
世界的にも(特に、アメリカ)、MBAがビジネス・スクールのメジャーコースであることは間違いないと思いますが、ビジネス・スクールにあるのはMBAだけではなく、Accounting(会計学)、Marketing(マーケティング)、Human Resources(人事)を合わせた四大コースが同じような学術レベルで存在しているというのが通常です。(大学によりますが、通常はビジネス・スクールとは別の機関としてLaw School(ロー・スクール、法学コース)がありますし、公共政策系のコースや社会科学系、理系のコースももちろんあります)
簡単に言うと、MBAでは、上記その他の三コースの内容についても広く・浅く学びつつ、経営者として必要な資質・スキルを学んでいくことになります。
私は、あくまで人事のスペシャリストになることをキャリアの目的としており、その目的に沿うと会計やマーケティングの知識を専門的・学術的に学ぶ必要は無いと判断したので(そもそも、会計という数字だけを扱う分野が苦手だったこともあります。。)、Human Resourcesのマスター・コースに進学しました。
日本の大学の大学院・ビジネス・スクールにおいて、MBAとロー・スクール以外のビジネス系コースが有名なところは現時点で皆無といって過言ではないと思いますが、そのことが、多くの日本人の方が「社会人になってから大学院での学び直し、あるいは海外大学院への留学といえばMBA」と思い込んでしまっている原因の一つではないでしょうか。
あるいは、鶏と卵で、メンバーシップ型・総合職という極めて特異な雇用形態を採用している日本社会において、そもそも社会人になってから大学院へ学びに戻る慣習が無いために確固とした地位を持ったビジネス・スクールが育たないという経緯かもしれません。
いずれにせよ、MBA以外のビジネスコース、さらにその他の修士・博士課程コースに対する認知度が低すぎる日本において、国内で学び直しを推進することは難しく、そもそもそれを行うための機会提供も十分に無いということです。
さらに、そのような環境ではジョブ型の基本となるスペシャルティ(専門性)を習得することもできないし、仮に海外留学などでそれを身に着けて戻って来たとしても、受け入れてくれる土壌も無いということになります。
多くの日本企業が従来の「日本的雇用慣行」を見直し新たな雇用制度を作り、従業員のモチベーション向上と企業としての成長に繋げようと模索している中で、まずは「専門性習得のために、誰もが高レベルの学びを得られる機会」にアクセスできることが第一歩であり、そのためにも我々従業員側の一人ひとりが"学び"に対する正しい知識を持つことが重要ではないかと考えます。
なお企業内人事担当者の方向けに、もし従業員の「自律的なキャリア構築」を推進されるような場合は、本記事のような背景を理解した上で従業員の方々とコミュニケーションを取られることをおすすめします)