人生にスパイスを与える、映画の名言#009 歌いたければ、歌えばいい/自由になりたければ、なればいい/君はどんなものにだってなれるんだ/チャンスはそこにあるんだから
Well if you want to sing out, sing out
And if you want to be free, be free
Cause there's a million things to be
You know that there are
強い自殺願望を持ち、生きる意味を見い出せない19歳のハロルド(バッド・コート)。大金持ちで溺愛気味の母親の元で育ち、その反抗心からか狂言自殺を繰り返し、母親を困らせる毎日。
ある日手に入れた霊柩車を運転し、趣味である他人の葬儀へ参加していると、同じく葬儀には全く関係ない、ひまわりのような明るい傘をさす前向きな老女/モード(ルース・ゴードン)と出会う。死ぬことばかり考えているハロルドと、人生を謳歌し、周囲など全く気にしない破天荒なモード。相対する考えを持った二人は、いつしか心の繋がりを持ち始める。「何があっても懸命に生きて、生きて、生き抜くの!でなきゃ面白くないわ」とハロルドを諭すモードだったが、彼女にはある秘密があった・・・。
日本では1972年の劇場公開以来、衛星放送を含むテレビ放映のみで、なかなかソフト化もされず「幻の映画」と言われてた一本が、この『ハロルドとモード/少年は虹を渡る』。幸いにも2010年に約38年ぶりに再公開され、その後DVDやブルーレイも発売されたことで気軽に鑑賞出来る作品になった。製作から約半世紀経った今でも高く評価され、2008年にAFI(アメリカ映画協会)が発表した”最高のロマンティック・コメディ”のトップ10に選出。またキャメロン・ディアス主演のバカ・コメディの傑作『メリーに首ったけ』で、ヒロインが最も好きな恋愛映画として本作を挙げるセリフが登場したほど、カルト的な人気を誇っている。
監督は1960年代後半からのアメリカン・ニューシネマ時代以降、数々の秀作を生んだハル・アシュビー。元々編集マン(名作『夜の大捜査線』でアカデミー編集賞を授賞)だったアシュビーの監督第二作で、公開当時は興行的に失敗作とされたものの、その後着々と人気を獲得し、公開から10年後の80年代中盤にようやく利益を生んだ。脚本は良作コメディ『ファール・プレイ』『大陸横断超特急』も執筆したコリン・ヒギンズ。彼自身のシナリオを元に脚本を手掛け、後にノベライズ(小説)化もされた。日本でも舞台劇として上演され、今年も黒柳徹子主演の朗読劇として再演予定だ。風変わりなブラック・コメディやドラマ、ラブストーリーとしても、映画史に類を見ない”唯一無二”といえる傑作といえるだろう。何の説明もなく、一瞬だけ映る手首でモードの悲しい過去を想像させる等、細部に込められた深い意味を読み取ると、より本作が楽しめるはず。
今回取り上げた”名言”は、映画全編を彩るサントラを手掛けた、キャット・スティーブンス(現在はユスフ・イスラムとして活動)の「If You Want to Sing Out, Sing Out」の歌詞。正直に言うと、この映画には名言や素晴らしい歌詞が多すぎて、どれを選ぶか数日悩んだけれど、個人的に最も好きなこの曲の歌詞を選んだ。名曲ばかりのサントラだったが長年公式に発売されず、2007年になってようやく本作の大ファンだったキャメロン・クロウ監督が、自身のレーベルから2500枚限定でレコードを初リリース(もちろん即完売)。また今年(2021年)のレコード・ストア・デイで久々に再販されたほど、映画同様に人気を誇る一枚だ。
もしこの文章を読んでくださっている方で、日々の生き辛さや、人生の行き止まりを感じていたら、この映画を興味本位で構わないので見てほしい。これは確かに「死」に魅せられた青年の物語だが、同時に「生」の素晴らしさや楽しむことを、一切の説教臭さを排除して教えてくれる。歌いたければ、歌えばいい。チャンスや機会は、自分が望めばいつだってそこにある。だから精一杯、何でもいいから生きてみよう。そうじゃないと、もったいないよ。
You can do what you want
The opportunity's on
And if you find a new way
You can do it today
You can make it all true
And you can make it undo
You see, ah ah ah
It's easy, ah ah ah
You only need to know
やりたいことを、やればいい
チャンスは目の前にある
新しい方法を見つけたら、今すぐ試してみよう
何だって実現できる
元に戻すことだってできるんだ
分かるだろ? 簡単なことだよ
あとはやり方を知るだけさ
-ハロルドとモード/少年は虹を渡る(1971年)
監:ハル・アシュビー
脚:コリン・ヒギンズ
音:キャット・スティーブンス
出演: ルース・ゴードン、バッド・コート
この記事を書いた人
大石盛寛(字幕翻訳家/通訳)
通称"日本字幕翻訳界のマッド・サイエンティスト"。
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