人生にスパイスを与える、映画の名言#002平和、愛、理解の何がおかしいんだい?
“(What's So Funny 'Bout) Peace, Love, and Understanding?”
平和、愛、理解の何がおかしいんだい?
初老のハリウッド俳優、ボブ・ハリス(ビル・マーレイ)は、ウイスキーのCM撮影のために来日。時を同じくして、写真家の夫に付き添って日本に来たシャーロット(スカーレット・ヨハンソン)は、忙しい夫とは正反対に、退屈な時間を過ごしていた。
ある時ボブとシャーロットはホテルのバーで出会い、互いの境遇を語り合う内に打ち解けていき、二人で東京を散策するうちに、不思議な友情が芽生えていく。
この言葉は仲良くなった日本人と一緒に、渋谷のカラオケに行った際、
ボブが歌うニック・ロウ(Nick Lowe)の名曲(後にエルヴィス・コステロ(Elvis Costello)がカバーし、そちらのほうが有名に)の歌詞の一部。
本作は日本語の部分にあえて英語字幕も付けず、海外の観客に“初めて日本へ来た”演出をすることで、言葉も分からない異国へ来た外国人の気分を味わえるようになっている。日本人には「どこが笑えるの?」といった登場人物の様々な行動が、実は海外の人々にとっては“日本あるある”なコメディになっている。日本では公開当時から“オシャレ系”映画としてウケたのが不思議なほど、実はヘンテコとも言えるコメディ要素が多い。それほど日本という国が、海外から見ると興味深く映っているのがよく分かる。劇中ボブが乗ったタクシーが、新宿・歌舞伎町の光り輝くネオンを映しながら走り抜けるシーンは、本当に異国情緒あふれる瞬間だ。
筆者自身、海外の友人たちと集まって本作を見た際、とにかく彼らは爆笑の連続だった。個人的には「これの何が笑いのツボなの?」と感じてたけど。
劇中、日本人にとって英語の「L」と「R」の発音の区別が難しいことをネタとして使い、「Lip」(くちびる)と「Rip」(引き裂く)を使ったセリフのギャグなんて、字幕があっても簡単には理解できない。まさに原題の「Lost in Translation」(=翻訳の喪失、翻訳で失われたもの)だ。
表題となっているのは、ビル・マーレイがカラオケのシーンで歌う選曲。まさにこの曲の歌詞(劇中で使われてる他の歌も含む)が、本作の「言語を超えた理解」を体現していると思う。曲の歌詞がセリフの代わりになっている好例。異国の地で言葉も分からない中、互いを理解し合える存在に出会えた奇跡。いつも我々が見て、住んで、感じてる日本を、いつもとは違う視点で楽しめます。
-ロスト・イン・トランスレーション(2003)
監脚製:ソフィア・コッポラ
出演:ビル・マーレイ、スカーレット・ヨハンソン
この記事を書いた人
大石盛寛(字幕翻訳家/通訳)
通称"日本字幕翻訳界のマッド・サイエンティスト"。
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