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【水夏 ~おー・157章~】

 2003年7月に発売されたPC用ゲームソフト。CIRCUS製作。同社のアダルトゲームソフト『水夏すいか』のスピンオフ作品にあたる。
 当時学校給食での食中毒を皮切りに社会問題になっていた、腸管出血性大腸菌O-157に対する感染予防意識を高めるための学習ソフトである。
 埼玉県の地元企業であるCIRCUSが、県健康福祉部医療整備課の監修を受けて制作したもので、会話形式で進む全4章(「病原性大腸菌『O157』の基礎知識」「手洗いのすすめ」「調理法の注意事項」「O157の症状と二次感染予防」)のAVG部分と、復習用すごろくクイズの2部構成となっている。

 同県では従前より若者向けを意識して『あずまんが大王』のポスターを制作するなど、キャラクターを用いた啓発に積極的であり、またCIRCUSとも県の保健事業として中高生向けに配布されたAIDS相談カードイラストを担当していた実績があった。
「おー・157章」はすでに2001年に発売された別ゲーム『Infantaria』の設定原画集本や、雑誌『Colorful PUREGIRL』2002年12月号などで企画が進行していたことが語られており、社長はゆくゆくはAIDSや性感染症、ハンセン病などについての啓発ゲームも作りたいと意欲を語っていた。

 本作の特徴は、CIRCUSの既存のアダルトゲームソフト『水夏すいか』のスピンオフ作品であること。一般販売と県内の自治体や教育機関にも配布される予定であった。公的予算がかかっているため、同社の既存のゲームのキャラクターを流用することで費用削減を図ったものだ。

 ところが、県会議員がこれに目をつけ「AV女優が授業に出てくるようなもので、教育の場にふさわしいとは思えない。県議会の文教委員会で取り上げたい」として問題化。

2002年11月13日『夕刊フジ』 

 仮に授業にAV女優が出てきたとしても、その授業内容ではなく職業経験だけを問題にして排除するのは単なるセックスワーカーへの職業差別である。
 むしろこの議員の言葉こそが問題であり、のちの性教育サイト【セイシル】にフェミニストからなされた中傷とも同根の差別意識を孕んでいる。

 また『水夏』はエロシーンの多用よりもセンチメンタルなストーリー展開に重きを置いたいわゆる「泣きゲー」であり、全年齢版(ドリームキャスト版及びプレイステーション2版)も発売されていたため、仮に「興味を持った子どもが検索して購入する」といった事態を想定したとしても、18禁版を購入することはできず、全年齢版でそのストーリー背景が理解できるものである。

 しかし結局埼玉県は本作の監修を辞退し、2003年から一般販売のみされることとなった。

 児童の健康や安全のためのキャンペーンに善意の地元クリエイティブ企業が協力をしたが、狭量で差別的な議員がそれを妨害することで頓挫する――という、のちの【戸定梨香】事件を予習するような展開となった。

参考リンク・資料:

2002年11月13日『夕刊フジ』

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