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【那个(ネイガ)】
中国語で「あれ」「あの」を意味する言葉。性器の隠語とかではなく本当に指示語の「あれ」である。
また日本語の「ほら、あれあれ……」のように、言葉が出てこないときに間を持たせるために使われる言葉(いわゆるフィラーワード)でもある。
2020年8月20日、南カリフォルニア大学マーシャル経営大学院のグレッグ・パットン教授が、オンライン授業でこの単語を説明した。
そのために彼は黒人学生グループから大学に苦情を入れられ、授業から外されるという事件が発生した。
この那个はカタカナにすればナーグ(nà・ge)、またはネイガ(nèi・ge)に近い発音をする。それが黒人を侮蔑する差別用語とされる【nigger】に聞こえたというのが教授が処分を受けた理由である。
これが中国語でありthatの意味であること、そしてフィラーワードとして文頭に挿入される言葉であることもパットン教授は明瞭に説明していた。さらに「国によっては別の意味に聞こえるかもしれないが」と断りも容れている。
しかし翌21日、黒人学生グループが学部長に対して陳情書を提出した。
「中国語は1万文字以上ありますが、このフレーズを使うことは有害であり、南カリフォルニア州マーシャル経営大学院のコミュニティにおいて受け入れがたいことです。私たちの教授の犯した過失と蔑視は明白なものです。『教授は人種意識や共感力にかけており、私たちと同様に多様な学生を指導し教えることができない』と知りながら、残りの2週間の授業を受講するのことは、受け入れられるものではない。」
繰り返すがこの単語の意味は「あれ」であり、人権意識だの共感力だのがあろうがなかろうが、どう考えても中国語学習では避けることのできない単語である。
しかし学部長は8月24日に「教授が英語における下品な人種差別用語を使ったことを謝罪」する旨のメールを全学生に送付し、パットン教授が授業から外されることを了承したことを伝えた。また、副学部長や他教授と連帯して「人種差別的バイアスやマイクロアグレッション、不平等の問題に対処」すると述べている。
マイクロアグレッションとは、差別的偏見に基づく見下し・侮辱・否定的な態度が、何気ない日常の言動に現れることを指す。
パットン教授が授業で「那个」を教えたのは、差別的偏見に基づいてのことでもなければ、人種差別的バイアスでもまったくない。パットン教授自身の心理とは一切関係なく、遠い中国で、アメリカで奴隷制が始まるはるか昔に発祥した言葉を教えたにすぎない。
あまりに理不尽な処分に、ネット上ではパットン教授の復職を求める署名運動が起こっており、2021年1月現在で26000筆以上の署名が集まっている。
(署名運動へのリンク)
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参考リンク・資料:
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