「カード・カウンター」鑑賞後メモ
「同じことの繰り返しだ。どこかへ向かっている気が全くしない」と話すカーク(タイ・シェリダン)に対して、「ああ。ひたすら回ってるんだ。納得いくまでな」と返す主人公のウィリアム・テル(オスカー・アイザック)らふたりの劇中におけるこのやり取りに今作が語ろうとしていることが端的にまとめられているように思えた。ブラックジャックや拷問というモチーフを通して語られるのは、人間があらゆる物事において「負けた」と感じる心の動き、そしてそれを引き起こす根本の感情とは「納得が出来ない」という単純ではあるが激しい戸惑いや不安なのではないかということについて、だ。本編を通してカジノ会場やブラックジャックの現場にたびたび姿を現しては「勝ち」続ける「ミスターUSA」と、ブラックジャックにおけるチャンスと引き際を見極めるための高等技術であるカード・カウンティングによって納得がいくタイミングで手を引いていくウィリアムとの対比によって先述したようなテーマが浮き彫りになっていく。まるで何かから逃げるようにひたすら同じ物事を繰り返し続けているようで、実はそれは、そのひと自身にとって最も恐ろしいものに対して途方もない時間をかけて向き合おうと、納得しようとしている過程なのではないか、というひとつの人生論めいたものをこの作品から受け取った。