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先輩と傘

1年前まで、傘を忘れてくるのが得意だった。

朝持って出た傘をそのまま手にして帰ってくることがほとんどないため、家にはいつも傘がなかった。

突然雨が降った日には、会社の置き傘のようになってるビニール傘の束から1本拝借することも多かった。



ある雨の日、いつものように借りようとしてる私に先輩が教えてくれたこと。


「ちゃんとした傘を1本買うといいですよ。」



高いものを買ってもすぐ忘れてしまうから、と何となく居心地悪く答える私に先輩は続けた。

「これだ!と思うものを探すんです。雨の日が楽しくなるような、そんな柄を。

そうしたら、きっとどこかに置いて忘れるなんてことなくなります。」


先輩も元々ビニール傘派だったらしい。

二十歳の頃、当時の職場で自分より若い女の子が雨の日は毎度同じ傘を持ってきてるのに気付いた。
その時に、自分よりずっと大人ではないか、と内心恥じたそうな。

そうして直ぐに良い傘を買った。

赤と白のペロペロキャンディみたいなポップな傘。
どこかに置き忘れても、説明すればすぐに分かる。
お気に入りの可愛い傘。

10年来の付き合いだと言う。




今日久しぶりにその傘を持ってる先輩を見て、ふと1年前のことを思い出したのだ。

かくいう私もその話を聞いてからすぐさま傘を買いに行った。影響されやすい性なんです。


そこまでお高くはなかったけれど、白と淡い水色のちょっと華奢なお洒落な傘。
雨の日は毎回お世話になっている。
ビニール傘に頼ることも、どこかに置いてくることもなくなった。


今やアイカサという傘をシェアリングできるサービスもある。
ものすごく便利になった。さらに正直、雨風を凌ぐには、ビニール傘でもなんら問題は無い。


だけどもそういう時代だからこそ。
良いものを長く、丁寧に大切に使うっていいなあと思うのだ。



傘が壊れてしまって買い換える度に、きっと先輩を思い出す。そして、その想像の中の先輩は、赤と白のポップな傘を持っている。


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