姉に副業をすすめる
2020年、コロナ禍で東京に住む姉が在宅勤務になった。自由な時間が増えた一方で、収入が減るかも知れないと話していたので、私は改めて副業を勧めた。父のカードを作ってネットで販売したらいい、と前から何度か話していたが、姉の反応はいつもよくわからない感じで。まあ、そんなに乗り気ではないのだろうと思っていた。
姉は私よりも父と仲が良かった。離れている分、関係は良好だったと思う。近くにいるといろいろと難しいことは増えてくる。特に親が年を取り、親子の関係性が変わってくるという局面では、なおさらではないだろうか。私は突然介護が必要になった父との関係に、自分がどう対応したらよいのか、分からなかった。どうしたらよいのか分からないまま、父を病院に送り、子どもを保育園に送り、仕事をして家事をする日々に、ただ追われた。すっかり頼りなくなった父にいら立ち、子どもを急かし、朝起きてから夜眠りに落ちてしまうまで、自分自身も常に何かに急かされていた。そして朝目が覚めるとまた、同じような駆け足の一日が始まる。そんな中で私は自分自身を見失っていった。父が亡くなったのは、そんな日々に少しだけ変化の兆しを感じ始めた時だった。
父が寝起きしていた部屋は、その後私の仕事部屋になった。そうなると、いよいよ押し入れに入れっぱなしになっている父のカードの荷物は、姉に送ってしまいたかった。カードを作るような芸術的なセンスを受け継いでいるのも、姉だ。
今回もはっきりしない姉の反応にはあまり気づかないふりをして、「とりあえず、とりあえずやってみたらいいよ」と言って、最低限これだけあればカードが作れるだろうという荷物をまとめた。
カードの図案を印刷した紙、カッター、カッティングマット、紙に穴を開けるピン、定規、そのほかもろもろ。必要なものはすべて父の荷物の中にそろっていた。いざ出してみると、もう何年も押し入れに入れっぱなしで、使っていなかった道具たちが「わたしたちまだまだ現役ですよ」といっているような気がした。久しぶりに集まったかつての戦友たちが、再会を喜び合うような、力を取り戻して称え合うような。それを見ている私もどこか懐かしさを感じていた。